国軒高科はアメリカやEUと自由貿易協定を結ぶモロッコへの大規模投資を決断した。写真は同社とモロッコ政府の戦略投資契約の調印式典(モロッコ政府のウェブサイトより)

中国の車載電池メーカーの国軒高科(ゴーション・ハイテク)は、北アフリカのモロッコに大規模な電池工場を建設する。

同社は6月6日、モロッコの首都ラバトで(モロッコ政府との)戦略投資契約を締結。調印式には同国のアジズ・アハヌッシュ首相が立ち会った。

モロッコ北西部の港湾都市ケニトラに128億モロッコ・ディルハム(約1992億円)を投じて、年間生産能力20GWh(ギガワット時)の工場を建設する。将来は生産能力を100GWhに引き上げる計画で、総投資額は650億モロッコ・ディルハム(約1兆114億円)に達する見通しだ。

「インフレ抑制法」がきっかけ

国軒高科は、モロッコの新工場で生産する車載電池の供給先について現時点では明らかにしていない。財新記者の取材に応じた中国の電池業界関係者は、主な供給先は北米やEU(欧州連合)の完成車工場になるだろうとの見方を示した。

背景には、アメリカのバイデン政権が2022年8月に成立させた「インフレ抑制法」の影響により、モロッコが中国の電池関連メーカーの新たな投資先として注目を集めていることがある。

インフレ抑制法は、アメリカの消費者が購入するEV(電気自動車)に1台当たり最大7500ドル(約117万円)の税額控除を認める一方、その条件の1つとして、EVに組み込まれる車載電池の原材料の一定割合以上をアメリカ国内またはアメリカと自由貿易協定(FTA)を結んでいる国で生産することを要求している。

モロッコはアメリカとFTAを締結している。ということは、モロッコで加工・生産した原材料を使って電池を製造すれば、それを組み込んだEVはアメリカ市場でインフレ抑制法の優遇措置を享受できることになる。


車載電池のグローバル市場で、国軒高科の存在感はまだ小さい。写真は安徽省合肥市の本社ビル(同社ウェブサイトより)

それだけではない。モロッコはEUともFTAを結んでおり、地理的にも近い。こうしたメリットが中国の電池材料メーカーの投資を引きつけ、2023年だけでも雅化実業集団、華友鈷業、中偉新材料、貝特瑞新材料集団などがモロッコでの工場建設を発表した。

そこに国軒高科の電池工場が加われば、モロッコの電池産業のサプライチェーンは(原材料から電池の完成品まで一貫生産できる)より充実したものになるはずだ。

筆頭株主はドイツのVW

とはいえ、車載電池のグローバル市場における国軒高科の存在感は、現時点では決して大きいとは言えない。


本記事は「財新」の提供記事です。この連載の一覧はこちら

市場調査会社SNEリサーチのデータによれば、2024年1月から4月までに生産された新車に搭載された国軒高科製の電池は合計4.8GWhにとどまり、世界シェアは2.2%、メーカー別の順位は世界第9位だった。

そんな国軒高科がモロッコへの大規模投資に踏み切った背景には、同社の大株主の意図が働いているとの見方もある。国軒高科の筆頭株主はドイツ自動車大手フォルクスワーゲン(VW)グループの中国法人であり、発行済株式の24.68%を保有している。

(財新記者:盧羽桐)
※原文の配信は6月7日

(財新 Biz&Tech)