森林の自己再生力が、二酸化炭素を減らす大きな助けになる
アメリカ全土にリンゴの木を植えて回ったジョニー・アップルシード氏(本名はジョナサン・チャップマン)の信念は間違いではありませんでしたが、生態学的に見ると改善の余地がありました。生物多様性が豊かで、地域の人々に恩恵をもたらし、さまざまな食物を生産できるダイナミックな生態系を作るためには、森林にはより多くの種が必要です。
新たな研究結果によると、伐採された後に人間が手を加えなくても、大気中の炭素を吸収しながらびっくりするくらい早く森林が回復する場合もあるようです。
森の再生は森に任せるのがベスト?
国際的な科学者チームがNature誌に発表した新しい研究結果によると、湿度の高い熱帯地域にある約2,150平方キロ(東京都とほぼ同じ)に及ぶ森林伐採後の土地は、放置しておけば自然の力で再生する可能性があるといいます。
自然回復が見込まれる森林伐採地の面積の52%を、ブラジル、インドネシア、中国、メキシコ、コロンビアが占めています。研究チームは、自然回復によって生物多様性が進んで、水質と資源の利用可能性が改善することで、今後30年間の炭素吸収量は23.4ギガトンに達すると推定しています。
メリーランド大学の自然保護科学者兼地理学者で、論文の共著者でもあるマシュー・フェイガン氏は次のように述べています。
「熱帯雨林は1年から3年で新しい森に生まれ変われます。5年で高さ3mの樹冠に覆われることもあります。
私は10年から15年しか経っていないのに、40mの高さまで育った熱帯雨林のなかを歩いた経験がありますが、本当に驚かされるばかりです」
といっても、自力での自然な再成長が約束されているわけではありません。
まず、土地を集約農業に使うのをやめる必要があります。肥料や化学物質を使うと、収穫量は増えても土壌が痩せます。牛をたくさん飼いすぎると、重みで土壌が圧迫されて植物が根付きにくくなり、せっかく芽吹いた若い植物は牛に食べられてしまいます。
炭素を豊富に含んでいる熱帯の土壌は、植物に十分な栄養を与えられます。フェイガン氏は
堆肥作りが好きな人ならみんな知っているように、有機炭素は土壌の栄養価と保水力を高めてくれます。そしてそのような土壌がある場所には、森が育ちやすいんです。
と話しています。
森林再生のカギは多様性
また、熱帯雨林が近くにあれば、森林伐採後の荒れた土地はその恩恵を受けられるといいます。熱帯雨林から飛んできた鳥がフンと一緒に種を落とすのをきっかけに森が育ち始めます。
いったん樹木が定着すれば、サルなどの樹上で生活する動物種が果実を食べて種を蒔きます。こうして始まった生物多様性の自己強化サイクルによって、わずか10年で高さ24mの森に成長します。
生物が多様であるほど森林の回復力は高まり、劇的な変化にも耐えられるようになります。例えば特定の種が病気によって全滅しても、似た特徴を持つ別の種がその穴を埋めてくれるかもしれません。だからこそ、アップルシード氏のように同じ種類の木を大量に植えるのと、自然に回復する多様な熱帯雨林は比べものにならないのだそう。
カリフォルニア科学アカデミーの古生態学者で、気候が生態系に与える影響を研究するピーター・ループナリン氏(今回の研究には不参加)は、次のように述べています。
システムに生物多様性があれば、(森林は)生態学的により機能的で強くなる傾向があります。自然の複雑さに関する理解が追いつかない限り、私たちは常に大自然の営みから一歩遅れをとることになるでしょう。
森林農業で豊かに
論文の主執筆者であるクイーンズランド大学のブルック・ウィリアムス研究員は、コスパの高い森林再生地を特定するために、政府や非営利団体は今回の調査データを活用できると指摘し、次のように話します。
重要なのは、私たちのデータセットでは、どこを再生すべきで、どこを再生すべきでないかについてはわからないということです。
ウィリアムス氏は、自治体がそれぞれの地域の事情や条件に合わせて判断を下すのが一番だといいます。
環境団体Nature Conservancyの上級森林再生科学者であるスーザン・クック・パットン氏によると、世界中で1,500以上の樹種が森林農業に利用されており、そのなかには多くの果物や薬効をもたらす木も含まれているそうです。
クック・パットン氏は、農業生産をより樹木へとシフトさせて、炭素や生物多様性の価値を高めることで、地域住民の生活向上を手助けする方法がないか模索しています。森から搾取するのではなく、森と共生できるのがベストですよね。
森林再生を妨げるラスボス=温暖化
ところが温暖化とその影響で深刻化する干ばつによって、自然に再生した森林が、そのうちまったく別の気候にさらされるかもしれないそうです。ループナリン氏はこう話します。
気候条件が変化するのはわかっていますが、まだどのように変化するかにも、気候モデルの予測にも不確実性が存在しています。
足りない森林再生へのコミットメント
2030年までに3億5000万平方キロの森林再生を目指すボン・チャレンジと呼ばれる国際的な目標があって、今のところ61カ国で74の政府や組織が署名した合計面積は2億1000万平方キロに達しています。
2011年に定めた目標の60%まで到達しており、残すはあと6年で40%です。それでも森林開発のスピードにまったく追いつけていないのは切ないですね。
できることはなんでもやる精神
人類が毎年37ギガトンもの炭素を排出しているのに対して、自然回復した森林による今後30年の炭素回収量が23.4ギガトンと聞くと、全然足りないじゃんと思うかもしれません。
でも、23.4ギガトンは熱帯地域の森林が吸収する量に過ぎないんですよね。ここに温帯林や海草の保護に加えて、シアノバクテリア養殖のような新しい技術を駆使すれば、さらに多くの炭素を回収できるはずです。
フェイガン氏は次のように話します。
森林の自然再生は気候変動と戦うために必要な多くの手段の1つに過ぎず、気候変動を止める特効薬ではありません。私たちは、使えるものはなんでも使わなくてはなりません。
自然の自己治癒能力に任せるのが、森を、地球を元の姿に戻す一番の近道なのかもしれませんね。