大奥の内情を男女逆転して描いた異色作『大奥』が、現在、NHKで放送されている(写真:NHK)

“大奥”が人気である。流行語大賞にノミネートされてもよかったのではないかと思うくらいだ。大奥とは「江戸城本丸の一部で、将軍の夫人である御台所と側室の住居。男子禁制だった」(広辞苑第六版より)。その大奥の内情を男女逆転して描いた異色作『大奥』が、現在、NHKで放送されている(火曜よる10時〜)。

「男女入れ替え」設定でも史実に忠実

よしながふみの漫画が原作の『大奥』は、男性だけがかかる病・赤面疱瘡によって、男性の人口が激減した江戸時代、女性が政(まつりごと)を担い、男性は子孫を増やすための存在と化したという大胆な発想で、260年もの江戸幕府の歴史を描ききる大作である。

多くの賞を受賞している原作漫画は全19巻が発売され、ドラマはSeason1とSeason2の2期に分けて放送された(現在放送されているのはSeason2)。これが男女を入れ替えているにもかかわらず史実に忠実で重厚感があると好評で、大河ドラマとしても見ることができるという高評価もSNSでは飛び交うほどなのだ。

『大奥』は現在、クライマックスの幕末編が放送中で、12月12日(火)が最終回の予定。『大奥』ロスになりそうなところ、2024年1月から、フジテレビで『大奥』(木曜10時〜)が始まる。

こちらは、男女逆転ではなく、御台所と側室の住居としての大奥そのものの物語である。小芝風花を主演に抜擢し、10代将軍・家治(亀梨和也)の時代、彼に嫁いだ皇族の五十宮倫子(小芝)が陰謀渦巻く大奥でサヴァイヴする物語になる。

趣向は違えど、なぜ、今、『大奥』がドラマ化され続けているのか。そこには、女性の社会的地位向上の歴史が見える。

テレビ局の『大奥』頼りはいまにはじまったことではなく、昔からドラマ化されやすい題材だった。いまでは信じられないかもしれないが、フジテレビが時代劇を定期的に作っていた。そのなかで『大奥』は何度も制作されてきた。

まずはぐっと遡って、1960年代。1968年に関西テレビが東映と共同制作しフジテレビ系で放送された。これが、これまで男性のものだった時代劇をはじめて女性主体にしたとの見方もある。が、前年の1967年にも『徳川の夫人たち』という佐久間良子主演で大奥のドラマ(原作:吉屋信子)がNETで放送されていて、当時から大奥ものは人気コンテンツであったのだ。

岸田今日子の「ささやきナレーション」が話題に

次の『大奥』は、1980年代。1983年、再び、関西テレビと東映の制作で、フジテレビ系放送の『大奥』が1年間放送された。256年もの長きにわたった徳川幕府と、共に歩んだ大奥の誕生から終焉までを、女性たちの愛憎劇として描き、栗原小巻が主演した。

ナレーションが印象的で、ムーミンの声もやっていた名優・岸田今日子が担当した。岸田の耳に残るウィスパーボイスが大奥の秘密めいたムードを高め評判になった。余談ながら、大河ドラマ『鎌倉殿の13人』(2022年)の長澤まさみのささやきナレーションは岸田今日子ナレーションのオマージュなのではないだろうか。

1983年といえば、朝ドラ『おしん』と大河ドラマ『徳川家康』が大人気だった年。その2年後に、男女雇用機会均等法が制定される。労働省ではすでに1982年、均等法の制定に向けて男女平等法制化準備室を設置していた。つまり、1983年にも、女性の地位向上の動きが着々と進行していたのである。女性のための時代劇・大奥が放送され人気を博したのは、時代の機運に乗ったともいえそうだ。

その影響かはわからないが、NHKは1989年の大河ドラマで、3代将軍の乳母で大奥を仕切る春日局の生涯を描く『春日局』を橋田壽賀子の脚本、大原麗子主演で制作し、高視聴率を獲得(ただ初回はお正月も手伝って低視聴率だったことはレジェンドになっている)。

2000年代になると、ついにフジテレビ本体で『大奥』の制作が行われ、大奥ブームを起こした。

2003年の連続ドラマは、幕末が舞台で、篤子(菅野美穂)と瀧山(浅野ゆう子)、和宮(安達祐実)とまばゆいキャストによる女のドラマが展開した。それにプラスして、ユーモラスな奥女中3人組がドラマを盛り上げ人気に。舞台化もされて、フジテレビドラマでは『踊る大捜査線』シリーズと並ぶ、人気のコンテンツに。家定は北村一輝、家茂は葛山信吾が演じた。

2004年は松下由樹が春日局を演じた。3代将軍・家光は西島秀俊。2005年は内山理名主演で5代将軍・綱吉(谷原章介)の時代が描かれた。

2006年には仲間由紀恵が7代将軍・家継の時代、大奥総取締役・絵島役で主演した映画版が制作された。歌舞伎役者・生島(西島秀俊)を相手に、大奥史上最大のスキャンダルとされる燃える悲恋を堂々演じきった仲間が、その後、NHKのよしながふみ版『大奥』では、11代将軍・家斉(中村蒼)の母で、怪物的な一橋治済を演じるとは、そのとき、誰が予想したであろうか。

刑事もの、医療ものに匹敵するテッパンに

2008年にはNHKが、大河『篤姫』を制作、篤姫(宮粼あおい)と13代将軍・家定(堺雅人)のパートナーシップが共感を呼び、高視聴率を獲得、平均視聴率は21世紀の大河で最高を記録するほどの話題作となった。2015年の『花燃ゆ』でも後半、大奥編になると、興味を持つ視聴者が増えたと記憶する。

いまの刑事もの、医療ものに匹敵するテッパンジャンルの『大奥』。フジの『大奥』シリーズは2019年まで断続的に続き、息の長い人気シリーズであった。

一方、TBSも2010年に大奥ものを制作に踏み切った。ここで、TBS が目をつけたのが、2004年から連載がはじまったよしながふみの男女を逆転して描いたSF的な発想の漫画『大奥』だった。

2010年、二宮和也と柴咲コウの共演で映画化、2012年、連ドラ『大奥〜誕生[有功・家光篇]』も放送、さらに、映画の続編『大奥〜永遠〜[右衛門佐・綱吉篇]』が制作され、“男女逆転大奥”の存在が全国区になった。さらに、映画で共演した堺雅人と菅野美穂がのちに結婚したことで、作品がレジェンド化した。

ただ、よしながの漫画は、映像化されたときははじまったばかりだったため、“男女逆転”ばかりが注目されていた。が、2021年まで連載が続き、大奥の最後まで描ききったとき、その印象はかなり違ったものになった。

平賀源内が中心となって赤面疱瘡も治療法を発見、再び男性が政の中心になっていく。NHKが最後まで映像化したことで、男女逆転大奥が、女性男性も隔てなく、誰もが平等に個別の能力や希望に沿って生きられる世界への希求だったことがわかるのだ。

「大奥」を作り続ける意味

1980年代、男女雇用機会均等法が生まれ、女性が社会進出するようになったものの、『大奥』のように女性の力が強くなる時代にはほど遠く、いまだに、女性の社会的に不利な立場にある。

平成30年版の男女共同参画白書(概要版)によると、国会議員に占める女性の割合は、平成30年2月現在、衆議院10.1%(47人)、参議院20.7%(50人)、内閣府男女共同参画局の資料では、令和5年、衆議院員の女性は10.0%、参議院員は26.0%となっているような状況である。

だからこそ、『大奥』を作り続ける意味があるのかもしれない。フジテレビが『大奥』を伝統芸として作り続ける一方で、TBS が新機軸としてよしながふみの男女逆転版を映像化したことでいったん『大奥』人気も落ち着いたかと思ったら、2022年、NHKが、TBS では一部しか制作しなかったよしなが版『大奥』を、2021年に発売された最終巻までドラマ化することに挑んだ。

おりしも、よしなが版『大奥』が、彼女のもうひとつの人気作『きのう何食べた?』と併せて再ブームに。そして再び、フジテレビで『大奥』の開始と、大奥映像化の歴史が長くて複雑。まさに、家光の時代から200年近く続いた、大奥の歴史のようである。

まあ、単純に、衣裳が華やかで目に楽しい。燃えるような恋の物語では、男女問わず輝いて、気持ちが高まる。女性同士のちょっと意地悪なくらいの心理戦が痛快でストレス解消できる。というように、極めてエンタメ性に富んでいることが、一番の息の長い人気の要因ではあるだろう。

(木俣 冬 : コラムニスト)