インタビューに答える三井住友フィナンシャルグループの中島社長(東京都千代田区で)=野口哲司撮影

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 「金利がある社会」が到来した。

 個人向け金融サービスのオリーブは、銀行口座やクレジットカードなどのサービスを一つのアプリに集約し、口座を増やしている。法人向けを含む戦略について、三井住友フィナンシャルグループの中島達社長に話を聞いた。(聞き手・岡田俊一)

「金利がつく世界」非常に大きい

 ――社長就任後の手応えを。

 「前任の太田が急逝してCEO(最高経営責任者)になったが、移行はうまくいったと思っている。お客様を始め、何よりも周囲の方々に助けてもらった。社長になった時に、執行役員を集めた会議で太田さんの最後の決算期になると伝えたところ、しっかりと受け止めてもらい、最高の業績になった。

 やっぱり企業は成長しなければいけないと思う。日本は人口が減るし、高齢化も進む。その中で日本の再成長という兆しがみえる。様々な分野で海外の比率が5割を超えてきたが、当社の国内ビジネスももう一度、しっかりと成長軌道に乗せたい。米国でジェフリーズと組んで企業取引を強化しているが、そういった戦略分野をしっかりと伸ばしていきたい」

 ――具体的な戦略を。

 「金利がつく世界になったのは非常に大きい。まずは預金ビジネスをしっかりやる。オリーブも300万口座を超えたが、ちょうどいいタイミングで展開ができている。銀行口座もクレジットカードの会員数も増えている。銀行で決済性のある預金を確保していく、個人向けはこれに尽きる。

 法人向けは、中堅・中小企業の決済性資金の取り込みについて、メガバンクはこれまであまり力を入れてこなかったように思う。そんな中で、デジタル系のプレーヤーが取るようになってきた。当社は、メガの中でも中堅・中小に強い。しっかりと取っていきたい。そのためには、デジタルサービス、決済と合わせた経理の効率化をしっかりと提案していきたい。デジタル系に負けない、便利なものを作っていきたい」

 ――金利がある時代で事業環境も変わってきた。

 「金利が上がってきているというのは、経済が成長し始めているということでもある。金利は経済の体温計だと言われており、体温が上がってきている。日本経済が成長に向けて動き始めている。成長をしっかり取り込む。成長を加速させるべく貢献していく。

 リスクも取っていく。日本の成長のために、取れるリスクはしっかり取る。たとえば、ベンチャー向けにだれがお金を出すのかという話もあるが、当社は様々な資金ニーズに対応できる。

 金融機関がリスクを取っていくことが、日本の成長に貢献する最大の方策だと思う。銀行には資本がある。この資本をお客様や社会のためにどうやって使うかというのがビジネスの根幹だ。反省を込めて言えば、バブル崩壊以降、ものすごく保守的になって、社会の発展のために十分にリスクを取ってきたとはいえない。

 日本の雰囲気も変わってきた。銀行グループが資本力を生かしてリスクを取っていく時期だと思う」

グループ連携し、最適なもの提案

 ――銀行と証券、グループ連携の重要性について。

 「お客様に包括的、総合的な金融サービスを提案するという意味で、銀行と証券会社、信託銀行、リース会社、クレジットカード。当社グループの機能を連携して、パッケージとして最適なものを提案するのは不可欠になってきている。今後もグループ内で連携してお客様に提案をしていく。

 銀行と証券では、ファイアウォール規制もあって、決められているルールは当然守るのは前提にある。ただ、連携すること自体をためらってはいけない。それぞれバラバラに提案するのではなく、組み合わせてお客様に一番いい提案をすることは役に立つはずだ。

 お客様の側に立てば、金融ニーズも複雑になってきている。単純に『お金を貸してください』というのならば銀行がやればいいが、借り入れだけでなく、エクイティ(株式)も必要ならば、投資家にもつなげられる。

 銀行と証券が一体でエクイティファイナンスをやりましょうと。日本でやるのか、グローバルでやるのか。公募増資だけなのか、CB(転換社債型新株予約権付き社債)でやるのか。トータルな提案ができる。

 企業の側もPBR(株価純資産倍率)を上げる中で、事業売却を考えることもある。投資銀行の機能もファイナンスの機能も必要になる。そういった時に、一体で対応できる。高度成長期のとにかく、お金を貸して下さいというニーズから変わってきている。

 個人向けも同じだ。1000万円の退職金をもらって、昔ならば定期預金でよかったが、国債や投資信託、上場投資信託(ETF)に投資したいというニーズもある。証券会社でないと対応できない商品もある。

 資産運用立国の流れを進めるにも、銀行から証券会社にお金を動かすことが重要だ」

4か国ターゲットに相当額を投資

 ――成長領域を伸ばす戦略は。

 「幸い業務環境もマイナス金利が解除されて改善してきて、収益力は上がっている。2023年度は最終利益が過去最高だった。投資余力は高まっており、いい案件があればしっかり考えたい。ターゲットにしている一つはアジアで、フルラインの金融サービスをやるプラットフォームを作ること。マルチフランチャイズ戦略を進めたい。4か国をターゲットに相当額を投資してきた。過去3〜4年で6000億円以上を投じた。まずしっかりと収益化させる。追加で買収したらいいような案件はしっかり考える。

 あとはやはり、米国が世界最大の金融市場で最も収益性が高い市場であるのは明らかだ。事業を強化する投資。金融当局の認可も必要なので、時間もかかるし、簡単ではないが、中長期的にはしっかり検討していきたい。

 ただ、一方で、過去にもアジアを中心に相当投資をしてきたが、リターンが出ているかといえば、十分ではない。投資したものの効果を上げていくのが大前提にある」

 ◆中島達氏(なかしま・とおる) 1986年東大工卒、住友銀行(現三井住友銀行)入行。経営企画を始め、中枢部門の経験が長い。最高戦略責任者(CSO)などを経て、2023年4月に副社長。太田純前社長の急逝で、23年12月に社長に就任した。グループで初めての理系出身トップ。高校・大学時代の7年間はラグビーに打ち込み、厳しい練習で心身を鍛えた。愛知県出身。