「ユーザーの9割はROM専」という状況は世界中のオンラインコミュニティで昔から発生している
オンライン掲示板やDiscordなどのオンラインコミュニティに参加しつつ投稿しないユーザーは一般的な存在で、日本ではROM専などと呼ばれています。コミュニティによってはROM専がユーザーの大部分を占めることも珍しくありません。この「オンラインコミュニティに参加しつ投稿しないユーザーが大部分を占める」という状況は世界中のオンラインコミュニティで発生しているようで、UX研究の第一人者であるヤコブ・ニールセン氏も2006年にROM専の割合やユーザーに発言を促す方法について論じていました。
https://www.nngroup.com/articles/participation-inequality/
ニールセン氏は「ほとんどのオンラインコミュニティでは、90%はまったく貢献しないlurker(ROM専)で、9%は少しだけ貢献しており、大部分のアクションは残りの1%によるものだ」と述べており、この法則を「90-9-1の法則」と呼んでいます。なお、ニールセン氏は1%の活発なユーザーについて「物事の発生から数分後には投稿している。やつらには人生というものがないのだろう」とも述べています。
ニールセン氏によると、ROM専や高頻度投稿者の存在はインターネット黎明(れいめい)期から確認されていたとのこと。例えばSNSの元祖とも呼ばれるUsenetの200万件以上の投稿を調査したした結果、「投稿全体の27%は『たった一度だけ投稿したユーザー』によるもの」「投稿全体の25%はわずか3%のユーザーに投稿されたもの」ということが明らかになったそうです。
また、「90-9-1の法則」に似た状況は交流を目的としないサービスでも発生します。例えば、2006年時点のWikipediaはユニークビジター3200万人に対してアクティブな編集者は6万8000人だったとのこと。つまり、「参加者のうち0.2%しか投稿していない」ということになります。さらに、Wikipediaでは全体の0.003%に相当する1000人のユーザーによって全体の3分の2が編集されていました。このことから、ニールセン氏はWikipediaでは「99.8-0.2-0.003の法則」が生じていると述べています。
「90-9-1の法則」のような活発なユーザーの偏りが生じている場合、投稿される内容とコミュニティの多数派の意思に差が生じてしまうこともあります。ニールセン氏は「90-9-1の法則」を完全に是正することは不可能としつつ「80-16-4の法則」ぐらいにまで緩和する方法として以下の取り組みを挙げています。
・コミュニティに貢献しやすくする
「文章の投稿」はかなりハードルの高いものです。そこで、「グッドボタンを押す」などの簡単な貢献方法を用意することが推奨されます。例えば、Netflixなどの「星の数でコンテンツを評価する」という仕組みは貢献のハードルを下げる方法として適しているそうです。
・投稿テンプレートを作成する
文章を一から記述するのは難しいことですが、もとからある文章の一部分を書き換えるのは簡単です。そこで、投稿テンプレートを作成しておくことで、貢献のハードルが下げることができます。
・自動的に貢献できるようにする
Amazonには「この商品を買った人はこんな商品も買っています」というオススメ表示機能が搭載されています。この機能は他のユーザーが「この商品をオススメする」といった操作をしているわけではなく、ユーザーたちの購入履歴をもとにシステムが自動的に表示しています。つまり、「何かを買う」という行為をするだけで自動的に他のユーザーへのオススメ表示に役立っているというわけです。このように自動的に貢献できるシステムを作ることもニールセン氏は推奨しています。
・貢献者に報酬を与える
貢献者に対して「特別なバッジの付与」「新コンテンツの事前通知」といった報酬を与えると、モチベーションがアップします。ただし、報酬を与えすぎると貢献度の大きなユーザーがシステムを支配するようになってしまうので注意が必要です。
・質の高い投稿をするユーザーを目立つようにする
すべての投稿を平等に扱うと、「たまに、重要な投稿をするユーザー」の投稿が大量の投稿に埋もれてしまいます。そこで、「優れた投稿をするユーザー」を識別して投稿を目立つようにすることが推奨されます。