今では使う機会がめっきり減ったプリンターですが、業界大手のHPが純正インクカートリッジを使用しないと自社製プリンターを使えないようにファームウェアをアップデートしたことで多くの批判を集めています。そんなHPがプリンター関連の有用なアイデアをテストしていると、Ars Technicaが報じました。

In rare move from printing industry, HP actually has a decent idea | Ars Technica

https://arstechnica.com/gadgets/2024/09/in-rare-move-from-printing-industry-hp-actually-has-a-decent-idea/



プリンター業界は停滞しています。その理由は単純で、記事作成時点でほぼすべてのものがデジタル化されているため、以前のようにプリンターを使用する機会が減っているためです。情報の保存と共有方法が変化し、家庭やオフィスでのコミュニケーション方法が変化し、環境への懸念が高まったことは、プリンター業界にとって大きな逆風となっています。

しかし、プリンター業界が衰退したのは技術・経済・社会の変化だけが理由ではありません。「一般消費者にとってプリンターとその機能は退屈なものとなっており、プリンター関連の有用な新機能が登場したのはいつか覚えていないほど昔のことです」とArs Technicaは記しています。

また、プリンター業界の大手であるHPは消費者にとって不利な慣行の数々を行うことで、プリンター業界と顧客の間の信頼関係を壊す大きな要因となってきました。HPの最も悪質な慣行は、ファームウェアアップデートを利用してサードパーティー製のインクカートリッジではHP製のプリンターが動作しないようにしたことです。HP純正のインクカートリッジは価格がサードパーティー製インクカートリッジの2倍高いため、ユーザーからは不満の声が上がりました。

HPが「純正以外のインクを使うとプリンターが印刷を拒否」するアップデートを敢行しユーザーの怒りが爆発 - GIGAZINE



HPはこの件で顧客からの訴訟に直面。最終的に、罰金および顧客への補償金として135万ドル(約1億9600万円)を支払う羽目に陥りました。

HPのプリンターがサードパーティーの非純正インクをファームウェアアップデートでブロックした件で訴訟が提起される - GIGAZINE



by Justin Baeder

HP製プリンターがサードパーティー製インクカートリッジを検出するシステムは「Dynamic Security(ダイナミックセキュリティ)」と呼ばれています。しかし、ダイナミックセキュリティを理由に、電子機器製品が環境に対して配慮された商品であることを示す認証である「EPEAT」からHP製プリンターを削除すべきという声も上がるようになりました。

このような状況であるにもかかわらず、HPは記事作成時点でもダイナミックセキュリティの有用性を主張しており、同社のエンリケ・ロレス氏は「サードパーティー製インクがサイバーセキュリティ上の脅威になる」という非現実的な主張を続けています。

この他、HPは自社製インクカートリッジを挿していないとプリンターのスキャン機能やファックス機能まで使えないようにしており、この点でも同社は批判を集めています。

HPが「プリンターがインク切れを起こすとスキャンやファックス機能まで使えなくなるのは不当」との訴訟に直面 - GIGAZINE



プリンター業界で悪しき慣習を続けるHPですが、ユーザー向けに「印刷物を簡単に改善できる機能」を提供しているとArs Technicaが報じました。この機能は「Perfect Output(完璧な出力)」と呼ばれるもので、ベータ版のソフトウェアドライバーとして配布されており、一部のユーザーのみが利用できるようになっているとのこと。Ars Technicaは「Perfect Output」を、「特定の種類の印刷ジョブを簡素化および高速化する便利なツールになる可能性があります」と称賛しています。

「Perfect Output」はHPが2024年9月24日に発表したばかりの「HP Print AI」と呼ばれるAI機能のひとつです。Perfect Outputはウェブページの記事や書類、チュートリアル、スプレッドシートなどを印刷する際に、広告などの不要な要素をAIが削除してよりクリーンかつ自然なレイアウトで印刷ができるようになる機能。

以下はウェブページを普通に印刷しようとした場合の一例。余白や広告などが邪魔になり、無駄に多くの枚数を印刷する必要があります。



そんな時にPerfect Outputを使うと、広告や余白などの不要な要素をAIが自動で削除し、簡潔な印刷物を簡単に作成可能となります。印刷枚数も少なくなるため時間・インク・紙の節約にもなるとHPはアピールしています。



スプレッドシートなどの場合、テーブルやグラフがページをまたいで印刷されてしまうことがありました。



しかし、Perfect Outputを使えばページでテーブルやグラフが分割されないように、AIが自動でこれらを調整して印刷することが可能です。



Ars Technicaは「Perfect Outputが上手く機能すれば、人々は印刷にもっと興味を持つようになると思います。昨今、印刷にはさまざまなストレスが伴っていました。これらの問題のいくつかを取り除くことができれば、プリンターの評判を一新することにつながり、印刷は避けられる面倒な作業から簡単な作業にイメージを一新することができます」「この機能が正確に機能するかどうかは不明ですが、この機能には少なくとも明確な目的と対象があり、プリンターを使用する際に経験する煩わしさを解決するのに十分な機能であるように思えます」と記しました。

「Perfect Outputが一般公開された時点で完璧であるかどうかについて、私は依然として懐疑的です。しかし、このようなアイデアは、ビジネス市場の縮小に悩むプリンター業界からもっと出てくるべきものです」とArs Technicaはまとめています。