入社前から「副業」考える学生7割の衝撃 「本業も知らないのに」と思う前に...イマドキ学生のキャリア意識を知ろう/マイナビ・中島英里香さん
まだ入社もしていないのに、就活中、あるいは内定を得た学生の約7割が「副業」を検討しているという。
就職情報サイトのマイナビ(東京都千代田区)が2024年7月8日に発表した「マイナビ 2025年卒 大学生活動実態調査(6月)」で明らかになった。
本業も知らないうちから副業を考えてどうする? と喝を入れたくなるが、イマドキの学生気質を、調査をまとめたマイナビの中島英里香さんに聞いた。
「就職先の給与だけでは最低限の生活」と考える学生が半数
マイナビの調査(2024年6月25日〜30日)は、2025年3月卒業見込みの大学生、大学院生3808人(文系男子780人、同女子1494名、理系男子819名、同女子715人)が対象だ。
学生に就職後の収入と生活のイメージについて聞くと、「就職先の給与のみで最低限の生活はできると思う」という回答が最も多く49.4%に達し、「就職先の給与のみで満足する生活が続けられそう」(36.7%)が続いた。
約半数の学生は、給与では生活のための最低限の額だけで、趣味にかかる費用など理想的な生活を送るには十分ではないと感じているようだ【図表1】。
そこで、就職後の副業について聞くと、副業を検討している学生は66.0%で、「副業を行わない」(33.9%)の約2倍となった【図表2】。
行いたい理由には「貯金や自由に使えるお金を確保するため」(61.6%)や「生活費や学費(奨学金等)など生計維持のため」(38.8%)など金銭的な項目が上位に挙がった。
その一方で、「新たな知識や経験を得るため」(33.6%)、「自分自身の知識や能力を試してみたい」(23.9%)などの理由も挙がり、スキルアップのために副業を検討している様子も見られた【図表3】。
大学1、2年の時から「副業」や「起業」を考えている
こうした結果をどうみたらよいか。J‐CASTニュースBiz編集部は、リポートをまとめたマイナビのキャリアリサーチラボ研究員の中島英里香さんに話を聞いた。
――就活中、あるいは就活を終えたばかりの学生が、もう「副業」のことを考えていることに驚いています。これまで、学生の「副業」に関する調査をしたことがありますか。
中島英里香さん 今年(2024年)1月、2026・27年卒の学生が大学1・2年生の時に聞いたアンケート調査があります。その結果、副業について、「なんとなく興味はある」が一番多く29.4%となりました。
「いつかは勉強しようと思っている」は20.1%、「将来実施したいので、勉強している」は7.8%となり、大学低学年時から副業について前向きに検討している学生もいるようです。
なお、同時に「起業」についても聞くと、「興味関心がある・勉強している」が35.7%いました。
――大学1、2年生のときから「副業」や「起業」のことまで考えているわけですね。就職後の収入と生活のイメージをみると、約半数が「生活するための最低限の金額をもらえるが、理想の生活には不十分」と答えています。
また、副業を検討しているかなり多くの学生が、金銭的な理由をあげています。ズバリ、就職前から副業を考える学生がこれだけいるということは、お金の問題が大きいのでしょうか。
中島英里香さん 具体的にお金に困っているというよりは周囲の大人やニュースなどで見る経済の状況からシビアに考えたうえでの結果だと思います。
その背景には物価高など日本経済の不安定さや、人生100年時代に向けた長期的なキャリア形成の必要を感じ取っているからだと思います。
「入社予定先企業で長く働きたい」学生が意外に多い
――就職前には「まず、どうやって仕事を覚えようか」と考えることが普通と思いますが、学生の働く意識が変わってきているということでしょうか。
中島英里香さん もちろん就職先でのスキルアップやキャリアも考えていると思います。しかし、学生によって満足する金額は違ってきます。
理想とする収入との差分を得るために、就職先で収入を増やすという選択にくわえて、「副業を行う」という選択も学生にあるということだと思われます。
――副業を検討する理由をみると、「新たな知識や経験を得るため」「自分自身の知識や能力を試してみたい」「将来の独立準備」「色々な分野と繋がり、人脈を広げるため」といった項目が高いですね。
これは、就職前から「転職」を意識しているのでしょうか。それとも、キャリアアップを考えている前向きな意識の表れととらえたほうがいいのでしょうか。
個人的には、「新たな知識や経験を得る」とか「自分自身の知識や能力を試したい」という項目は、入社先の仕事をまず覚えて、その仕事を通じて身に着けていけばよいではないか、と考えますが。
中島英里香さん 直接的に「転職」を考えてというよりは「人生100年時代」と言われているように長く働くことを想定していることや、終身雇用制度が成り立たなくなっていることを踏まえ、自律的なキャリア形成が必要であるという観点からの結果だと思われます。
今年5月に2025年卒の学生を対象にした調査で、「入社後のその先のキャリアについて、どのように考えているか」を聞きました。「入社予定先企業で長く働きたい」が57.6%で最も多く、「10年以内に転職したい」(9.7%)も含めて転職を視野に入れている学生は27.0%でした。
「新たな知識を得る」「能力を試す」というポジティブな理由
――やはり、転職志向が3割近くいるわけですね。ところで、企業の人事担当者や上司は、これから入ってくる新入社員の多くが「副業」を検討していることをどう受け止めて、どう対応していけばよいと考えていますか。
中島英里香さん 今回の調査はまだ入社をしていない学生へ「イメージ」を聞いているものです。実際に入社して収入を得ることで考えが変わることも十分考えられますので、特別に何かを行う必要はないと思います。
しかし、副業が選択肢に含まれているという点については、認識していただいていたほうが学生の理解につながると思います。
――今回の調査で、特に強調しておきたいことがありますか。
中島英里香さん 今まで副業は金銭的に苦しくなった際の手段としてとらえられていることが多かったかと思います。しかし、調査では副業に対して「新たな知識や経験を得るため」「自分自身の知識や能力を試してみたい」といったポジティブな回答が一定数見られました。
学生のキャリア観の変化とも言えますし、テクノロジーの進歩によって以前よりも副業を行うハードルや種類、手法が増えたためとも言えると思います。
学生が副業を考えることに対してネガティブにとらえるのではなく、個々人の副業をしたいという気持ちの背景を知ることが重要だと考えられます。
(J‐CASTニュースBiz編集部 福田和郎)
【プロフィール】
中島 英里香(なかしま・えりか)
株式会社マイナビ キャリアリサーチラボ研究員
2016年マイナビ入社。新卒採用の求人広告営業を経て、採用管理システム担当として東日本の中小企業・大手企業の新卒採用支援や採用業務代行などを行う。現職では新卒領域の調査を担当。