「ラ餃チャ」のしんがりを担うチャーハン。珍しい調理方法と、意外なルーツを持つ具材をご存じでしょうか?(画像提供:ハイデイ日高)

「このメニュー、そこまで有名ではないけど自分は好きだなあ」「定番や看板ではないかもしれないけど、好きな人は結構多いと思うんだよな……」――外食チェーンに足を運ぶと、そう思ってしまうメニューが少なからずあります。店側はどんな思いで開発し、提供しているのでしょうか。

人気外食チェーン店の凄さを「いぶし銀メニュー」から見る本連載。第2回となる今回は、熱烈中華食堂日高屋(以下、日高屋)の「チャーハン」を取り上げます。

「ラ餃チャ」のしんがり まるで白米のようにも楽しめる引き立て役

飲食チェーンには「代名詞」「定番」というべきメニュー以外にも、知られざる企業努力・工夫を凝らされたものが数多く存在します。本連載では、そうした各チェーンで定番に隠れがちながら、根強い人気のある“いぶし銀”のようなメニューを紹介していきます。


安価かつ豊富なメニューを提供する「日高屋」。駅前を中心に、直営店は8月末時点で400店を超える(筆者撮影)

今回のテーマは、日高屋の「チャーハン」です。

日高屋の代名詞といえば、何といっても390円という低価格を維持している「中華そば」でしょう。「餃子」を合わせてちょっと贅沢なランチにしても良し、飲み会帰りのシメにも良しと、万能なメニューです。

実際、ハイデイ日高で商品部の部長を務める鈴木昌也さんによると、中華そば単品ではなく、餃子やミニ丼などとセットで注文する人も多いとのこと。


日高屋の代名詞「中華そば」。単品だけでなく各種セットにおける定番メニューだ。価格は2002年の創業当時から390円で据え置き(画像提供:ハイデイ日高)

鈴木さんによると、日高屋における人気トップ3は中華そば、餃子と、「野菜たっぷりタンメン」。セットメニューを含めると、中華そばは直近1年間で650万食以上、野菜たっぷりタンメンも500万食以上が注文されているそうです。


女性人気も高いという野菜たっぷりタンメン(画像提供:ハイデイ日高)

一方チャーハンも「ラ餃チャセット」の一角を担ういぶし銀の人気メニューです。単品の並盛・大盛を合計すると、直近1年間での食数は280万食以上を誇ります。

このチャーハン、白米を最初から炒めるのではなく、味付きのご飯を炊飯器で炊いてから調理していることをご存じの方は少ないのではないでしょうか。

単体でもセットでも、満足できる飽きのこない味わい

実際に食べてみると、チャーハンらしいパラパラ感も感じつつ、しっとりしたまとまりもあり、レンゲですくいやすく感じます。具はたっぷりの卵とネギ、肉というシンプルな構成です。


490円のチャーハン。昼時のピークを過ぎた午後1時ごろでも店内は混雑していたところ、ものの5分程度で提供された(筆者撮影)

単品でもしっかりとした量はありますが、思わず中華そばや餃子などの“おかず”も欲しくなる、白米のように他メニューを引き立てられるいぶし銀のメニューだと感じました。

一緒に注文した中華そばと食べても、しょっぱすぎる・ヘビーすぎると感じない、あっさりとしたチャーハンです。


具材はいたってシンプル。味付けも飽きがこないあっさりめで合わせるメニューを選ばない(筆者撮影)

チャーハンだけでなく、付け合わせのスープもポイントです。中華そばのスープとはまた違う、キレのあるスッキリとした味わいで、チャーハンを一口食べるたびに「飲みたい」となる味でした。

公式Webサイトで「よりおいしく、飽きのこない味を追求」を謳っている通り、シンプルイズベストを体現したチャーハンといえるでしょう。


レンゲですくいやすい、パラパラとしっとりのバランスがとれた一品。大ぶりの炒り卵がうれしい(筆者撮影)

飽きのこない味で毎日でも通えるチェーン

ここであらためて、日高屋の紹介です。日高屋のルーツは、神田正会長が1973年に現在のさいたま市大宮区に創業した中華料理店「来々軒」。その後、1986年には食材を供給する会社・日高食品を設立し、麺と餃子の生産を開始します。

1993年には「らーめん日高赤羽店」で都内に進出。翌1994年には新業態の「ラーメン館」や「台南市場」を展開するなど、都心の繁華街へと出店攻勢を強めていきました。現在の運営会社・ハイデイ日高へと商号を変更したのは1998年で、日高屋の誕生は2002年と意外にも最近です。2023年8月末時点で直営店は406店舗を数えます。


アルコールメニューも充実している(筆者撮影)

駅前で目にすることが多い日高屋ですが、実は20年ほど前はロードサイドへも出店していたとのこと。

ただ、ちょい飲み需要を背景にして、おつまみ系のメニューを拡充したことで、利用者がアルコールを楽しめるように駅前への出店を強めていきました。


もちろんおつまみメニューも豊富。手頃な価格で、ついつい「あれもこれも」と注文したくなるラインアップだ。実際、昼過ぎの来店でもアルコールメニューを注文する利用客がチラホラいた(筆者撮影)

一方、最近ではコロナ禍を経てロードサイドへの出店も進めています。駅前に店舗を出してきたことで認知度が高まっており、さらに出店範囲を広げているそうです。

そんな日高屋の強みを、自社ではどう分析しているのでしょうか。鈴木さんは日高屋の強みを「食べやすい味を提供して、1週間に何回も来てもらえるような店」であることと説明します。確かに「中華料理の専門店」ではなく、家庭で楽しむ味のような手軽さ・敷居の低さが日高屋の魅力といえるでしょう。

もちろん「安さ」も日高屋が支持を集める理由です。自社工場を構え、メイン食材を自社で製造できることや、店舗網が広がったことによる「規模の経済性」で、安価に商品を提供できているといいます。

炊飯器を使った独特の製法が生まれたワケ

そんな日高屋のチャーハンは、独特の製法で作られています。

一般的に中華料理店のチャーハンは、白米と卵などを中華鍋で炒めるイメージがありますが、日高屋では炊飯器を活用。味付きのご飯を事前に炊いておき、注文が入ると中華鍋で卵や肉と一緒に炒めるスタイルです。

もともとは白米から中華鍋で炒める一般的な製法をとっていたといいます。ただ、店舗網の拡大に伴って、調理するスタッフによって、味にバラつきが生じていました。炒める際に“おたま”で調味料を入れるため、均一な味を再現できずにいたのです。

そこで、自社工場で味付け用のタレを製造し、レードルで計量して味付けする方式に変更。しかし、それでも調理技術の平準化がなかなか難しく、現在の「炊き込みご飯」式のスタイルへと踏み切りました。

試行錯誤する中で冷凍したものを提供する方式も検討しましたが「鍋を振る文化は残そう」(鈴木さん)という観点から、採用しなかったといいます。ご飯の味付けはシンプルなものを目指して改良を重ねており、しょうゆや塩などのバランスを調整しながら、他のメニューや具材の卵・肉に合うようなものへと調整しています。

1店舗だけ美味しくても意味はなく、全国で均一に美味しい味を提供することを求められる……そんな、チェーン店ならではの苦悩を背景に、さまざまな改善があったことがわかります。


炊飯器を導入しても「鍋を振る文化」は大切にしているという日高屋(画像提供:ハイデイ日高)

シンプルな具材に潜む意外すぎるルーツ

具材は卵・ネギ・肉とシンプルながら、お話を聞く中でチャーハンに対する深いこだわりが見えてきました。

一般的にチャーハンの肉には焼き豚・チャーシューが多いところ、日高屋は鶏胸肉(国産)を使用しています。以前は冷やしメニューにも流用されていたそうですが、現在はチャーハン専用。肉の旨みが引き立つように、煮込み時間などに工夫を凝らして生まれた、甘じょっぱい味が特徴です。


大盛りでも600円とリーズナブルながら、随所にこだわりが見えるいぶし銀メニューのチャーハン(筆者撮影)

そのルーツは、タイ料理。日高屋とタイ料理は、一見なかなか結び付きません。鈴木さんによると、日高屋の開業以前にタイ料理の業態を展開していたことがあり、その際に考案していた料理から着想を得ているそう。

「『甘じょっぱい味がチャーハンに応用できる』と高橋がひらめいて、長年温めていたようです」(鈴木さん)と、商品開発を一手に引き受けてきたという高橋均前社長の逸話も明かしてくれました。

また、卵は香りを非常に重視しており、ご飯と一緒に炒める際、香りがしっかりと広がるような独自の炒め方をしているといいます。具材が少なめだからこそ、そのそれぞれに非常なこだわりを持ってチャーハンを作っていることがわかります。

付け合わせのスープは、中華そばのスープと別物。以前は同じベースを使っていましたが、現在はチャーハン・スープ用に別のベースを製造しているそうです。

例えば、中華そばのスープには香味油が入っていますが、チャーハンや定食用のスープには入っていません。オイリーになりすぎないように、かつ塩辛くなりすぎないように工夫しています。先ほども書きましたが、このスープがチャーハンに負けず劣らず印象に残る味わいで、利用客からは「スープだけ単品で欲しい」といった声も出ているほどの人気ぶりです。

【2023年11月24日14時40分追記】初出時、記載に一部誤りがあったので修正しました。

千差万別の楽しみ方が見いだせるメニュー

チャーハンだけでも、さまざまなこだわりや改良を重ねてきたことがわかったインタビューでした。ちなみに代名詞の中華そばも、過去にリニューアルを重ねてきています。

鈴木さんによると、もともと動物系スープの味わいが強かった中華そば。一昔前のラーメンといえば鶏ガラでダシを取るものがほとんどでしたが、10年ほど前から魚介などの和風だし系が増えてきました。

そこで、和食のダシを意識したスープも多めにブレンドするように改良したといいます。社内では和風のダシを使用することに反対の声もあったそうですが、実際に開発して試食した際に好評を得て、改良を加えました。「お客さまの層を見ても40〜50代が増えてきており、毎日食べても重すぎず、食べすぎないように工夫しました」と鈴木さん。


2013年に増設した新工場では、大幅に生産量が増加。さまざまな創意工夫の源泉として機能している(画像:日高屋公式Webサイト)

こうしたさまざまな取り組みの背景には、2005年に本格稼働を開始した行田工場の存在があります。以前は外部から食材・食品を購入することも多かったといいますが、工場ができてからは自社でたくさんのものを作れるようになりました。そこから多くのチャレンジが生まれていったそうです。


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非常にシンプルなたたずまいながら、たくさんのこだわりが込められたチャーハン。「ラ餃チャ」の中では3番手に甘んじていますが、1品で完結する主食として、白米のように数多くのメニューの引き立て役として、はたまた白米のおかずとして楽しむなど、注文する人によって楽しみ方は千差万別です。

例えば「バクダン炒め」と一緒に注文して「バクダンチャーハン」として楽しむ人も多いとか。単品メニューがそれぞれ安いからこそ、自分なりの楽しみ方を見つけるのも面白そうです。

(鬼頭 勇大 : フリーライター・編集者)