これまでの研究で、適度な運動は身体の健康維持だけでなく脳機能改善にもつながることが報告されています。新たに、クイーンズランド大学の研究者らが「高齢者の記憶力を高めるために最も役立つ運動は『高強度インターバルトレーニング(HIIT)』である」との研究結果を発表しました。

Long-Term Improvement in Hippocampal-Dependent Learning Ability in Healthy, Aged Individuals Following High Intensity Interval Training - PubMed

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/39012673/

HIIT workouts linked with better brain health, research finds - even five years later

https://theconversation.com/hiit-workouts-linked-with-better-brain-health-research-finds-even-five-years-later-236101



研究チームは認知機能低下の兆候が確認されなかった65〜85歳の成人194人を対象に調査を実施。被験者は30分間のストレッチやバランス運動、リラクゼーションのエクササイズを実施する「低強度のワークアウト群」、ランニングマシンを用いて30分早歩きを行う「中強度のワークアウト群」、4分間の激しい運動と3分間の休憩を計4回繰り替えす「HIITセッション群」の3つに分けられ、週に3回これらのワークアウトを6カ月間実施しました。

6カ月にわたるワークアウトの後、被験者には記憶力をテストするための課題が与えられました。調査の結果、HIITセッション群の被験者は、低強度のワークアウト群や中強度のワークアウト群の被験者と比べて、課題でのエラーが少ないことが明らかとなりました。



また、5年後に同様の課題を実施しても、HIITセッション群のスコアは他の群と比べて優れていたことが報告されています。

さらに、HIITセッション群は加齢に伴う脳容積の縮小が少ないことが確認されています。実際に被験者の脳をMRIでスキャンすると、HIITセッション群は、記憶に関する脳領域である右海馬が、他の2つのグループよりも良好に維持されていたことが示されています。

バーミンガム大学のフェリシティ・スペンサー氏らは、HIITセッションが脳の健康に良い影響をもたらした要因について「HIITが心肺機能を向上させたことによる血圧の低下」「炎症レベルの低下」「脳細胞の成長と修復を刺激するタンパク質のレベルの上昇」と推測しています。

高血圧は脳の機能低下に関連しており、健康的な血圧を維持することは脳の健康にとって非常に重要です。また、長期間にわたる炎症は脳組織の機能低下に関連しているほか、パーキンソン病やアルツハイマー病の発症にも関連しているとされています。さらに、HIITワークアウトは血液中の「脳由来神経栄養因子(BDNF)」と呼ばれるタンパク質のレベルを上昇させるとのこと。BDNFはニューロンの成長と修復を刺激する一方で、加齢によって減少することが指摘されています。



研究チームは今回の実験について「この研究では認知機能低下の兆候を示さなかった人々のみを対象としており、認知障害を抱えた人でも同様の知見が得られるかどうかは不明です。また、HIITセッションはランニングマシンを用いて行われたため、参加者が他の形式の運動を行った場合には別の結果が得られる可能性があります」との課題を示しました。

その一方で、HIITの効果が5年後にも見られたことから、論文に「海馬機能がこれほど持続的に改善したことは、このような運動ベースの介入が高齢者の海馬認知機能低下を大幅に予防できることを裏付けています」と記しました。