腐る地方県警…5人逮捕の鹿児島県警「百条委員会」でメンツ丸つぶれ!出向中の岡山県警幹部は不同意性交容疑で逮捕、崩壊したガバナンス

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 鹿児島県警で相次いでいる不祥事が、警察組織への国民の信頼を根幹から揺るがしている。中でも、生活安全部長経験者という、都道府県警の最高幹部にまで上り詰めた人物が内部情報を漏えいして逮捕された事件は、警察組織内にも大きな衝撃を与えた。一般企業で言えば「役員」に当たるポストで、階級社会による厳格なピラミッド構造をつくる警察組織の最上部に位置する。

 しかし、最近では鹿児島以外でも、同様の地元県警採用の最高幹部が逮捕や書類送検される異常事態が続いており、地方警察のガバナンス崩壊が目立つ。背景として、内閣官房などの中央ポストに人材を取られる警察庁キャリアが、近年は地方警察の枢要ポストを経験できなくなっていることを指摘する声も上がる。地方軽視の“ツケ”は、警察そのものの崩壊を招きかねない事態に発展しているーー。

鹿児島県警で頭を下げたのは国土交通省の官僚

「改めて深くおわびする」

 5月31日、鹿児島県警で開かれた記者会見で、県警の西畑知明警務部長は深々と頭を下げた。県警はこの日、警察職員が起こしたストーカー規制法違反事案の被害女性の個人情報を含む内部情報を外部に漏らしたとして、前生活安全部長の本田尚志被告(6月21日に国家公務員法違反の罪で起訴)を逮捕した。2023年7月に警務部長に着任した西畑氏が頭を下げるのは、実はこの時が初めてではなかった。鹿児島県警では昨年10月以降、別の情報漏えい事件や、盗撮、不同意わいせつなどで、本田被告を含む計5人が逮捕されている。

 県警そのものの存在基盤を脅かす事態だが、その矢面に立った西畑氏自身は、国土交通省から出向している国交官僚だった。捜査や治安活動とは無関係のキャリアを歩んできた西畑氏が就く警務部長は、監察部門を指揮する立場にある。監察部門について、ある警察OBは「監察は『警察の中の警察』と呼ばれている。職員の不祥事だけでなく、危機管理の観点から組織内に幅広く目を光らせる。警察組織に潜り込んだ過激派のあぶり出しも行うなど組織防衛の要だ」と話す。そんな重要ポストに、なぜ捜査経験のない国土交通省の官僚が就いていたのか。

 ある社会部記者は「地方警察の警務部長は、かつては警察庁のキャリアが必ず通るポストで、そこで警察の組織管理のイロハを学んだ。だが近年は、国家安全保障局など中央のポストに人材を割かれ、本部長以外の地方警察のポストは、いわゆる準キャリアや、他省庁からの出向者、技官に任せることが常態化している」と解説する。

本田被告の主張と、本来の記載はつじつまが合わない

 ここで、改めて本田被告の起こした事件を振り返りたい。本田被告は、今年3月28日、県警の職員が起こしたストーカー事案の被害女性の名前を含む内部情報をまとめた文書を札幌市のライターに送付したとされる。4月8日に別の捜査情報漏えい事件の関係先として、県警が福岡市のネットメディアを家宅捜索した際に、文書データが見つかり、本田被告の事件が浮上した。

 県警は5月31日に国家公務員法違反(守秘義務違反)の疑いで本田被告を逮捕したが、6月5日に鹿児島簡裁で開かれた勾留理由開示手続きで、本田被告は突如、県警枕崎署員が起こした盗撮事件の捜査で野川明輝県警本部長が事件を隠蔽するよう指示したと主張した。本田被告の情報漏えい内容が内部告発の意味合いを帯びたことで、メディアからの注目が一気に高まった。

 だが、その後の鹿児島県警の説明によると、本田被告が当初、札幌市のライターに送った文書には、野川本部長の隠蔽を指摘する記載はなく、代わりに当時の刑事部長が盗撮事件の「静観を指示した」との記載があった。県警の調査では、本田被告が勾留理由開示手続きで主張した本部長の隠蔽指示や、ライターに送付した文書に記載された刑事部長の指示は虚偽であると認定されている。そもそも「本部長が隠蔽を指示した」とした本田被告の主張と、本来の記載はつじつまが合わない。

「告発」事件の背景に組織内の出世競争説

 ある警察関係者は「この事件の動機は、本田被告が同い齡でライバル関係にあった刑事部長の名誉を傷つけようとして起こしたのではないか」とみる。本田被告が文書に名前を記載した刑事部長は、本田被告と同い齡で、県警内の出世競争でライバル関係にあった。地元トップの鹿児島大学を卒業して県警警察官を拝命した本田被告は、高卒で県警に入っていた年齢同期の刑事部長よりも出世競争でリードしていたが、ある時期に逆転されたという。

 刑事部長も生活安全部長も、都道府県警採用のいわゆる「ジカタ」と呼ばれる警察官にとっては、ともに最高クラスのポストだが、県警では刑事部長がジカタポストの頂点とされる。警察関係者は「本田被告が刑事部長になれなかった自身の処遇に不満を持っていたのではないか」と明かす。

公務員は、どんなに能力があっても給料では差がつかない

 警察事情に詳しい社会部記者は「公務員は、どんなに能力があっても給料では差がつかないため、経歴や最後にどのポストに就いたかでしか自尊心を満たせない。中でも政治家の大臣をトップに持たず、官僚である警察庁長官を頂点とする組織構造を持つ都道府県警の出世競争は、気に入られたキャリア警察官が出世するかなど独特の政治の世界がある」と解説する。起訴を受け、今後は本田被告が裁判でどのような主張を展開するかに注目が集まる。

 警察当局が頭を悩ませているのは、実は本田被告の逮捕だけではない。最近、こうしたジカタトップによる不祥事が相次いでいるのだ。今年1月には、岡山県警の交通部長の男性警視正が、部下の女性警察官に昇進試験の問題内容を漏らしたとして書類送検された。さらに、同じ岡山県警から中国四国管区警察局に出向していた警視正の男が昨年11月に不同意性交容疑で逮捕され、今年2月に勾留先の広島中央署の留置施設内で自殺した。

 男はマッチングアプリで知り合った女性に自身が警察官であることを明かして「始末書」を書かせた上で、性行為を強要していた。被害女性は少なくとも5人に上り、常習性も伺えた。前出の社会部記者は「鹿児島を含む一連の事件は、国民に一番近い都道府県警の信頼が揺らぐことが、組織全体にとっていかに重大な危機を招くかを改めて知らしめた」と指摘。「今後は中央ポストに偏っていた警察庁キャリアの人事も見直されるのではないか」と推測する。

鹿児島県議会「百条委員会」で警察のメンツは丸つぶれ

 鹿児島県警の不祥事を巡っては、県議会で「百条委員会」を設置する案も浮上している。百条委員会が設置されれば、議会が調査権を行使して、県警関係者の出頭や記録の提出を要求できる。虚偽の証言には罰則も科される重い対応で、仮に実現すれば法執行機関である警察のメンツは丸つぶれだ。

 近年の中央偏重人事を危惧してきたある警察庁OBは、内閣官房など警察キャリアの出向先の増加に理解を示しつつも「今の露木康浩長官や、その前の中村格長官は、地方で本部長経験がない。本部長経験がないトップが、47人の本部長やその下にいる警察官たちを束ねられるのかを懸念するOBは多かった」と明かした。

鹿児島県警に対し、6月24日から約10年ぶりの「特別監察」を実施

 警察庁は一連の不祥事の原因を検証するため、鹿児島県警に対し、6月24日から約10年ぶりの「特別監察」を実施。警察庁の首席監察官以下監察部門の職員を県警に派遣し、野川本部長への聴取も含めて、組織風土に切り込んだ抜本的な再発防止策の策定を目指している。

 警察庁の露木康浩長官は6月27日の記者会見で「鹿児島県警に対する信頼回復のための道筋を、1日も早く明らかにすることが重要であると考えております。スピード感をもって行われる様に、警察庁の監察担当の職員を鹿児島県警察に常駐させ、厳正な監察を実施してまいる所存であります」と述べた。都道府県警への信頼こそ、警察の原点であり、全ての基盤だということが改めて浮き彫りになった。