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その美しい音色と優雅な演奏スタイルで多くの人に愛されるハープ。今、SNS上ではそんなハープの奏者に対する世間のイメージと実態の乖離が大きな注目を集めている。

【写真】今では世界的な活躍を見せるハープ奏者・中村愛さん

「私ハープ奏者なんですけど、『ハープやる人ってお金持ちなんでしょ?』と聞かれる度に、学生時代にお弁当作れなかった日は、お昼買うお金なくてウォータークーラーで水飲んでお昼凌いでた話とか、亡くなった人の部屋の遺品片付けバイトしてた話とかしてます。」

と自身のエピソードを紹介したのはハープ奏者の中村愛(なかむら・めぐみ)さん。

スロヴェニア国防軍オーケストラ、九州管楽合奏団などと共演を重ね、世界的な活躍を見せる中村さん。「さぞお金持ちの家に生まれて…」と思う人がいるかもしれないが、実際は苦学して音楽大学に通い、経済的に切り詰めた環境の中で技術を磨いてきた。音大やクラシック音楽がお金持ちのものという世間の決めつけに対し、違和感を感じてしまうのは当然のことだ。中村さんに話を聞いた。

ーーハープ奏者を志したきっかけは?

中村:私の母は元々、私のことをピアニストにするのが夢だったのですが、ある時から「ピアノは人数が多すぎる…ハープはやっている人が少ないから可能性があるのでは?」と思ったそうです。忘れもしない小学校6年生の時、突然ハープという楽器も知らなかった私に「あなたはハープ科に行くのよ」と宣言してきたことがこの楽器を始めたきっかけでした。

ーー当時の経済的な環境は?

中村:私の家庭は基本的に「自分のことは自分で」というスタンスだったこともあり、音楽をやらせてきた割に大学以降は「じゃ、あとは自力でがんばって」という感じになり、奨学金を借りたりアルバイトをしたりで何とか大学に通いました。

ーー音大はお金がかかると言われます。大変だったでしょうね。

中村:ある日大学の前で、私が真後ろにいることに気付かなかった年配の女性三人が「ここ音大なのよ」「へー、みんな親の脛かじってんだ」という会話をしていて、危うくコブラツイストをかけそうになってしまいました。どうやら一部の方には、「音大=気楽に楽しく通っている」みたいなイメージがあるのかなと思います。苦労して音大に通っている人も周りには多くいたので、こういう偏見がなくなるといいなと思いました。

ーー遺品片付けのアルバイトをされた経緯は?

中村:私の知り合いがやっており、声をかけて頂いたのがきっかけでした。一番大変だったのは「あとは荷物の運び出しだけ」という現場に伺ったところ、何の片付けもできておらず朝の6時までかかって一晩中家の中の片付けをした時でした。しかもその日は後ろに朝の10時入りでハープを弾く仕事が入っていたので、気合いで向かいました。あの時の太陽の眩しさは忘れられません。

ですが、色々やったアルバイトで辛かったのは遺品片付けではなくて、実はティッシュ配りでした。ティッシュを配っている姿を見ると、受け取りたくない方々がそれまで真っ直ぐ歩いていたのに、急に円を描くように私の周りを避けて通るので、世界一嫌われ者になったような気持ちでした。これ以降ティッシュを配っている人がいたら必ず受け取るようにしています。余談ですが、駆け出しの頃のハープを弾く仕事で一番辛かったのは、「おめでとうございます、大当たりで~す!」と福引大会のハンドベルがガンガン鳴らされる横で演奏した時でした。お客様はゼロでした。

ーー演奏家としてメンタルにきますね…ともあれご投稿には大きな反響がありました。

中村:ただ自分にあった事実を述べただけだったので、驚きました。やはりハープ奏者と言うとお金持ちが優雅にポロポロと弾いている印象が一般的には強いのかなあと思いました。実は「男の楽器」と言われるぐらいハードな楽器で、目立たないですが両足で7つのペダルを、場合によっては数分で何百回も上に下に踏み変えているので、全然優雅ではありません。「貴族の楽器」でもないのですが、あまりにも楽器そのものに付いたイメージが先行してしまい、「お金持ちの楽器でしょ?だったら自分はやらないわ」と敬遠されてしまうこともあります。ハープがもっと多くの人に身近な楽器になるといいなと切に願っております。

◇ ◇

現在、日本のクラシック業界を取り巻く経済的状況は裕福どころか非常に厳しいと言われている。リスナーのみなさんには、お気に入りの演奏家や気になる演目があれば、ぜひ積極的にコンサートに足を運んでいただきたいと願う。

なお今回の話題を提供してくれた中村さんは11月4日に浜離宮朝日ホール(東京都中央区)でフランスの作曲家、ガブリエル・フォーレの没後100年を記念したコンサート『中村愛 伊藤悠貴 デュオ・リサイタル オール・フォーレ・プログラム』を開催する。『シシリエンヌ』や『ドリー』といった代表作から日本初演の知られざる作品まで、巨匠が遺した名曲を堪能できるまたとない機会なので要チェックだ。

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中村愛 伊藤悠貴 デュオ・リサイタル
オール・フォーレ・プログラム
2024年11月4日(月・祝)14:00開演
浜離宮朝日ホール(東京都中央区)
主催:朝日新聞社/浜離宮朝日ホール
曲目:シシリエンヌ、アンダンテ(日本初演)、レクイエム全曲(中村愛編)他 
チケット:一般\4,500/U30\2,000(全席指定・税込)

(よろず~ニュース特約・中将タカノリ)