住宅の購入を考えているなら知っておきたい建築業界の状況があります(写真:Princess Anmitsu/PIXTA)

私たちの生活に関わるあらゆる「モノ」の価格が上がり続けた2023年。衣食住の「住」の価格高騰も続いている。

ウッドショックやアイアンショック、ロシアによるウクライナ侵攻、さらには円安など資材・原材料高騰の流れは続き、キッチンやユニットバス、サッシなど住宅設備の価格は上昇。加えて建設業界で長らく続く人手不足もコストの高騰の大きな要因となっている。

少子高齢化で職人や現場監督などの人材が慢性的に不足し、若手など次世代の担い手の育成も急務ということは以前から何度かお伝えしている通りだ。

新築住宅建設に不可欠な専門的人材の確保には、当然人件費も必要となる。新築にかかる建設コスト高騰には、住宅資材・設備高騰に加え、「人手不足」の影響が及んでいると言えるだろう。

建設業界を悩ませる何重もの課題

しかし建設業界の人手不足、人材確保にさらなる2つの課題が生じつつある。

1つめが10月からスタートしたインボイス制度(適格請求書等保存方式)だ。これまで免税事業者だった個人事業主などの“ひとり親方”が「消費税の課税事業者」として登録すれば、実質手取り額の減収となる可能性があるうえ、事務作業などの負担が増える。

登録は任意だが、職人の高齢化が進む中、インボイス制度導入を契機に廃業を検討する人も少なからずいると聞く。「人手不足」をさらに加速させる側面は否定できない。

2つめの懸念材料が、「建設業の2024年問題」と呼ばれる働き方改革の推進だ。2019年4月、働き方改革関連法の施行で労働基準法や労働安全衛生法などの法律が改正され、時間外労働の上限規制が設けられた。

これまで「時間外・休日労働に関する労使協定(36協定)」を締結していれば、法定時間外労働として認められてきた時間外労働が、原則として「月45時間・年間360時間」までに制限されるようになったのだ。

建設業界においては5年間の猶予が設けられていたものの、2024年、いよいよ適用の時期を迎える。

そもそも働き方改革関連法は、少子高齢化に伴う労働力不足を解消し、国民それぞれが柔軟かつ多様な働き方を実現できることを目的としている。そのため長時間労働の是正などが盛り込まれており、働き手にとってはワークライフバランスを再考できるなどのメリットがある。

しかし多忙な新築住宅の現場では人手不足が深刻で、労働時間が大幅に減っても一人ひとりの業務量は変わらない。安全や品質のクオリティーを重視すれば、「工期を伸ばす」方向で考えるのが一般的だが、工期を伸ばすと競争力が下がる。結果的に工期の前倒しや短縮で、人件費・経費を圧縮しようと考える業者が出てくる可能性もある。

業務量が変わらずにかける時間を減らせば、当然工事の安全や品質のクオリティー低下につながるだろう。すでに不具合が顕在化している現場も出てきているのが現状だ。

実際、原価高騰などの影響もあり、中堅の建築会社や施工会社の中には倒産も出てきている。この傾向は今後も続くと見られるため、私たち住宅を購入する側も信頼できる業者を選ぶなどの自衛策が求められている。

気をつけたい営業マンの「値引き」対応

では、住宅を購入する側として、どのようなポイントに注意すべきなのだろうか。

第一のタイミングは契約時だ。まず、契約の主導権を自分で持つことが重要だ。家族の就職や進学などの「契約を急ぎたい」など個別の事情がある場合は、ついついスケジュールを優先してしまいがちになる。

注文住宅の場合、施工会社の選定から引渡しまで含めると本来は1年半〜2年を要するものであり、順調に進んでも1年はかかるものだ。ところが中には、夏に施工会社の選定を始めたのに、「3月には引き渡せる」と言ってくる業者も存在する。極端な短納期を提案してくる場合は、設計や施工のクオリティー低下につながりやすいと覚えておこう。

同様に会社都合で契約を急かす業者にも注意が必要だ。自社の決算期に間に合わせるために受注を積み上げたい、などの背景が隠れている場合もあるためだ。また、契約を急かすということは、経営状態に何らかの問題を抱えている可能性も否定できない。

一方、そもそも値引きを前提とした価格が設定されていることもある。すべての値引きが悪いわけではないが、過度な値引きは業者都合の思惑が隠れているケースもあるので注意が必要だ。

いずれにせよ、「住宅を建てる」「住宅を買う」主導権が購入者ではなく、業者や営業担当者側に移っているのは望ましい状態とは言えない。自分や家族の幸せ、理想の暮らしのために家を建てるのだから、主体性を持って対応するのが第一だ。

自分たちの家づくりにはどのような過程が必要なのか、逆に何が要らないのかを認識していれば、値引きやスケジュールに心を惑わされなくなるだろう。場合によっては、分譲住宅や中古住宅などの選択肢を検討するのも一案だ。

現場を見せない会社に要注意

さて無事契約を済ませ、工事が始まる際には着工金(工事着手金)を支払うことになる。その後も工事の進捗に合わせ、上棟時に中間金、引き渡し時に竣工金と、土地代を別として3:4:3のような割合で分散して支払うのが一般的だ。

そのため、最初の着工金で「7割」の支払いを求められたり、契約時の手付け金から多くの金額を要求されたりする場合は気をつけたほうがいいかもしれない。会社の経営に難があり、キャッシュを必要としている可能性もあるためだ。

もちろん、キャッシュを求められたからといってすべて疑ってかかる必要はない。見るべき点は「きちんと工期が設定できているか」ということ。

人手不足や原価高騰の影響による“しわ寄せ”は現場に集まる。職人が集まらない、現場監督が多忙で巡回の頻度が低いなどの結果、最終的には品質低下につながるおそれもある。

一般的な一戸建てであれば4〜5カ月程度の工期が設定されることが多く、極端に短い工期に設定されていないかどうかは、会社の信頼度を左右する大きな判断材料と言えるだろう。

たとえば工期がやたらと短い、工事のスケジュールを定める「工程表」自体がないなどの場合は突貫工事の可能性が考えられる。また、基礎工事なら配筋、コンクリート打設の担当などがいて、上棟後は大工が中心になるなど、家を作る工程は多様だ。

工程ごとに必要な作業、職人は異なってくる。それぞれ必要な工事に職人を集めることができなければ、工程をうまく進めることができないため、「無計画」な工事となってしまう。

「無計画」な工事には注意

工事の計画がきちんと立てられていないため、いざ着工してみると「基礎工事が全然始まらない」「基礎工事後の養生期間から一向に上棟工事に進まない」などのトラブルに見舞われた事例もある。さらにある工程で放置されたまま、いつの間にか建築会社、施工会社が倒産してしまった……などのケースもあるため注意が必要だ。

一方で、突然予定日時より工事が前倒しで始まる場合は「無計画」な工事となる。この場合も進捗を注視していかなければならない。


2019年〜21年にさくら事務所が検査した新築工事で、不具合が発生していた工程を割合で示したもの。不具合の内容はさまざまだが、ほとんどの住宅でなんらかの問題点が発覚していた(画像:さくら事務所)

現場の状況に疑問が出た場合、臆せずに「着工日と聞いていたのに、工事が全然始まらないのはどうして?」「基礎が終わった後、工事がストップしています」など現場監督に確認を取ってみることをおすすめする。

また自分で現場に行ける方は実際に現場で状況を見てきてほしい。それが難しいのであれば、「2週間に一度くらい、進捗状況を教えてほしい」と写真の共有などを含め、現場監督にお願いしておくのもいいだろう。

現場の状況については、自邸以外の現場を共有してくれる、見学させてくれるかどうかも大切だ。もし見学を渋るようなら、「見られたくない何かがある」とより細心の注意を払う必要も出てくるだろう。

こちらも契約時と同様、家を購入する側が「主体」となって工事に関わっていくことが重要となる。

建築資材・原材料の高騰、慢性的な人材不足に加え、働き方改革の“2024年問題”、インボイス制度導入と建築業界を取り巻く状況は厳しい。だからこそ家を購入する自分たちが「自衛」する意識を持って、主役として家づくりに関わっていく知識と覚悟を持つことが今後も大切になっていく。

(長嶋 修 : 不動産コンサルタント(さくら事務所 会長))