みんなが大好きなブックオフはどうなっていくのか?(筆者撮影)

ブックオフがマズい(のかもしれない)--。そんな感じのニュースが、世間を騒がせた。

発端は、週刊現代に掲載され、「現代ビジネス」に転載された「ブックオフが都内店舗を続々『閉店』…!突然の10月閉店ラッシュにファン落胆、業績好調だったハズがなぜ?」という記事だ。

実際に閉店するのは都内の3店舗や千葉の1店舗で、「続々」とまではいかないが、記事では6月に発覚した不正買取事案との関連性も匂わせていた。こちらの真相はさておいて、事案が発覚する前からブックオフは小規模店舗を閉店させている。それが、今回の記事でクローズアップされた形だ。

筆者は『ブックオフから考える』(青弓社・2023年)という書籍で、同企業の歴史を1冊の本にまとめた。そんな筆者から見て、今回の報道や同社の一連の動きには「ブックオフ」の企業としての変化が表れていると感じた。どういうことか。

ブックオフは3種類ある

今回の報道の裏側をいきなり言ってしまえば、「ブックオフの業態転換の結果」ということになるだろう。

【画像17枚】「続々閉店」と話題のブックオフ、実は知らぬ間に「劇的な変化」を遂げていた…! 見てびっくりな「現在のブックオフの光景」

大前提として確認しておきたいのは、「ブックオフは3種類ある」ということ。我々は「ブックオフ」とひとくくりにして呼んでしまうが、扱っている商品や店舗面積でタイプが異なるのだ。

・BOOKOFF
・BOOKOFF PLUS(以後、「プラス」)
・BOOKOFF SUPER BAZAAR (以後、「スーパーバザー」)

※なお、BOOKOFF総合買取窓口というものもあるが、買取店なので今回は省いた

ブックオフはいわばオールドタイプで、本やCD・DVD、ゲーム、携帯電話を取り扱う。最近ではホビーやトレカの取り扱いも増えている。まあ、昔ながらのブックオフである。


大阪・喜連瓜破にかつてあったBOOKOFF。看板の色が黄色と青だとオールドスタイル。ちなみに看板の色が黄色なのは、ドラッグストア「マツモトキヨシ」に影響を受けて、という話がある(筆者撮影)

「プラス」になると、ここに「アパレル」が加わる。


BOOKOFF PLUS 16号相模原富士見店。看板に「洋服、ブランドバッグ」が入っている(筆者撮影)

そして、「スーパーバザー」になると、その名に違わず「スポーツ用品・ベビー用品・腕時計・ブランドバッグ・貴金属・食器・雑貨等」と、取り扱い商品が一気に増える。もはや総合リユース店である。


BOOKOFF SUPER BAZAAR 町田中央通り店。ビルがまるごとブックオフ。すごかった(筆者撮影)

もちろん、商品種が増えれば店舗面積も増える。それぞれの店舗面積の平均は会社によって公表されていて、ブックオフが約130坪、プラスが約300坪、スーパーバザーが約950坪と、2〜3倍の感じでデカくなっていく。


(画像:「BOOK・OFFグループ 出店のご案内」より)

ブックオフで進む「大型化」

で、ブックオフとしては、この3つの業態をどう展開させていくのか。それが、「スーパーバザー」への注力だ。

店舗数の推移を見れば一目でわかる。2018年3月期では、ブックオフが699店舗、プラスが55店舗、スーパーが41店舗だったのに対し、24年3月時点ではそれぞれ619店舗、48店舗、68店舗と変化している。ブックオフがそれなりの数閉店し、プラスはやや減り、その代わりにスーパーバザーが増えている(2018年3月期、2024年5月期の株主向け説明会資料より)。

「スーパーバザーが増えていると言っても、全体店舗数だと減ってるのでは?」という声もあるだろう。確かにその通りなのだが、でも、これにも理由がある。

例えば、山梨県の甲府を見てみよう。甲府では3月15日に「BOOKOFF 甲府下石田店」と「BOOKOFF 甲府平和通り店」の2店舗が閉店している。どちらとも「ブックオフ」業態だ。そして、この2店舗が統合する形で「BOOKOFF SUPER BAZAAR 甲府貢川店」が誕生。小規模店を閉鎖し、より商圏が広く、商品種の多い業態に変えるから、全体の店舗数の減少も見られるわけだ。


同じく山梨にある「富士吉田店」。こちらは閉店するわけではないが、こうした小規模店から大型化にシフトしていっている。ちなみに横に映るのは富士山(筆者撮影)

このように、ブックオフは「スーパーバザー」化という名の「大型化」を進めている。

つまり、今回報道された「ブックオフ閉店」は、表面上の出来事としては合っているのだが、それをそのまま「ブックオフの業績悪化」と受け止めるのは早計だ。むしろ「ブックオフの変化」として、この現象は捉えるべきなのである。

どうして「大型化」を進めるのか?

でも、どうしてブックオフは大型化を進めるのだろう。

その謎を解くため、調査班は「スーパーバザー」に足を運んでみることにした。訪れたのは、BOOKOFF SUPER BAZAAR 立川駅北口店だ。


BOOKOFF SUPER BAZAAR 立川駅北口店。いつの時代もこの看板があると興奮する筆者なのであった(筆者撮影)

立川駅前のビルに入っていて、スーパーバザーの中では面積が小さいほうなのだが、それでも売られている商品種は膨大だ。


BOOKOFF SUPER BAZAAR 立川駅北口店の中はこんな感じ。「スーパーバザー」業態では、もはや本は売り物の一部に過ぎないのだ(筆者撮影)


ずらりと並ぶブランド品(筆者撮影)


じゃらじゃらしてる(筆者撮影)

パッと写真を見せられたら、ブックオフだと思わないだろう。どこぞのブランド買取店のようである。

中でも目を引いたのが、めちゃでかい「トレカコーナー」。近年その人気が加速し、投資対象にさえなりつつあるトレーディングカードがずらりと並ぶ。


もはや、ブックオフじゃないんだよな(筆者撮影)

驚いてしまったのが、その奧。トレカの対戦用スペースがでっかく取ってあるのだ。


めちゃくちゃ人がいる(筆者撮影)

ブックオフにトレカの対戦スペースだなんて。もはや「ブックオフ」と呼ぶのがふさわしいかどうかさえ、怪しくなってくる。


とはいえ、上の階はお馴染みのブックオフがある。謎の安心感(筆者撮影)

こうした商品種の拡大に、ブックオフの戦略が見えてくる。

「大型化」で「客層の拡大」をする

スーパーバザーを見ていると、なるほど、と思うことがある。客層が広くなっているのだ。

ブランド品や洋服コーナーには女性がいるし、トレカコーナーは圧倒的に20〜30代ぐらいの男性が多い。かと思えば、マンガコーナーでは、いつも通り中高生が立ち読みしていたりする。商品の種類が増えれば増えるほど、客層は広がる。


レゴの人形がずらっと並ぶ立川駅北口店。これまでの本・CD・DVDとは異なる客層が来ることだろう(筆者撮影)

こうした客層を広げる試みは、その立地戦略を見てもわかる。「スーパーバザー」、東京23区では1店舗だけで、都内で見ても立川、町田、多摩永山と郊外立地である。

注目したいのは、立川・町田とも国道16号線沿線の街で、ここは流入してくるファミリー層が多いエリアということ。2023年の住民基本台帳人口移動報告を見ると、0〜14歳の人口流入の上位には、町田市や八王子市、柏市や千葉市など16号線沿線の街が多くランクインしている。


ザ・ロードサイドな景色が続く国道16号線(筆者撮影)

つまり、郊外にいるファミリーに向けた店舗戦略を取っているわけだ。まさに客層の拡大。その意味でスーパーバザーの狙いは、とてもわかりやすい。

ブックオフが目指す「両利きの経営」

実はブックオフ、そもそもの始まりが「ファミリー層」に向けた店を展開していた。ブックオフの始まりは相模原で、その周辺には都会に通うサラリーマン層の家族が多く移り住んでいて、彼らに向けたビジネスだったのだ。

元々「古本屋」といえば、ちょっと薄暗くて本が高く積んであって……というイメージだったが、ブックオフは店内の照明を明るくし、本も見やすいように整然と並べ、それによってこれまで来ることのなかった女性層やヤング層にも支持されていく。

その意味では、ブックオフはいつの時代も「客層の拡大」を行ってきたのである。ある意味、「スーパーバザー」への転換は新規事業でもあり、ブックオフの理念を踏襲するものでもある。

その意味で事業の「深化」と「探索」の両軸が行われているといってもよい。この言葉は「両利きの経営」という経営概念の中で提唱されている言葉で、ある企業の経営戦略が伸びていくためには、既存事業の「深化」と新規事業の「探索」の両軸が必要だと述べたものだ。

そう思っていたら、ブックオフグループホールディングスの株主向け説明会資料に、まったく同じような説明があった。その中期事業計画を説明するページでは「探索と深化を兼ね備えた持続的な成長」が掲げられている。明らかにブックオフは「両利きの経営」を意識している。

ここでは「本を売るならブックオフ」から「本だけじゃないブックオフ」、さらに今後の展開として「ブックオフだけじゃないブックオフ」へと「ブックオフ」を軸にしつつも、それを展開することが掲げられている。

「ブックオフだけじゃないブックオフ」とは、どういう意味だろうか。実は、あまり知られていないが、ブックオフは「ブックオフ」以外にも多くの事業を行っている。

例えばその1つが、富裕層向けブランド買取サービスの「hugall」。三越や大丸、高島屋などの大手百貨店に店舗を構え、ブランド品をまとめて買い取るサービスを実施する。ブックオフのイメージとは合わないかもしれないが、「リユース」を核とするブックオフとしては必然的な展開だ。これも客層の拡大(富裕層への拡大)につながっているだろう。

あるいは、読んだ本のリストやその感想を書くことができるサービス「ブクログ」も、同グループに運営が委譲された。元々が書籍に関わるビジネスだけに、こうした事業展開も新しいようでいて、その理念は確かに踏襲されている。

「ブックオフの商材拡大」とともに、こうした事業拡大も行われており、まさに「ブックオフだけじゃないブックオフ」へとグループ全体が進化しているのだ。

ブックオフという「場所」の追求を


最後に少しだけ、今後のブックオフに期待していることを……。

先ほどの「スーパーバザー」来訪でも書いた通り、現在ブックオフでは「トレカ」商材の扱いを拡大させ、店舗によっては対戦スペースを設けている。さらにはブックオフ主催の「トレカフェス」なんかもやっていて、その力の入れようはすごい。

トレカ自体はメーカーによる安定供給等もあって、今後、利益的には薄くなるかもしれない。けれど、対戦スペースのような「場所」としての価値は、ブックオフがリアル店舗としてさらに追求すると面白いのではないか。

その点で、競合他社といえるTSUTAYAは、トレカ専門店をすでに都内に3店舗作っていて、トレカを通じた「コミュニティ」作りを強調している。


4月にリニューアルしたSHIBUYA TSUTAYAにはポケモンカードラウンジも誕生した(筆者撮影)

ブックオフについて書かれたものを読むと、そこで多く見られるのが「ブックオフという場所への愛着」だ。『ブックオフ大学ぶらぶら学部』(夏葉社・2020年)という本では、「ブックオフに救われた」さまざまな人の思い出が多く書かれている。今回の報道でも「ブックオフがなくなって寂しい」という声が紹介されているが、それだけブックオフは「場所」としての価値を持っているのだ。


郊外のブックオフに郷愁を覚える人も少なくないはずだ(筆者撮影)

特に近年は、アマゾンやメルカリの浸透により、新品であれ中古であれ、ネットを使えば楽にモノを手に入れられる時代。そんな中で「リアルな空間」はその空間ならでは価値を訴求していくことが、ビジネス的にも望ましい方向だろう。

「空間価値」をどのように深め、追求していくのか--。それが、今後のブックオフにとって、重要になるのではないだろうか。

(谷頭 和希 : チェーンストア研究家・ライター)