この記事をまとめると

■いまやSUVは世界のスタンダードになりつつありセダン市場まで駆逐する勢いだ

■いままでSUV以外の形で販売されていたクルマたちもSUVスタイルへと進化を遂げている

■海外ブランドも名前はそのままにSUV形状を取り入れた新型モデルを投入している

SUVになって生まれ変わった名車たち

 2000年代前半から世界中で増え始めたSUVは、やがて大ブームとなって一大勢力を築きあげました。

 北米ではクーペからの乗り換えが急増したり、日本ではセダンやミニバンからの乗り換えが加速して、セダン人気だった市場を壊滅寸前に追い込んでいます。そして、いつしかSUVはブームではなく、定番となっていまもその人気を維持している状況。

 そんななか、世界中の自動車メーカーが新たなSUVを誕生させているのはもちろん、歴史あるセダンスポーツカーまでもが、存続をかけて同じ名前でSUVを登場させているのが興味深いところ。

 今回はそんな、昔のイメージをガラリと変えてSUVとなっているモデルをご紹介します。

 まずは、自動車業界全体に大激震を与えたといってもいい、大変身での登場となったトヨタ・クラウン。観音開きのクラウンこと、1955年誕生の初代クラウンからじつに15代続いた日本の伝統セダンとしての道を捨て、2022年に第1弾としてSUVとなるクロスオーバーが登場したのを皮切りに、スポーツ、エステート、セダンと4タイプのバリエーションをもつグローバルモデルへと進化したのです。

 それまでこだわってきたFRレイアウトではなくFFがベースとなったことや、どちらかというとオーセンティックなデザインを守ってきたクラウンらしからぬ、アグレッシブに攻めたデザインとなったことなどから、往年のユーザーや販売店からは猛反発が起こったことも話題となりました。

 しかし、発売してみれば販売はおおむね好調。とくに、これまでクラウンには見向きもしなかったような若い世代からも「かっこいい」と憧れられる存在となったことは、むしろ大成功といっていいでしょう。

 続いて、かつてはバブル絶頂の時代からスポーツカーとして北米を中心に人気を集めていた三菱のエクリプス。ロングノーズ・ショートデッキというスポーツカーらしいデザインと、三菱ならではのパワフルなターボエンジンといったパフォーマンスの高さも評価され、2代目は映画『ワイルド・スピード』で使用されてまたまた爆発的な人気に。日本独自のカスタム文化といわれる「スポコン」を世界的に広める立役者ともなっています。

 ただ、2005年に登場した4代目は日本へは導入されず、販売不振から北米専用車が廃止となったことから、エクリプスも2012年に姿を消してしまいました。

 それから5年後、クーペSUVとして新たに誕生したのがエクリプスクロス。かつてはガソリンだけでなくディーゼルモデルもあったのですが、現在はPHEVとガソリンがラインアップ。高い4WD性能とPHEVの魅力が詰まった、三菱らしいクロスオーバーSUVとなっています。

ひと昔前では考えられなかったようなクルマまで

 次は、「日本を代表するショーファーカーもついに!」と話題となったのがトヨタ・センチュリー。ただし、トヨタ公式ではいっさいSUVという言葉は使っておらず、あくまで「新しいボディタイプ」というにとどめています。

 とはいえ、厚みの増したボディ、地上高がアップしたフロア、スライドドアにも変更できる大きなドア、頭上スペースがたっぷりと取られた室内と、どこをどう見てもジャンル的にはクロスオーバーSUVといっていいでしょう。しかも、これまでのセダンタイプの名称を「センチュリー(セダン)」と改め、こちらのSUVタイプを堂々「センチュリー」と名乗らせているほど。

 そして、ひとつひとつ職人が手彫りをするというホイールの鳳凰エンブレムや、何度も磨き上げるという内装、最高級素材のシート、スイッチひとつで外部からの視線をシャットアウトする窓ガラスなどなど、素材も装備も日本最高峰であることは変わりありません。迫力の増したフロントフェイスなどの威力も相まって、どこへ移動するにもその存在感はものすごいものとなっています。

 さて、海外のメーカーでもいつの間にかSUVが登場している歴史あるモデルがあります。

 1960年代からアメリカンスポーティカーの代名詞として、かつては日本でも一世を風靡していたフォードマスタングSUVのEVとなっていたのにはびっくりですね。その名もマスタング・マッハEで、スポーツカーとしてのガソリンモデルは販売継続しつつ、マッハEは新たなマスタングの可能性を探ります。一方では、企業としての環境問題への責務をまっとうする役目を担っているともいえます。

 とはいえ、そのネーミングからして往年のファンの心をくすぐるのがニクイところ。マッハとは、1969年に設定されたマッハ1をはじめ、マスタングの高性能バージョンとして君臨してきたモデルに与えられていたネーミングです。

 フォードは日本から撤退してしまったため、マッハEの正式導入はされていませんが、デザインにはマスタングの伝統である縦3スロットのテールランプなどが継承されていたり、88kWhの大容量バッテリーと後輪駆動のモーターで、とんでもない加速を生み出すあたり、新世代のアメリカンマッスルカーをしっかり体感できるモデルとしているところはさすがです。

 もう1台、フランスの自動車メーカーであるシトロエンの伝統的セダンだったC5も、最近になってクロスオーバーSUVのC5Xが登場しています。しかも、リフトアップセダンと表現したくなるくらい、さりげないSUVテイストとなっていて、ボディサイズは全高が10mmアップしているのが特徴です。乗り心地もスポーティすぎず、シトロエンらしいしっとり感があるのも魅力となっています。

 じつは、このC5Xのインテリアのマテリアルデザイナーとして活躍したのは、日本人の柳沢知恵さん。人が触れるあらゆる部分に、シトロエンの新しいブランドアイコンを表現してほしいというミッションがあったそうで、加飾パネルやシート上部の刺繍、厚塗りプリントといった、気づいた人だけが楽しめるバラエティに富んだシトロエンの新しい表情が新鮮です。どこか、日本の伝統工芸にも通じる質感が感じられるところもあり、ちょっと懐かしい気もちになれるシトロエンモデルです。

 ということで、もはやブームではなく定番となったからこそ、昔のイメージからの脱却や新しい時代を先取りするべくSUVへと姿を変えたモデルたち。今後はいったいどうなっていくのか、見守っていきましょう。