全米１位のバレンタインデーのデートムービーがゾンビ映画「Warm Bodies」
主人公のRは空港に住んでいるゾンビ。意識があって考えることもできるけど、なぜゾンビになって空港にいるのかは覚えていないし、自分の名前も最初の一文字しか思い出せない。ある日人間を襲って若い男の脳みそを食べていると、その男の記憶が流れ込んでくる。その男は今まさに襲われようとしている若い女、ジュリーの恋人だった。Rはわき出る感情にとまどいながら、ジュリーを助けようとする……。
主演はニコラス・ホルト。「X-MEN ファースト・ジェネレーション」で獣の身体に科学者の頭脳を持ったビースト、3月公開予定の「ジャックと天空の巨人」で主演のジャックを演じている、知的で涼しげな眼差しのイケメンだ。ゾンビになってもその眼差しは変わらない。さすがに顔色は悪いものの、むしろその青白さが美貌に凄みを与えている。ゾンビだから基本的に無口だが、黙っていても絵になるし、女の子の話を余計な口を挟まずに聞けるのもポイントが高い。いざ話すときは一度に2、3語をぎこちなくにしか話せないが、必死に言葉を探す姿はけなげだし、たどたどしく「きみ、安全、まもる」とつぶやくあたりはグッとくるのではないだろうか（原作小説から予想）。さらに肉体的には死んでいて機能が抑制されているから性的な面の下心は心配なく（食欲面では心配なときもある）、なんだかんだいってもゾンビなのでキレると強い。寡黙で優しくてやるときはやる、草食系イケメンゾンビなのだ。
実はゾンビ映画と恋愛はそれほど珍しいテーマではない。「Rom Zom Com」（ロマンス、ゾンビ、コメディ）というサブジャンルになるほどだ。ゾンビコメディの名作「ショーン・オブ・ザ・デッド」を初めとして、ゾンビ映画の興行収入第一位の「ゾンビランド」でも生存者の人間同士の恋愛が描かれていた。でもゾンビと恋愛する映画はめずらしい。昨年日本でも公開された「ゾンビ・ヘッズ 死に損ないの青い春」は男性ゾンビが人間の女性を訪ねるロードムービーだが、あくまで人間のときから恋人だったわけでゾンビになってから恋愛をしたわけではなかった。この点で「Warm Bodies」は新しい。
ただし斬新なゾンビ映画をつくってみたら、たまたま若い層にヒットしてしまったわけではない。予告編を「トワイライト ・サーガ ブレイキング・ドーン Part2」の公開に合わせて流したり、最初から若い女性をターゲットにしてプロモーションされていた。
「トワイライト」シリーズは吸血鬼の男性と人間の女性の恋愛映画。アメリカの女子のお相手として、吸血鬼の次に選ばれたのがゾンビということになる。
となると肝心のゾンビ要素は抑えめなのでは？ と心配になるが、既に公開されている冒頭4分間を観てみるとかなり期待できそうだ。廃墟となった空港をロメロ流の歩くゾンビがたくさん徘徊している姿に、賑やかだったかつての姿を重ね合わせるシーンには心が躍るものがあるし、Rと同じように意識を保った親友のM（スキンヘッドで伊達男なゾンビ）と交わすうなり声とわずかな単語だけを使った会話もユーモラス。血や内臓は控えめらしくゴアを期待するゾンビファンには物足りないかもというレビューもあったが、主人公の顔の横に「サンゲリア」（グロくて有名なイタリアのゾンビ映画）のパッケージを並べて遊んでるスチールもあり、「分かってる」感が伝わってくる。
ゾンビの設定も過去作から借りてきているだけでなく発展もさせている。原作小説では脳みそを食べた相手の記憶を追体験できるという新設定が、展開の上でも重要な要素になっていた。そもそも恋のきっかけはヒロイン、ジュリーの元カレの脳みそをかじったことだし、その元カレの記憶を通してジュリーのことを深く知り、同時に自分の犯した罪にも向かい合っていくことになる。またゾンビと人間が深い関係を築いていくことが、ゾンビはほんとうにモンスターなのか、ゾンビ発生という災害の前では人間と同じ被害者ではないか、という人間とゾンビの対立に終わらない、より深い問いかけにつながっていてハッとさせられた。この問いが映画でどこまで語られるかも気になっている。
アスミック・エースのホームページによると、日本公開は今年初秋予定とのこと。だいぶ先になってしまうけど、8月に公開を控えているゾンビの大群が全力ダッシュで襲いかかってくるブラッド・ピット主演の「ワールド・ウォー・Z」と合わせて、今年下半期の楽しみにしておきたい。（tk_zombie）
