ゆりやん日本脱出、本気で成功狙えるアメリカ行き
ハリウッドスターを目指し、年内には渡米予定のゆりやんレトリィバァ(写真:Pasya/PIXTA)
1980年代の女子プロレスの世界を描いたNetflixシリーズ『極悪女王』が話題を呼んでいる。日本の「Netflix週間TOP10(シリーズ)」でも1位を獲得した。
本作の主人公であるダンプ松本を演じたのは、ピン芸人のゆりやんレトリィバァ。彼女は役作りのために40キロ以上も体重を増やし、プロレスの練習を続けてきた。彼女だけではなく、レスラー役を演じる女優陣は全員、当時のプロレスの雰囲気を再現するために過酷なトレーニングを積んできた。
そのかいあって、試合のシーンは本物さながらの緊迫感があるものに仕上がっている。衣装やセットなども本格的に作り込まれているし、華麗な技の応酬からルール無用の残虐プレーまで、当時のプロレスを忠実に再現している。
俳優としての才能も証明
物語の前半では、気弱で内気な少女だったダンプが、過酷な家庭環境の中で育ち、女子プロレスの世界に憧れて、そこに足を踏み入れるまでの様子が描かれている。後半では、同期の中でも落ちこぼれレスラーだった彼女が、ヒールに転身することで才能を開花させて、日本中にその名をとどろかせていく。
前半と後半でダンプのキャラクターは別人のように変わっているのだが、ゆりやんはそこを見事に演じ分けている。芸人としての実力は折り紙付きの彼女が、本作では俳優としても新たな才能を見せている。
そんなゆりやんレトリィバァは、日本での活動を休止して、アメリカに行くことを公言している。ハリウッドスターを目指しており、年内には渡米してアメリカを拠点に活動をする予定だという。
彼女はこれまでにも国内で文句なしの実績を積んできた。デビュー当時からその才能は突出したものがあり、吉本興業のお笑い養成所「NSC大阪」を首席で卒業した。2015年には芸歴わずか3年目でピン芸日本一を決める『R-1グランプリ』(当時の表記は『R-1ぐらんぷり』)の決勝に進んだ。
その後も数多くのバラエティ番組に出演して、2017年には『女芸人No.1決定戦 THE W』で優勝。2021年には『R-1』でも悲願の優勝を果たした。若手の女性ピン芸人の中では、並ぶ者が見当たらないほどの圧倒的な結果を残している。
彼女はかつてアメリカのオーディション番組『America's Got Talent(アメリカズ・ゴット・タレント)』に出演したことでも話題になった。角刈りのかつらをかぶり、星条旗模様の際どい水着を身につけて、手首の動きを主体にした奇妙なダンスを披露した。
アメリカ流の笑いのセンスも
パフォーマンスを披露した後、彼女は積極的に英語でジョークを飛ばして、審査員を笑わせていた。芸名の由来を聞かれて「飼っている猫の名前がレトリィバァなんです」と言ったり(ゴールデンレトリバーは犬の品種)、男性の審査員の機嫌を取るために自分の宿泊先のホテルの部屋番号を言ったり、きちんとアメリカにローカライズされた「ボケ」を放って、狙い通りに笑いを取っていた。
結果としては不合格だったものの、英語力、当意即妙のコミュニケーション能力、お笑いセンスには非凡なものがあることを見せつけた。
笑いのセンスがあり、英会話の能力があり、演技力があり、ダンスやピアノ演奏も得意としているゆりやんは、アメリカで活躍するのに必要な能力をすべて備えている。しかも、それに加えて「度胸」を持っていることが何よりの強みである。
アメリカのエンタメ業界は日本以上に過酷な競争社会であり、極端なほどに自分をアピールする力がなければ生き残ることはできない。ゆりやんの日本人離れした度胸は、アメリカでも十分通用するはずだ。
独特のお笑い文化が発達していて、空気を読み合うことが求められる日本のテレビでは、彼女の我が道を行く芸風がときに空回りしてしまうことがある。しかし、お互いの個性を認め合う風潮があるアメリカのエンタメ業界では、彼女のそういうところはむしろポジティブに評価されるだろう。
ゆりやんは渡米するにあたって、レギュラー出演していた『探偵!ナイトスクープ』(ABC)を卒業することになった。最後の出演となる9月6日放送回では、一般人の望みをかなえるために、長渕剛のもとを訪れた。
『America's Got Talent』出演時に着ていたのと同じ派手な柄の水着をまとった状態で現れて、長渕を驚かせていた。初めて対面する大物アーティストである長渕を前にしても、ゆりやんは臆することなく自分のペースを貫いていた。
「満を持して」アメリカへ
最近では、綾部祐二や渡辺直美のように、日本で活動していた芸人がアメリカに行く事例も出てきてはいるが、全体としてはまだまだ少ない。ゆりやんはもともと海外の文化やエンタメに興味があり、英語も流暢に話すことができる。ここまで「満を持して」と言い切れる形で芸人がアメリカに出ていくのは珍しいケースである。
世界各国にも配信されている『極悪女王』は、彼女にとって海外に向けた名刺代わりの作品となることは間違いない。ゆりやんレトリィバァがアメリカのエンターテインメントの世界でどのような活躍を見せてくれるのか、興味が尽きない。
(ラリー遠田 : 作家・ライター、お笑い評論家)