これまで食べた中華料理は5000食以上! 酒徒さんが提案する、新しい家中華レシピ

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クックパッドのポッドキャスト番組「ぼくらはみんな食べている」。食や料理に熱い思いを持ち活躍するゲストを迎え、さまざまな話を語ります。クックパッド初代編集長の小竹貴子がパーソナリティを務めます。第17回目・18回目のゲストは、中華料理愛好家の酒徒さんです。

手軽に作れる「中華料理」で人気を獲得



小竹:まずは私から酒徒さんのプロフィールをご紹介させていただきます。大学1年の夏に初めて訪れた中国でローカル中華料理の多彩さとおいしさに魅了されてからおよそ四半世紀、中国各地の食べ歩きをライフワークとされています。お仕事は食とは無縁のサラリーマンで、2000年代半ばから北京、広州、上海に通算10年駐在し、2019年に帰国。本場で知った中華料理のレシピをnoteやSNSで紹介する一方、2023年にマガジンハウスより出版した初のレシピ本『手軽 あっさり 毎日食べたい 新しい家中華』は発売直後から話題となり、第11回料理レシピ本大賞にて「プロの選んだレシピ賞」と「料理部門入賞」をダブル受賞。今、大注目の中華料理愛好家、それが酒徒さんです。

酒徒さん(以下、敬称略):すごく恥ずかしいです(笑)。

小竹:まずはダブル受賞、おめでとうございます。受賞を聞いたときはどう思われましたか?

酒徒:僕でいいのかなという困惑、そして、盆と正月がいっぺんに来たような喜びという単語が初めて頭の中に浮かびました。1つの受賞ならともかくダブル受賞で、しかも「プロの選んだレシピ賞」をプロから最も遠い人間がもらっていいのだろうかという、驚きと喜びが入り混じったような気持ちでした。

小竹:ご自身としては、なぜこんなに多くの方に愛されているのだと思いますか?

酒徒:手軽で身近な食材で作れたり、野菜をたっぷり食べられたり、季節の食材を使えたりという、今の日本で受け入れられやすい要素がもともと中国の家庭料理の中にはありました。それがあまりにも知られていなかったので、そういうものがあるという驚きも相まって、多くの人にインパクトを与えたのかなと感じます。

小竹:もともとはnoteに書かれていたレシピであったそうですが、本にするときに何か変えた部分はあったのですか?

酒徒:もちろん調整はしましたが、数ある中から78品を選ぶときに、本当に手軽でスーパーの食材で作れるものを基本にすることは明確に意識していました。僕は時間がかかる料理や変なものを取り寄せて作る料理も好きなのですが、みなさんは日々の料理として見ているので、一般的に伸びるのはやはり簡単に作れるものです。

小竹:では、この78品も人気のあるものを選んだ感じですか?

酒徒:そうです。あとは、作っていただきやすいものと僕自身が日常的に作っているものが多かったですね。変なものは2〜3個だけ入れています。

小竹:それはどれですか?

酒徒:自家製ラー油とかですね。食材を全て揃えられる人はほぼいないと思うのですが、わがままで入れさせてもらいました。丸鶏をそのまま1時間煮込む料理も、こういうのがあってもいいかもみたいな形で入れてもらいました。




自家製の辣椒油(ラー油)




清燉全鶏(丸鶏の煮込みスープ)

知らない料理がたくさんあることへの驚き


小竹:中華料理にハマったのはいつ頃からなのですか?

酒徒:小学生の頃から三国志の漫画を読んだり、人形劇を見たりしていて、中国の歴史に興味を持っていました。それで歴史を勉強しようと思って、大学1年生の夏に北京に行ったのですが、現地の料理を食べたら想像していたよりも遥かに幅も広くておいしくて。稲妻が走るような衝撃で、自分の中の歴史への興味が料理への興味にすり替わるくらいのインパクトがあったんです。

小竹:そのときは何を食べたのですか?

酒徒:いろいろと食べた中でも印象的だったのが、北京の水餃子です。日本の皮の薄い餃子とは違い、もっちりとした主食としての皮の厚さを持った水餃子で、皮がつるりとして香りが良くて、皮自体がおいしい上に餡のバリエーションもすごいんです。

小竹:日本だと1種類ですもんね。

酒徒:肉も牛、羊、豚などがあって、そこに掛け合わせる野菜も季節野菜が何個もある。それをかけ算していくので、1つのお店だけでも餡が何十種類もあるんです。そういう世界を全く想定していなくて、しかもそれを黒酢だけで食べさせる硬派さもかっこいいと思いましたね。

小竹:かっこいいですよね。

酒徒:当時、北京の水餃子は1皿単位ではなく、粉の重さ単位で注文する形でした。でも、それをよくわかっていなくて、「1斤」と書いてあるものを頼んだら、粉500グラムだった(笑)。それを餃子にするのですごい量になって、友達と途方に暮れました。でも、知っているはずの餃子がこんなにおいしいんだというのは驚きでした。

小竹:ほかにも驚きはあった?

酒徒:知らない料理がこんなにあるんだという驚きもありましたね。周りの人が食べているものを見ると、日本の中華料理屋ではまず見ないような料理がいっぱい並んでいる。それで品書きを開くと4文字くらいの漢字がバーッと並んでいて、ちょっと中国語を勉強した程度の人間ではさっぱりわからないわけです。

小竹:うんうん。

酒徒:そこでどんどん好奇心が湧き起こってきて、これはどういう意味なんだろうとか、あれはなんだろうとなり、もう全部食べてみたいと思ってしまう。それが自分の初期衝動ですね。

小竹:中国の歴史から中国の食の歴史に絞り込まれてしまった瞬間ですね(笑)。

酒徒:そうですね(笑)。とりあえず、これが全部わかるようになりたいというのが、語学を学ぶモチベーションにもなりました。

中国の料理を知ることは“文化的背景”を知ること


小竹:将来の夢に中国のことが書いてあったと聞きましたが…。

酒徒:不思議なのですが、実家で小4のときの文集を見返したら、「将来、中国に行って豚の丸焼きを食べたい」って力強く書いてあったんです。おそらく、漫画やテレビでそういう場面を見て憧れたのでしょうけど、それを文集に書かなくてもいいのにと我ながら思いましたね。

小竹:中国には何度も行かれていますが、召し上がったのですか?

酒徒:大学4年のときに、豚の丸焼きの本場である広東省の広州に1人旅をしたのですが、その旅の目的が豚の丸焼きを食べに行くことでした。そういうのが日常的な地域なので、丸ごと1匹を頼まなくても1人前なり2人前なりを切って出してくれるお店が結構ある。だから、夢を叶えられて「なんていいところだ。いつか住みたい」と思ったのですが、その後本当に住めたのでびっくりです。

小竹:大学2年生のときにもまた中国に行ったそうですが、それは歴史の勉強のため?

酒徒:歴史はもう完全にどこかにいっちゃいました(笑)。1回目は北京に1〜2週間くらいいたのですが、これだけ多様性のある料理だからもっと地方の味も知ってみたいと思い、いろいろなところに行こうと考えました。サークルの友達4人くらいで四川省の成都に入って、長江を下りながら上海までいろいろなところで食べつつというのを主目的とした旅でした。3〜4週間かけて行ったと思います。

小竹:じゃあ、1年間は情報収集をしていた?

酒徒:当時はネットで調べられる時代ではないので、大学図書館で中華料理の本を見ていました。当時は本格的な麻辣が効いた四川料理は日本ではまだ食べられなかったので、面白そうでインパクトがある料理を食べてみたいということで、まず四川に行きました。三国志などの歴史的な史跡も残っているので、わずかに残った歴史への興味もミキシングした感じの旅行プランですね。

小竹:大学1年で衝撃を受けて、そこからもう完全に“中華料理脳”に変わってしまったのですか?

酒徒:わざわざお金をかけて3週間しか中国にいられないのだから3食全て中華で当然だろうという思いでしたが、その認識は共有できていないので喧嘩もしました。友達が「今日は久々にマックを食べたい」と言って「そんなの帰って食え」みたいな話になり、「じゃあ今日は別々に食事をしよう」って。友人より飯だって今でもそれはネタにされます(笑)。

小竹:麻婆豆腐発祥の地である四川に行ってみて、やはり違いましたか?

酒徒:今でこそ本格的な麻婆豆腐が中華料理屋で食べられますが、90年代の日本の大学生にとっては、あの痺れと辛さは完全に未知の味なんです。一口食べてみんな固まって、「残すのは申し訳ないよね」となって、じゃんけんをして負けた奴が1口食べるみたいな感じでした。隣では四川の人が1人でガシガシ食べているのに、1皿を4人でじゃんけんまでしてようやく食べきることに、僕としては敗北感がありましたね。これだけ興味を持って来たのに、1発目でおいしいとはならないんだと思って。




白油豆腐(四川式・豚ひき肉と豆腐の炒め煮)

小竹:うんうん。

酒徒:当時から食べたものをメモに書くという習慣を始めていたのですが、この間それを見返したら、「無念。本場の壁は厚い。いつかリベンジを…」みたいなことを書いていて、ちょっと笑ってしまいました。

小竹:そのリベンジはしたのですか?

酒徒:それからしばらくして中国に住むようになり、リベンジをするために4人のうちの1人も含めて、もう一度成都に行きました。同じ店に行って同じものを頼んで意気込んで食べたのですが、人は成長するもので「余裕だな。いけるな」って感じで。辛さは味覚というより痛覚なので、食べていれば慣れるんです。我々の9年間は無駄ではなかったと乾杯をした記憶があります(笑)。

小竹:あの辛みは、四川の料理全てに共通しているのですか?

酒徒:一概には言えないですが、四川の料理は比較的あの要素が多いです。他地域と比べると、山椒の痺れと唐辛子の辛さを混ぜ合わせたような味付けが多いです。

小竹:それは文化的な背景があったりもする?

酒徒:あの辺りは高温多湿なので、香辛料を食べて汗をかくと涼しくなるので、そういうこともあって受け入れられたのだろうと思います。唐辛子は長い中国の歴史でいうと、せいぜいここ数百年のもの。それでもあんなに食べるようになっているのは、地域的な天候的な特性だと思います。こういうのが面白さだなと思いますね。

小竹:中国で地域によって味が違うのは、気温が影響していることが多いのですか?

酒徒:天候・気候は1つの大きな要素ですね。その土地の人が日常的に食べて心地よくなる味付けや食材が選択されて残っていくので、山がちとか寒い暑いとかそういうものを含めてものすごく大きいです。食の興味としてフォーカスをしても、その後ろには地理や歴史が姿を表すという感じですね。

小竹:歴史でいうと、どういったところが影響されるのですか?

酒徒:あれだけ大きい国で56の民族がいて、それが入り混じっているわけですから、この時期にこの民族が移動してきて、その風習がこっちと混じったみたいなことが各地である。だから、料理を知るためには歴史の要素に結局戻っていくことになる。だからこそ、ハマッたのかもしれないですね。

30年続ける“食べたもの”をノートに書く行為





食べた料理をメモしたノート

小竹:先ほどお話していた年季の入ったメモ帳を今日お持ちいただいているそうですね。

酒徒:段ボールに何十冊もあるのですが、当時はまだスマホなどがないアナログ時代だったので、妻と2人で旅行するときなどにノートを持って行って、食べた料理や値段を全部書いていました。

小竹:すごいですね。

酒徒:何が入っていたとか、ちょっとした感想を書いておくので、帰ってきた後も調べられるんです。そういうことを目的として書いて、それをブログに書くみたいなことを10数年やっていました。一緒に写真も撮っていたので何十万枚もあります。

小竹:それも大学1年生のときからやっていた?

酒徒:その頃は「写ルンです」だったので24枚しか撮れない。だから、全て撮るようになったのはデジカメ時代ですね。ノートは大学1年生のときに中国に行って衝撃を受けて、そこから書き始めたので、もう30年くらいやっていますね。

小竹:すごいですね。

酒徒:パソコンやスマホがない時代なので紙に書いていましたが、2000年代になって北京や上海で暮らしていたときは、ノートからExcelに変わり、毎日食べたものを全部書いて、横にピンインという中国語の発音記号を書いて、勉強も兼ねていました。今見返してもちょっと病的な記録ですね。

小竹:結果として、どのくらい食べているのですか?

酒徒:少なくとも最初の2年で5000食以上は食べています。それは明確にExcelの量が5000以上あるので。前に試しに計算をしてみたら、朝は何か軽食を食べ、昼に誰かと食べて3皿程度シェアして、夜も3皿で、1日7皿で、365日食べると大体2500食くらい。宴会をしたらもっと頼むし、旅行のときは1日5食くらいの勢いで食べるので、5000食でも少ないくらいで、余裕で可能だという検証結果が出ました。

“多様性”があることが中華料理の魅力


小竹:中華料理の魅力はどこにあると感じますか?

酒徒:多様性が1つの大きな魅力だと思います。あれだけ大きい国で、自然環境も山がちや平野などがあり、気候も寒い暑いがあって、人口も10何億人もいる中にいろいろな民族がいて、それが悠久の歴史の中で混ざり合っている。山1つ越えれば料理が変わるし、所を変えれば国が変わったように料理が変わる。30年近く食べていてもまだまだ知らない料理が出てくる。だから、一生尽きることのない遊びを見つけたような感じです。掘ろうという気持ちさえあれば、いくらでも出てくる鉱脈みたいな感じですね。

小竹:30年も経つと、中華料理の中にも流行りが入ったり、ミックスされたりなどと変わる部分もあるのですか?

酒徒:料理は常に変わり続けるものだと思っています。ただ、特に90年代、改革開放後の経済発展の中のこの数十年は、中華料理がすごく大きく変わった時代だと感じます。交通網が発達して人の行き来が当たり前になると、南の料理が北に伝わったり、その逆もあったりして、それまで自分の地域だけで料理を食べて人生を終えていた人たちが、他地域の料理を食べるようになる。すると、気に入られた部分は混ざり合っていき、料理がどんどん変容していくんです。

小竹:そうですよね。

酒徒:あと、それまで外食をしなかった人たちが豊かになる過程で外食の頻度が上がっていく。レストランの料理はインパクトを重視するので、基本的に家庭料理より味が濃くなるんです。濃い味の料理を日常的に食べていると、それが家庭料理に戻っていくので、家庭料理の味付けも昔よりは濃くなりがちになっている気はします。

小竹:一方で、昔からある郷土料理を大事にしようといった動きは中国ではあるのですか?

酒徒:中国各地の昔ながらの料理を取り上げる番組が数年前に流行って全国的な人気を博して、その後追い番組がどんどん中国で生まれたんです。それで、流行りの創作料理ではなく、昔ながらのものに価値があるという価値観が生まれて、中国の農村では昔ながらの味をツーリストに対して出すみたいなことも増えてきていて、これは非常にいい流れだと思っています。

小竹:中華料理にハマりながらも、食や家庭料理への飽くなき探求心も感じます。それはどういったところから来ているのですか?

酒徒:一般的に人間は自分が慣れ親しんでいる味をおいしいと感じやすい。そのほうが安心で、動物の本能的には正しいと思いますが、僕はそれよりは食い意地が張っていて、食べたことがないものを見たら食べてみたいという、単純にその衝動です。それに全てが支えられていますね。

小竹:5000食も食べているけど、まだ新しいものに出会えるのが中華料理なのですか?

酒徒:それが中華の多様性で、1つの省に行っても、町1つ変えればまたその町の名物料理があるという世界ですので、一生では無理なんです。ずっと向こうに住んで、仕事もせずに毎日好きにしていいよと言われても全部は難しい。そういう世界だと思うので、そこに僕は興奮するタイプです。

小竹:新しいものを食べておいしいと感動したら、同じものを何回も食べてしまいそうですけど…。

酒徒:おいしいものを食べたときより、むしろ1回目からおいしいと思えなかった料理のほうが3回くらい食べています。その地域の名物料理は、その地域でおいしいと思われているから食べられているのに、おいしいと思えなかったということは、僕の経験が足りないか、その店がまずかったか、食材がダメだったかなど、別の要因が考えられるので、それを潰していくために3回くらい食べます。

小竹:なるほど。

酒徒:要因が自分がただ受け付けなかっただけの場合、3回も食べていると慣れてくる。慣れてきて、地域で人気がある理由もわかり、やがてそれが自分の中でおいしいというところまで落ちてきたときが、一番自分が求めている瞬間です。その国のその地域の風土と歴史と文化を我が身に取り込んだかのような感動があり、「ああ、うまいな」って心から感じます。

小竹:具体的な料理名があれば教えてもらえますか?

酒徒:昔、貴州や雲南で、ものすごく苦い料理があったんです。日本の料理にはまずない、牛の胃液や胆汁が入っているからすごく苦いのですが、苦さが前面に出ていて驚きがある料理なのに、何度か食べていると後味が爽やかさになっていき、その後に体がスッとした気持ちになるんです。

小竹:うんうん。

酒徒:この地域も非常に夏は暑くて過ごしにくい気候なので、こういう苦みを味と体の効果とともに味わっているのだろうと感じた瞬間にその苦さがおいしく感じてきて、もう1回頼みたい気持ちになる。そういうのが好きで、1口目からのおいしさは求めていなくて、好奇心の部分も含めて、両方を味わっているところはあります。

(TEXT:山田周平)

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【ゲスト】


第17回・第18回(11月1日・15日配信) 酒徒さん


初中国で本場の中華料理に魅入られてから四半世紀、中国各地の食べ歩きがライフワーク。北京・広州・上海に10年間滞在し、帰国後は本場で知った中華料理レシピをSNSで続々発信。初レシピ本『あたらしい家中華』が12刷8万部と大ヒットし、2024料理レシピ本大賞をW受賞(料理部門入賞・プロの選んだ料理賞)。中国各地の名物料理を選りすぐって紹介する新著『中華満腹大航海』(KADOKAWA)を12月10日に発売予定。

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Instagram: @shuto_boozer

note: おうちで中華

【パーソナリティ】 


クックパッド株式会社 小竹 貴子


クックパッド社員/初代編集長/料理愛好家。
趣味は料理🍳仕事も料理。著書『ちょっとの丸暗記で外食レベルのごはんになる』『時間があっても、ごはん作りはしんどい』(日経BP社)など。

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