コロナは本当に価値があると感じるものへの消費傾向を高めました。飲み会文化が消失したのは典型例です。結婚式にもその傾向が出始めているのです。

 呼ぶ必要のないゲスト、テンプレ化した幼少期からのビデオ映像、イミテーションのウエディングケーキなど、カップルが必要ないと感じればすっぱりと切り詰めます。その一方で、ドレスや料理などこだわる部分にはお金をかけます。商品力や提案力を高めることで、単価増を狙える余地が生まれたのです。しかし、従来型の提案は通用しなくなりました。

◆単価が回復した2社に共通しているのは…

 テイクアンドギヴ・ニーズの2024年3月期(4Q)の婚礼単価は392.4万円。コロナ前の394.7万円とほぼ同じ水準まで回復しています。

 同社は料理単価やドレス単価の向上を要因として挙げています。消費者意識を上手くつかんでいるのが分かります。

 ブラスは2024年7月期(3Q)の単価が402.9万円。2020年7月期(2Q)は392.3万円でした。

 2社の原価率を見ると、テイクアンドギヴ・ニーズはコロナ前の36.7%から33.4%に3.3ポイント、ブラスは37.6%から32.7%へと4.9ポイントそれぞれ下がっています。

 2社ともにこれほどのインフレ下で仕入価格や水道光熱費、人件費などの結婚式場運営経費を切り詰めたとは考えづらく、販売単価を上げたことが主要因でしょう。商品力、提案力を高めて原価を低減。営業利益率を高めたのです。

◆原価率が高ければ顧客満足度が上がるわけではない

 エスクリの2024年3月期の原価率は43.6%で、コロナ前の42.9%から増加しています。

 なお、エスクリは建築不動産関連事業を手掛けていますが、売上高は44億円程度。全体の2割にも届いていません。この事業の営業利益率はブライダル事業と変わらないことから、原価率には大きく影響していないと仮定をしています。

 エスクリはターミナル駅のビルの高層階に、結婚式場を設けるビジネスモデルでした。アクセス性と景観が最大のセールスポイントなのです。

 この戦略を採用した理由があります。先ほどのゼクシィの調査で、結婚式場を訪問する重視点を尋ねると「交通の便がよいこと」が61.5%と、「料理」に次いで高い要因になっているのです。

 競合との明確な差別化ポイントがあったため、提案力が磨かれなかった可能性があります。エスクリの代表取締役社長は渋谷守浩氏。エスクリが買収した建設会社の社長で、婚礼業界の出身者ではありません。

 オリコンは2023年8月に結婚式場の満足度調査を発表しています(「オリコン顧客満足度調査」)。それによると、ブラスは3位、テイクアンドギヴ・ニーズは5位、エスクリは11位でした。原価率が高いからといって、顧客から支持されているわけではないのです。

 ブライダル業界は商品力と提案力で付加価値をのせ、顧客満足度も高めるという難易度の高いビジネスへと移行しています。

<TEXT/不破聡>

【不破聡】
フリーライター。大企業から中小企業まで幅広く経営支援を行った経験を活かし、経済や金融に関連する記事を執筆中。得意領域は外食、ホテル、映画・ゲームなどエンターテインメント業界