インターネットやSNSは非常に便利なものですが、使いすぎによってメンタルヘルスに悪影響が出て幸福度が低下するという報告もあるため、近年では「インターネットの使いすぎを規制する方がいいのではないか」という声も上がっています。ところが、イギリスのオックスフォード大学が行った新たな研究では、世界168カ国に住む200万人以上から収集した調査結果により、「インターネットの使用は全体的に見ると幸福度の向上に関連している」ということが明らかになりました。

A Multiverse Analysis of the Associations Between Internet Use and Well-Being · Volume 5, Issue 2: Summer 2024

https://tmb.apaopen.org/pub/a2exdqgg/release/1



Internet use statistically associated with higher wellbeing, finds new global Oxford study | University of Oxford

https://www.ox.ac.uk/news/2024-05-14-internet-use-statistically-associated-higher-wellbeing-finds-new-global-oxford-study

Internet use is associated with greater wellbeing, global study finds | Internet | The Guardian

https://www.theguardian.com/technology/article/2024/may/13/internet-use-is-associated-with-greater-wellbeing-global-study-finds

以前からインターネットの使用と幸福度の関連についてはさまざまな研究が行われており、一部の研究ではインターネットが幸福に悪影響を及ぼす可能性も示唆されています。ところが、これまでの研究の多くは北米やヨーロッパの先進国で行われたものであり、その中でも特に若者や青少年に焦点を当てたものが多いなど、調査範囲が限定的であるという問題があったとのこと。

オックスフォード大学インターネット研究所の人間行動学教授であるアンドリュー・プシビルスキ氏は、「インターネット技術やプラットフォームと、それらが心理にもたらす潜在的な影響については議論が続いていますが、これまでの研究は決定的なものではなく、地理的・人口統計学的な範囲も限られています。圧倒的多数の研究は北半球と若年層に焦点を当てており、インターネットの普及が世界的な現象であることを無視しています」と述べています。

そこでプシビルスキ氏らの研究チームは、世界各国に住む幅広い年齢層の人々から収集したデータを分析し、インターネットの使用と幸福度についての関連性を調べました。プシビルスキ氏は、「私たちはインターネットアクセス、モバイルインターネットアクセス、積極的なインターネットの利用が、ライフステージを超えた世界レベルで心理的ウェルビーイングをどのように予測するのかを分析し、このギャップを解決しようと試みました。私たちの知る限り、このような問題に直接取り組んで世界規模の議論に取り組んだ他の研究はありません」とコメントしています。



研究チームが分析したデータは、アメリカの市場調査会社・ギャロップが2006〜2021年にかけて、世界168カ国の総勢約240万人から収集したものです。被験者の年齢は15〜99歳と幅広く、インタビューではインターネットへのアクセスや使用、人生の満足度、社会生活、人生の目的、コミュニティの幸福といった幸福度に関する指標について回答しました。

研究チームは3万3792もの異なる統計モデルを用いて、収入や教育、健康問題など結果に影響を及ぼす可能性がある要因を考慮した上で、インターネットと幸福度の関連について分析しました。その結果、インターネットへのアクセスおよび使用、モバイルインターネットへのアクセスは一般的により高い幸福度と関連していることがわかりました。

インターネットと幸福度の関連性のうち84.9%がポジティブなもの、0.4%がネガティブなもの、14.7%が統計的に有意ではないものだったとのことです。研究チームは、インターネットにアクセスできる人の方が生活満足度の尺度が8.5%高いことがわかったと報告しています。

なお、今回の研究はインターネットと幸福度の因果関係について証明したものではなく、あくまで関連性を明らかにしたものである点に注意が必要です。また、インターネットに費やした時間の長さや使用目的など、関連性があり得るいくつかの要因については考慮されていないとのことです。



プシビルスキ氏は、「全体としてインターネット導入と幸福度の平均的な関連性は一貫しており、インターネットを使用できる、あるいは積極的に使用している人は、そうでない人に比べて有意に高い幸福度を報告していることがわかりました」と述べています。

その上でプシビルスキ氏は、近年は子どもや若者のインターネット使用を規制する動きが進んでいる点に触れ、「若い人たちにとってインターネットの世界をより安全なものにするには、事前の強い信念や画一的な解決策に従ってやみくもに突き進むべきではありません。私たちは、データによって考えを敏感に変えなくてはなりません」と指摘し、インターネットと幸福度の関連性を再考するべきだと主張しました。