【戸塚啓コラム】勝つためにサッカーをしたのはどちらのチームか
W杯予選の大一番だった9月のクロアチア戦は、スタジアムが暴力的な空気に満ちていた。物々しい警備が緊張感を高めた。ピッチ上で繰り広げられた攻防も、恐ろしいほどのハイテンションだった。
セルビア対日本戦は、違った。
会場となったノヴィ・サドのカラジョルジェ・スタジアムには、どこかのんびりとした雰囲気が漂っていた。現役最後の雄姿を披露したスタンコビッチには盛大な拍手が降り注いだが、それにしても観衆は１万人に満たなかっただろう。
ヨーロッパ各地でこの日行なわれたW杯予選をテレビで観ると、カラジョルジェ・スタジアムの空気が弛緩したものに感じられてならない。ＣＬはおろか欧州各国のリーグ戦と比べても、アウェイの緊迫感は薄かった。
ブラジルW杯予選ですでに敗退が決まっているセルビアは、モチベーションを見つけるのが難しい立場にある。そうした背景から、ミハイロビッチ監督は経験の少ない選手を積極的に起用した。
代表定着をアピールしたいフレッシュな選手は、相手のレベルにかかわらず力を惜しまないものだ。「フレッシュ」と言っても、すでに国外でプレーする選手ばかりである。個々のクオリティは高い。日本代表ならハーフナー、乾、酒井宏、酒井高に似た年齢と立場の選手たちが、アジアからの来訪者を苦しめた。彼我の力関係に照らし合わせると、０対２の敗戦は妥当だったと思うのである。
後半終了間際に喫した２点目は、途中出場の細貝のパスミスがきっかけとなった。「個人的には０対１だったと思う」というザックの思いには同調するが、勝機を見いだせなかったのは事実だ。
セルビアに効率良くゴールを奪われた印象だが、では、日本はどれほどの決定機を作り出したか。前半31分の香川の一撃と、後半9分の柿谷、同26分の岡崎くらいだ。
主導権を握る時間帯で決めきらなければ、試合の流れが遠のくのは必然である。コンフェデ杯以降のゲームで、繰り返し思い知らされてきた勝負の分かれ目だ。セルビア戦で初めて突きつけられた課題ではない。
流れをつかんだ時間があったのか、という根本的な疑問も浮かぶ。ボール支配率を高めた時間があったとはいえ、相手の守備ブロックの外側でパスをつなぐ時間が長い。扇状にボールが動くばかりだった。
センターバックでキャプテンのイバノヴィッチが、顔色を変えたのか。味方選手を何度も怒鳴りつけたのか。セルビアの守備陣は、さほど慌てなかった。
ボールが不規則にバウンドするピッチコンディションは、日本のパスサッカーに不向きだった。いつも以上に慎重にボールを処理することで、攻撃のテンポが上がらなかった。自分たちを追い詰めるようなボールの失い方もあった。
ピッチコンディションに苦しめられるのも、何度目になるだろう。臨機応変に対応できないのか、と言いたくなる。
自分たちのサッカーを追求し、自分たちのサッカーで勝利を目ざすのは頼もしく、素晴らしい。だが、実状に即したサッカーをするのも大切だ。
不用意な失い方を減らし、カウンターを浴びるリスクを抑える。なおかつ、相手の守備陣を下げさせる──複合的な意味合いを込めて、こういうときこそロングボールを使ってもいい。攻撃面で吉田が見せた姿勢は、その意味で評価できる。
「フィジカルは強いし、技術もしっかりしている。ワールドカップに出られないようなチームじゃない」と内田が話していたように、セルビアは一定水準以上のクオリティを持ったチームだ。ならば、この試合の日本が相手を上回った部分はあったのか。
勝つためにサッカーをしたのはどちらのチームかと問われたら、僕はセルビアと答える。
応用力に欠けたサッカーを続けているようでは、内容に結果が伴うのは難しいと言わざるを得ない。
関連情報（BiZ PAGE＋）
1968年生まれ。'91年から'98年まで『サッカーダイジェスト』編集部に所属。'98年秋よりフリーに。2000年3月より、日本代表の国際Aマッチを連続して取材している
