全国の自治体で不安視されるごみ袋不足

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全国の自治体で不安視されるごみ袋不足

ナフサショックは生活のあらゆるシーンに影響を及ぼしている。そのひとつは誰もが日常的に使用する「ごみ袋」だ。今、全国の自治体でごみ袋不足が不安視され、現場では対応を迫られている。そして、その先にユーザーへの価格転嫁が始まる可能性も......。最前線のリアルな実態を取材した!

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【「指定ごみ袋」にこだわる理由】

宮城県北西部の大崎市で、スーパーやコンビニの棚から指定ごみ袋が消え始めた。可燃ごみ用の30L袋と45L袋だ。3月下旬頃から品薄が深刻化し、製袋(せいたい)メーカーから「供給が難しくなった」と連絡を受けた大崎地域広域行政事務組合は4月中旬、異例の対応に踏み切った。

指定ごみ袋が手に入らない場合に限り、市販の透明・半透明袋にマジックなどで「燃やせるごみ」と大きく書けば回収する、という対応だ。この特例措置は当初1ヵ月間の予定だったが、メーカー側の供給の見通しが立たず、6月末日まで延長することになった。

この波は、同じ宮城県内の仙南地域(白石市など2市7町)へも瞬く間に飛び火した。

同地域の指定ごみ袋を製造する大阪和田化学工業の営業部長・川西英夫氏が明かす。

「身近な大崎地域で品薄が起きたことで、仙南地域の販売店の間でも不安が増幅し、注文が殺到しました。通常なら半月分に当たる量を『1日で配達してほしい』といったオーダーが相次ぎ、保管倉庫の在庫が一気に品薄になってしまったのです」

静岡県内でも、35市町のうち約半数の17市町が、市販袋の使用を認める対応に追い込まれた(5月18日時点)。中でも浜松市では、「数店舗回ってもごみ袋がない」といった市民からの問い合わせが1日100件超も殺到。市は指定外の市販袋の使用を解禁せざるをえなくなった。


原料不足が深刻化する中、製造が続く自治体の指定ごみ袋。価格急騰に加え、印刷用溶剤やインクの不足も現場を直撃している(写真提供/大阪和田化学工業)

一見、どの自治体も横並びの対応に見えるが、実はこの「市販袋OK」の特例措置を出せるかどうかの裏には、自治体のごみ制度による違いがある。

ごみ問題に詳しい東洋大学名誉教授の山谷修作(やまや・しゅうさく)氏がこう語る。

「日本の家庭ごみ袋制度は大きく3つに分かれます。ひとつは東京23区のように袋の指定がなく、半透明の市販袋で出せる『フリー』型。

次に、ごみ出しに使えるごみ袋の規格は指定されているが実費(袋の製造・流通費)だけで購入できる『単純指定袋』型。

そして、袋代にごみ処理手数料が上乗せされている『有料』型です。この有料型を導入している自治体は全国の約3分の2に上ります」

現在、特例措置として市販袋でのごみ出しを容認している自治体の多くは、移行が容易な単純指定袋型の地域だという。今後、深刻になるのは有料型の自治体だ。

「有料型の指定袋は1枚数十円になるケースが一般的ですが、市販のごみ袋であれば1枚10円以下で手に入る。市販袋を解禁すれば、本来入るはずの手数料収入が途絶えて自治体の財政を圧迫します。

何より、有料型の狙いは経済的負担を感じさせて、住民にごみの減量を促すことにあります。実際、有料型地域では、40L袋より20L袋、その次に10L袋がよく売れるなど、節約と減量の意識が働いている。

しかし、安価な市販袋でのごみ出しを認めてしまえば、そうした減量への意識が薄れてしまいます」


指定ごみ袋の原料となるポリエチレン樹脂。中東情勢の緊迫化以降、調達が不安定化し、メーカー各社が確保に追われている(写真提供/大阪和田化学工業)

市販袋への切り替えには収集現場ならではの切実な問題もある。ある自治体のごみ収集作業員がこう漏らす。

「市販のごみ袋は安価なものほど薄く、強度も弱い。強く握っただけで破れるものもありますし、重みで底が抜けることも珍しくありません。

特に危険なのが収集時です。パッカー車へ投入した瞬間、圧力で『バン!』と袋が破袋して中身が飛び散りやすいのも、安価な袋です。これから暑くなると、悪臭やカラス被害の苦情が増えかねません」

こうしたデメリットを嫌い、市販袋への切り替えを躊躇する自治体は少なくない。

ただ、そうも言っていられないほど、ごみ袋不足は深刻さを増している。

【溶剤不足という痛手】

西日本の複数の自治体に指定ごみ袋を卸す製袋メーカーの担当者は、取引先の海外原料メーカーから届いた"見慣れない通知"に驚いたという。

「取引のある中東の原料メーカーから『フォースマジュール宣言』(不可抗力宣言)が届きました。自然災害や紛争、戦争といった制御不能な事態により、製品の供給義務を免除するという内容です。それを見た瞬間、最悪の事態を覚悟しました」

前出の大阪和田化学工業の川西氏もこううなずく。

中東情勢が緊迫する前は、原料メーカー側から定期的に『2ヵ月先に原料100tをこの価格で出せます。1週間以内に購入するか決めてください』といった打診が来ていましたが、3月中旬を境にパタリと途絶えました。

今ではたまに連絡が来ても、数量は通常の半分から10分の1なのに、単価は2〜3倍、回答期限は『明日まで』。それも売り切れ次第終了という厳しい条件です。いつ原料が確保できるかもわからず、製造計画を立てづらいのが痛手です」 

さらに追い打ちをかけるのが、溶剤不足だ。ごみ袋の表面に自治体名や『燃やせるごみ』などと印刷する際に使うインキやシンナーの供給も危機的な状況だという。

前出のメーカー担当者が明かす。

「ひたすらサプライヤーに頭を下げて回りましたが、入ってくるのはすべて分納です。60缶発注しても、届くのは20缶、遅れてまた20缶という綱渡り。

当社は食品のパッケージも手がけていますが、パンの袋などはアレルギーや成分の表示が必須で、印刷を省くわけにはいきません。限られた溶剤をそちらへ最優先で回さざるをえないため、3月後半には各自治体へ『最悪の場合、ごみ袋の印刷がなくなることも想定して動いてほしい』と打診を始めていました」

溶剤不足を巡っては、カルビーが「ポテトチップス」などの袋を白黒にしたことが話題になった。「文字すら印刷できない」事態になったとき、自治体の指定ごみ袋はどうなるのか......。

【「1社依存」のツケ】

こうした川上の大混乱は、すでに大都市を直撃している。

西日本のある政令市では、年間数百tに上る指定ごみ袋の調達案件で混乱が起きた。

今年3月初旬、新年度分のごみ袋調達入札が行なわれ、包装資材を扱う商社が落札。業者側は海外メーカーから原料調達の見積もりを取り、製造に入る予定だった。ところが、その直後に中東情勢の緊迫化で状況が一変した。

「いざ発注をかけたら、海外側から『原料が入ってこないから、この数量は作れない』と断られたのです。落札業者は慌てて自治体側へ『供給できない』と謝罪したと聞いています」(業界関係者)

市側は現在も、全国の製袋メーカーや商社へ「なんとか対応できないか」と問い合わせを続けているという。前出の川西氏もこう明かす。

「当社にも問い合わせは来ましたが、とても対応できませんでした。新規案件を受ければ既存の自治体への供給に影響が出る。今は実績のある取引先を優先せざるをえません」

この政令市では、今もなお在庫を切り崩しながら委託先を探し続けているという。

ある自治体で廃棄物処理を担当する職員は、行政の厳しい台所事情をこう明かす。

「どこの自治体も、長引く予算削減と職員不足に苦しんでいます。少しでも調達コストを抑え、発注業務の負担を減らそうとすれば、どうしても入札で『1社のみ』を選定する一括発注にならざるをえません。

ただ、今回のような供給危機にさらされ、頼みの1社の製造が滞れば、地域全体で袋が不足してしまいます」 

この「1社依存」のリスクが顕著に出たのが静岡県だ。

「県内の多くの自治体の指定袋を、地元の製袋メーカーが請け負っていました。そのため、そのメーカーが原料を調達できずに製造が滞った瞬間、県内各地で一斉に品薄が広がってしまったのです」(製袋メーカー関係者)

さらに事態を悪化させているのが、急激な原料高騰に行政側の契約ルールが追いついていない現実だ。製袋メーカー関係者がこう続ける。

「自治体によっては、原材料価格の急騰時に契約額を見直せる緊急事態条項を設けているところもあります。ただ、そうした条項がなく、予算上も価格改定が難しい自治体は少なくありません。

原料価格がここまで跳ね上がった状況で、価格転嫁を認めてもらえなければ、メーカー側は赤字になります。正直、その条件では入札に参加できません」

その結果、指定ごみ袋の委託先が決まらない「入札不調」が各地で相次ぎ始めている。

問題はこの先だ。


品薄となった指定ごみ袋は転売市場にも流れる。千葉県船橋市の可燃ごみ袋(30L・10枚入り)が7000円で出品されていた

現在、多くの自治体が「市販のごみ袋でも可」とする緊急措置でしのいでいるが、その逃げ道もふさがれつつある。

「実は、その市販袋も、すでに供給が滞り始めています」

さらに、価格高騰にも拍車がかかる。現在、指定ごみ袋は40〜45Lの大袋でも「1枚50円以下」の自治体が多いが、東京・多摩地区ではすでに「1枚80円」、北海道の一部自治体では「120円」に達する地域もある。前出の製袋メーカー関係者がこう語る。

「原料高騰がさらに進めば、指定ごみ袋の値上げラッシュは避けられません。過去には過疎地域で『1枚1000円』近くまで高騰したケースもありましたが、世界的な原料不足が長引けば、決して人ごとではなくなると思います」

すでに転売市場も過熱している。フリマアプリでは、品薄となった自治体の指定ごみ袋が次々と高額出品され、千葉県船橋市の指定ごみ袋が「10枚7000円」で売られていたケースも確認された。

ごみ袋1000円時代の到来が、現実味を帯び始めた。

【写真】10枚7000円で転売されるごみ袋

取材・文/興山英雄 写真/PIXTA