(写真:aijiro/PIXTA)

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2060年には約645万人になると推計されている認知症患者。

認知症になるリスクを高め、かつ自分の意思で修正可能な9つの危険因子のなかで、最も大きな危険因子とされるのが「中年期の聴力の低下」。

これに当てはまる人は、そうでない人に比べ、認知症になるリスクが約2倍になるという。ほかの8つの危険因子よりも、はるかに高リスクだというのだ(2017年発刊の医学雑誌『ランセット』内の報告より)。

「聴力の低下はコミュニケーションをおっくうにするだけでなく、音が脳に入らなくなるため、脳のネットワークが萎縮し認知症になるリスクが上がることが考えられます」

こう語るのは、きたにし耳鼻咽喉科の北西剛先生。

音は空気を震わせて耳の中の鼓膜を振動させ、「蝸牛」という場所に伝わる。

この振動を電気信号にして脳に伝える細胞が「有毛細胞」。毛のような形状で、傷つくと脳に電気信号を正しく送れなくなり難聴になる。

「有毛細胞は一度失うと再生しないため、予防することが大切です。また、難聴は加齢だけでなく、生活習慣の積み重ねも大きな要因です」(北西先生、以下同)

それでは、どのような生活習慣が難聴を招くのか確認しよう。

まず、難聴の進行と密接な関係があるのが「騒音」。

世界保健機関(WHO)によると、音圧レベルが85db以上の音を一定時間聞き続けると、難聴の要因になるという。音圧レベルが高くなるほど1日あたりに聞く時間が短くても難聴のリスクは高まる。

105db以上の音圧は日常頻繁に聞くことのない大音量。

気をつけるべきは難聴にも影響する、85〜100dbのふだんの生活習慣でも耳にする音圧。

それに該当するのがチェックシートの(1)〜(3)だ。

「通勤で使う人も多い地下鉄の車内は要注意。毎日乗ると騒がしさに慣れてしまっている人も多い。また、その中で音量を上げて音楽を聴くなどはもってのほかです。

騒音というと、大音量で音楽を流すライブなどをイメージしがちですが、実は身近なところにも多くあります。

日ごろ、大きい音を長時間聞かないように意識して生活することが大切です」

騒音だけでなく食生活にも気をつけよう。(4)のような体を冷やす食べ物も耳にはよくない。

「体を冷やす食習慣があると、血流が滞りやすくなります」

(5)のコーヒーは、カフェインが耳鳴りを助長するのだという。

カフェインを取りすぎると、血流の悪化を招き、有毛細胞が過剰に興奮して耳鳴りを助長させます。

耳鳴りは難聴と密接に関係していて、難聴にともなって起こるものが多いです。

また、難聴により音が聞こえなくなった分、脳が働きすぎの状態になって疲れ切ってしまい、耳鳴りが起こるとも考えられています」

一見、耳の健康とは無関係に思える(5)〜(8)の項目も要注意だ。

「チョコレート、甘いお菓子、加工食品のハムやソーセージなどを摂取すると、体内で糖化や酸化が起こり、内耳や有毛細胞などを傷める原因になります。アルコールも過剰摂取はよくないですね」

(9)〜(10)のような睡眠の質や時間、就寝起床のリズムの乱れは血の巡りの悪化につながる。

(11)〜(12)のような過度なストレスや疲労も血液循環や免疫力の低下を引き起こし、難聴の引き金になることがある。

「突発性難聴の発症前に仕事や家事、育児などによる過労や寝不足、周囲とのトラブルやストレスを抱えていたケースが多くあります」

(13)の大きないびきは、睡眠時無呼吸症候群である可能性が大。

「睡眠時無呼吸症候群は、難聴につながる注意すべき症状です」

睡眠時無呼吸症候群は主に空気の通り道である気道が塞がり、平均で1時間に5回以上、睡眠中10秒以上息が止まる状態のこと。

「症状のひどい人の就寝中の体内は酸欠状態で、赤血球が増えて血がドロドロになり、血管を詰まらせることで、耳の端の毛細血管まで血液が行き渡らず難聴に。

いびきや無呼吸の兆候がある人は、早めに検査を受けてください」

■亜鉛を多く含む食材は難聴の予防効果が期待大

これらを防ぐために、耳の健康にいい栄養素を意識的に取り入れることが大切だ。

「適度な運動や、質のよい睡眠をとることは血の巡りを改善するうえで重要ですが、摂取する栄養を見直すことも対策になります。

おすすめは亜鉛を多く含むすりごまやきなこ、牡蠣などの食材。亜鉛は炎症を抑える働きがあり、難聴の予防効果が期待できます」

ほかにも、末梢神経の代謝を促し、内耳の神経の働きをよくするといわれる緑色の野菜や魚などに多く含まれるビタミンB群や、有毛細胞の代謝の向上に活躍するそば、バナナ、のりなどに含まれるマグネシウムもいい。

「ハーブティーやノンカフェインコーヒーもおすすめ。リラックス効果がありストレスが軽減します」

耳をほぐしたり温めたりするなど簡単な方法にも予防効果がある。

「体をリラックスさせるときに働く副交感神経が多く分布する場所のひとつが耳。

特に耳の穴や耳のやや下側と周辺に集中しています。耳の付け根を軽くつまんで回したり、手で温めるだけでも副交感神経が優位になりますよ」

意外な生活習慣が引き金になることもある難聴。日ごろの習慣を見直し、認知症予防につなげよう。