イスラエルとヨルダン川西岸地区にまたがるユダヤ砂漠で発見された約1000年前の種子を発芽させ、木まで育てることに科学者らが成功しました。「Sheba」と名付けられたこの木は、聖書に登場する「tsori(צֹרִי/ヘブライ語で樹脂の意)」という樹脂抽出物を産出する木の正体かもしれないとのことです。

Characterization and analysis of a Commiphora species germinated from an ancient seed suggests a possible connection to a species mentioned in the Bible | Communications Biology

https://www.nature.com/articles/s42003-024-06721-5



Lost Biblical tree resurrected from 1,000-year-old mystery seed found in the Judean Desert | Live Science

https://www.livescience.com/planet-earth/plants/lost-biblical-tree-resurrected-from-1-000-year-old-mystery-seed-found-in-the-judean-desert

1980年代後半、ユダヤ砂漠北部にある洞窟で発掘調査を行っていたヘブライ大学の考古学者が、正体不明の種子を回収しました。この種子は長さ約1.8cm、重さ0.565gで、長らくヘブライ大学の考古学部で保存されていましたが、イスラエルの研究チームはこの種子を栽培してみることにしたとのこと。



2010年にイスラエル・Center for Sustainable Agriculture(持続可能な農業センター)の温室で栽培が始まると、種子は植えられてから5週間後に発芽しました。



この標本は「Sheba」と名付けられ、それから10年以上にわたり栽培が続けられています。種子を植えてから12年が経過したShebaの様子はこんな感じ。記事作成時点でShebaの樹齢は14年で、高さは3m未満。木の放射性炭素分析の結果から、種子の年代は993年〜1202年にさかのぼることがわかっています。



樹皮は淡い緑がかった茶色で、薄い紙のようなシート状の上皮が剥がれた部分からは、濃い緑色の茎がのぞいています。DNA分析の結果から、Shebaはムクロジ目カンラン科のミルラノキ属(Commiphora)に属していることがわかりました。ミルラノキ属は主にアフリカマダガスカル・アラビア半島でみられ、古代エジプトでお香として使用されていた没薬も同じ仲間です。



まだShebaは開花しておらず、科学者がより詳細な分析を行うための生殖器官が確認できていないため、Shebaが属している正確な種は不明です。しかし、アラビアバルサムノキ(Commiphora gileadensis)のような香りが強い種との関連が弱く、アフリカ南部で発見されている3つの種との関連性が強いことは明らかになっているとのこと。

研究チームは当初、Shebaが古代の同地域で栽培されていた「Judean Balsam(ユダヤのバルサム、ギレアデのバルサム)」と呼ばれる香木の正体ではないかと考えていましたが、Shebaには芳香化合物が不足しているためこの仮説は却下されました。代わりに、Shebaは抗炎症作用や抗がん作用を持つ化合物が豊富なほか、葉や茎には抗酸化作用と肌を滑らかにする特性を持つ油性物質のスクワランも豊富に含まれていました。

これらの点から、研究チームはShebaがユダヤのバルサムの正体ではなく、聖書に登場する樹脂抽出物「tsori」を産出する木の正体なのではないかと主張しています。「tsori」は創世記やエレミヤ書、エゼキエル書に登場する、癒やしに関連する樹脂抽出物です。

研究チームは、「DNA塩基配列決定、系統学的分析、植物化学分析の結果と、歴史的・考古学的資料や植物地理学的データとの関連から、『Sheba』はかつてこの地域に自生していたミルラノキ属の絶滅種である可能性が示唆されました。この種はかつてこの地域に自生しており、その樹脂抽出物である『tsori』は聖書の原典に記載されています。これは癒やしに関連する貴重な物質と考えられていましたが、これらの文献には香りがあるとは記されていません」と述べました。