ある日、担任の先生からかかってきた1本の電話。あの穏やかでマイペースな息子が、鉛筆でお友達を傷つけた!? なぜ息子は謝ろうとしないのか? 本当はいったい、何があったのか──。

もしわが子が「いじめをしている」と言われたら…?

この漫画は、人気インスタグラマー“愛すべき宇宙人”さん(40代、以下略して「愛さん」)が描いた「僕は加害者で被害者です。」という作品です。とくに育児中の親が読むと、「もし学校でわが子がいじめをしていると言われたら、自分ならどうするだろう?」と考えざるをえません。

連載を開始するとたちまち人気化。毎日更新にもかかわらず、当時、愛さんの元には「もっと話を早く進ませてほしい」という要望が殺到したとか。

意外な話の展開と、登場人物1人ひとりの心理描写が絶妙なこの作品。どんな経緯で描き始めたのか? 読者からはどんな反響があったのか? 作者の愛さんに聞かせてもらいました。

※以下、ネタバレがありますのでご注意ください

──読んでいて、すごく身につまされました。いじめって事実関係を把握するのが難しいし、親はどうしてもわが子に肩入れしてしまいますよね。この作品は、両方の子ども、親、担任、教頭先生と、それぞれの立場や心情を丁寧に見せてくれて、大人としてのかかわり方をとても考えさせられました。お友達と、そのお子さんの実体験を基に描かれたとか? 

はい、がっつりの友人です。だからけっこう詳しく話を聞きました。とても考えさせられて「どうしても描いてみたいな」と思って、友人に描かせてもらえないかお願いしました。


「僕は加害者で被害者です。」作者の「愛すべき宇宙人」さん。夫と娘、息子と暮らす。女系家族で育ったため、男児の生態に衝撃を受け、5年前から「愛すべき宇宙人」(息子のこと)のペンネームで漫画を描き始めた。インスタフォロワー数7万人

──担任や教頭先生の言動もすごくリアルだったので、てっきり学校の先生をしている方から聞いたお話なのかと思いました。

いえ、友人はいわゆるふつうの主婦の方です。以前、うちの子が学校で子ども同士のトラブルに巻き込まれたことがあって、相手が自宅で虐待されている疑いのあるお子さんだったんですね。そのときの学校の対応が似ていたので、ちょっと混ぜて描いています。

もめた子の父親が、わが子を怒鳴りつけたら…

──どうして描きたいと思ったんでしょう?

最初はその友人の話を聞いて、「この恨み、晴らそうよ」みたいな気分だったんです。もめた子のお父さんが、友人の息子をありえないくらい怒鳴りつけたのですが、友人も私もモヤモヤしていて。


(画像:「僕は加害者で被害者です。」より)

──漫画に出てきたお父さんを見て、「ヤバい人だな」とぞっとしました。実際に、こういう人を見たことがありますか?

ありますね。以前、公園で何家族かでバドミントンをしていたとき、バーベキューをしている人のところに羽がとんでいってしまい、そうしたら男の人が怒鳴り込んできたんです。自分の子ではなかったんですが、小さな小学生にこれでもかっていうくらい怒鳴りつけていて、「あ、こういう人っているんだな……」と。

──漫画では、女と子どもにだけ怒鳴り散らすシーンもリアルでした。相手がパパだと急に黙る……。

相手をみて態度を変えていますよね。漫画であのお父さんが怒鳴り出すと、インスタのコメント欄(読者さんたち)も、「モラハラだ」「モンスターだ」とざわつき出します。

「うちの子はこう言ってます!」が危険な理由

── 一方、(その怖いお父さんに怒られた)子どものお母さんは冷静で、みごとな対応でした。「あの父親の空気に飲まれちゃダメだ」と自分に言い聞かせて、ひるまずに言うべきことを言う。

そうなんです。実際に漫画の題材にした友人がしっかりした方で。お話を聞いて「なるほど、こういうふうに対応するんだ」って勉強になりました。


(画像:「僕は加害者で被害者です。」より)

──子どもから事実を打ち明けられたとき、主人公のお母さんは、ほかの同級生のお母さんに電話をして真相を確認しました。これも大事ですね。

自分の子どもの話だけを聞いて「うちの子はこう言ってます!」と突っ走るのは、危険だと思います。第三者にも、実際どうだったのかを確認するなど、冷静に情報を集めることが必要だと思います。子ども同士が仲がよくて、いちばん近くでその2人を見ている子がいたので、その子のお母さんに連絡したと言っていました。


(画像:「僕は加害者で被害者です。」より)

──漫画の中で、教頭先生は相手の親には真実を伝えないという判断をしました。はたして「これでよかったのか」と担任の先生が葛藤しますが、それにもとても共感しました。

私も「自分が担任の先生だったら、納得するのかな?」と思って描きました。読者の皆さんもここはひっかかったようで、教頭先生へのバッシングコメントが吹き荒れました。

──でもこれ、教頭先生の真意が明かされて、「そ、そうか……!」となるんですよね。

そこを狙っていました(笑)。


(画像:「僕は加害者で被害者です。」より)

──最近はSNSなどで、「いじめたほうの子どもを転校させるべきだ」という声をよく見かけます。気持ちはわかるのですが、いじめたほうの子どもの背景を考えると、そう単純に片付けられないな、ということも、この作品でよくわかりました。

「生まれながらの犯罪者などいない」と言いますよね。生まれたときはみんな同じなのに、生まれた境遇や親の影響で、そういう加害者になってしまったりする。でも小学生くらいなら、悪いことをしてしまっても、周りの大人によってまだ改善するチャンスがあると思うので、そこも伝えたいなと思いました。

私は基本的に、いじめをテーマに描いているんですが、「周りの大人も、みんなで子どもたちを見ていこうよ。子どもが悪いことをしていたら、自分の子どもじゃなくても見て見ぬふりをしないで、みんなで注意していこうよ」って思っているんです。子どもたちは人生経験がまだ少ないだけに間違えることもあるし、そこは大人がフォローしていけばよいかと。

対照的な2人の親を描いた意図

──この漫画では、事実関係がほとんどわからないまま、学校側は両方の親子を対面させます。いったいそれでいいのか、珍しいケースのようにも感じました。

自分の子がいじめられたと思った親が学校に乗り込んできて、「(いじめを)やった子どもと、その親に会わせろ!」となったのかもしれない、と友人は言っていました。担任の先生が連絡をしたら、友人が「謝罪したい」と言ったので会わせた形ですが、この学校側の対応はよくないですよね。


(画像:「僕は加害者で被害者です。」より)

──漫画では、わが子がいじめられたと思った父親が学校に激しく怒鳴り込みますが、怒鳴るほどの剣幕でこられると先生側も困るなとは思います。どの子も、こういったトラブルに巻き込まれる可能性はあると思いますが、親たちに知っておいてほしいことはありますか?

そうですね、まずは「子どもの言うことだけを鵜呑みにしてはいけない」ということ。この話では、一方がまさにわが子の言うことだけを鵜呑みにした親の典型で、他方はわが子の話だけでなく周囲の話も聞いて、事実を客観的に把握しようとした親です。

この2つの家庭のまったく正反対の対応の仕方も、何かちょっと参考になればと思って描きました。

あと、こうした子ども同士のトラブルの際にしっかり調査するなどして動いてくれる学校は、あまり多くないかもしれません。白黒はっきりつけるほどは追及しないよ、という学校も少なくないはずです。

でも授業参観などにいくと、「1人の先生がこれだけたくさんの子どもをみているなかで、うちの子とその子だけのことに、そんなに時間は割いてもらえないな」というのもわかるので。「どこを着地点とするのか」っていうのは、この話を描いたとき、すごく考えました。現実的に、大体これくらいかなって。

──これ、ぜひ本になってほしいです。

ありがとうございます。コメント欄などで応援の言葉をいただくと、本当にありがたいし、やっぱりとても力になります。ぜひ多くの方にさまざまな形で読んでいただけるとうれしいです。

(大塚 玲子 : ノンフィクションライター)