「地球の表面積の70%は海」と言われるように、地球には豊富な水が存在しています。にもかかわらず、一部の地域は「水不足」や「干ばつ」といった深刻な問題に直面しています。そのため、海水を淡水に変える技術の開発が進められていますが、さまざまな問題があり、大規模な実現には至っていません。その理由について科学系YouTubeチャンネルのPractical Engineeringが解説しています。

Why Is Desalination So Difficult? - YouTube

Why Is Desalination So Difficult? - Practical Engineering

https://practical.engineering/blog/2023/6/28/why-is-desalination-so-difficult

アメリカ・カリフォルニア州サンディエゴにあるカールスバッド海水淡水化プラントでは、1日当たり2万3000立方メートルの淡水を生産しています。



一般的な浄水プラントは川や湖の水を浄化していますが、カールスバッド海水淡水化プラントでは海から直接水をくみ上げています。



世界にはカールスバッド海水淡水化プラント以外にも1万8000以上の海水淡水化プラントが稼働しており、これらが水産業で使用される全エネルギーの約4分の1を消費しています。しかし、海水淡水化プラントは世界の水需要の1%未満の水しか生産することができていません。

その理由は海水に含まれる塩分です。一般的に、海水1リットル当たり約35グラム(35パーミル)の塩分が含まれており、世界保健機関(WHO)は、溶解固形物が10パーミルを超える飲料水は消費者に受け入れられないと規定しています。そのため、海水を飲料水へと変えるためには水中の塩分を98%以上除去する必要があります。

塩分の除去には、液体を加熱して発生した気体を冷やして再び液体にして集める蒸留が用いられます。Practical Engineeringの実験では、海水の蒸留で約200ミリリットルの淡水を作るには約2時間かかり、1キロワット時の電力量を要しました。アメリカでは1世帯当たりの1日の水消費量は1100リットルといわれています。海水を淡水に変える蒸留装置でこの規模の水を生産する場合、装置の稼働には6000キロワット時もの電力量が必要になり、1世帯分の水を作るだけで1日当たり800ドル(約12万3000円)もの電気代がかかってしまうそうです。



また、海水の蒸留を行うと淡水化される際に発生した塩が堆積します。これらの堆積物は熱伝導率が低く、沸騰の効率を低下させるため、定期的に除去する必要があります。しかし、大規模な淡水化プラントでは手作業での堆積物の除去は困難です。



そこで、中東の海水淡水化プラントでは沸騰よりも低い温度で強制的に蒸発を起こすことで塩の堆積を最小限に抑える「フラッシュエバポレーター」と呼ばれる淡水化プロセスが用いられています。



フラッシュエバポレーターでは、水溶液が薄い膜のバリアを通って拡散する「浸透」と呼ばれる現象が用いられます。基本的に浸透では低濃度の水溶液が高濃度の水溶液へと引きつけられますが、淡水化の際には大気圧の数十倍の圧力をかけることで、このプロセスを逆にすることが可能です。



フラッシュエバポレーターを使った淡水化は蒸留による淡水化よりもはるかに効率的で、Practical Engineeringの実験では1リットルの淡水を生成するまでに要した時間は約5分でした。そのため、一般的な船舶ではこの淡水化プロセスが使用されています。



しかし、この淡水化プロセスも蒸留と同様、大規模化することは困難で、Practical Engineeringはその理由について「1立方メートルの海水を淡水化する際に必要な電力量は約100キロワット時で、河川の浄水化よりも膨大な電力が必要」と指摘しています。

また、海水には塩分だけでなく汚れや藻類、有機物、その他の汚染物質も含まれており、そのまま淡水化すると生成器や膜を汚損する可能性もあります。そのため全ての海水淡水化プラントでは、プロセスの最初に塩分以外の物質を除去しており、その際にも多くのエネルギーやコストが必要になってしまいます。



さらに、前処理を十分に行っても定期的な洗浄が必要で、その際は淡水の生成が完全にストップしてしまいます。加えて、このようなプロセスを経て生成された淡水は純水であるため、ミネラルや消毒剤などの添加物を加える手間も発生します。

フラッシュエバポレーターでの海水淡水化で生じた塩は全て少量の水に濃縮されますが、塩分濃度の高い水溶液をそのまま海に戻して処分すると海底近くの植物や動物に悪影響を及ぼします。そのため、多くのプラントではディフューザーを使用して塩分を含んだ水溶液を拡散させてより速く希釈するか、発生した水溶液を発電所の冷却ラインや排水など、他のプロセスで使われた水と混ぜることで放出する前に希釈する手段を採用しているとのことです。