外見が若々しく見える人もいれば、周囲よりも年齢が上に見える人もいます。どうしてそんなに見た目に差が出てしまうのでしょうか(写真:takeuchi masato/PIXTA)

高齢者専門の精神科医として6000人以上の患者を診てきた和田秀樹さんが上梓した『60歳からはやりたい放題[実践編]』。前作『60歳からはやりたい放題』に続いて、具体的に「どうすれば60代以降の人生をさらに楽しめるのか」「どんな点に気を付けるべきなのか」を、60個のコツにして解説しています。同書より一部抜粋・再構成してお届けします。

見た目年齢のためにもたんぱく質を摂ろう

同じ年であってもその様子には大きく差が生まれます。同窓会などへ行ってみても、外見が若々しく見える人もいれば、周囲よりも10歳、20歳くらい年齢が上に見える人もいます。

どうしてそんなに見た目に差が出てしまうのかというと、大きな要因となるのは「たんぱく質を摂っているかどうか」です。

妙にシワが多かったり、体がしぼんでいるように見えたりする人は、実は肉や魚といったたんぱく質を摂らず、玄米や野菜の味噌汁、蕎麦やうどん、鍋ものといったあっさりした食事ばかりを食べている傾向があります。

玄米や野菜の味噌汁、蕎麦、うどんなどの食事は、たしかに日本の伝統食であり、体に良さそうに思えます。健康診断の数値で言えば、コレステロールや血糖値も低くなりますし、消化も良い。ただ、これらの食事を続けていると、たんぱく質不足に陥りがちです。

たんぱく質は、筋肉や血管などを丈夫にするためには必須の栄養素であり、60代以降は積極的に摂ってほしいものです。たんぱく質の有効性は、健康のみならず美容に関しても同様です。

中高年の体でたんぱく質が足りなくなると、自身の体に蓄えられた筋肉を分解し、エネルギーに変えていくので、どんどん筋肉が減っていってしまいます。

ただ、仮に途中で筋肉が減ったことに気が付いて、筋肉を回復するために若い人と同じ量のたんぱく質を摂取しても、そう簡単にはうまくいきません。年を重ねると、たんぱく質が筋肉に合成されるまで、時間がかかってしまうからです。

たんぱく質を摂る量が減れば、いろんな方面でたんぱく質不足で肌や筋肉の衰えが起こり、見た目がシワシワに縮んでしまうのです。

検査数値が良いからといって、見た目年齢が下がるとは限りません。逆に言えば、どんなに数値は良くとも、見た目が年寄りだと、心理的にも老け込むのは早くなります。

日々の食事に牛乳を1杯足したり、ヨーグルトを1個食べてみたり、おにぎりを食べるならば昆布や梅よりも鮭やツナなどに変えたり、多少コレステロール値が気になるとしても、美容のためにも、たんぱく質は人一倍摂ることを心掛けてほしいと思います。

腸を健康に保ち「細胞の炎症」を食い止める

老化の原因の1つは、「体の細胞の炎症」です。誰しも細胞の炎症を避けることはできませんが、炎症を最小限にすることはできます。

私が敬愛する抗加齢医学の権威であるクロード・ショーシャ博士は、「細胞の炎症を食い止めることができれば、50歳の見た目のまま、120歳まで生きることも可能です」とおっしゃっていました。

細胞の炎症を食い止めるのに重要なのが、「腸」を健康に保つことです。
腸というと食べ物を消化吸収する場所というイメージが強いのですが、実は人の免疫細胞の80%は小腸に集まっています。腸にある免疫細胞には体を傷つける異物を排除し、細胞の修復を促進する役目があります。

昨今では「腸は第二の脳」と言われるなど、腸を健やかに保つことが精神的にも身体的にも健やかな状態を保つ方法として、広く知られ始めています。

つまり、腸の健康を維持できれば、免疫細胞もきちんと働き、細胞の炎症を防ぐことができるのです。

腸の調子を知るために一番良い方法は、肌を見ること。腸の調子が悪いと、吹き出物が出たり肌がくすんだりと、何かと肌に影響が出てきます。キメが粗くてぶつぶつとした肌は、腸の調子も悪い可能性が高いのです。反対に、キメが整った滑らかな肌を持つ人は、腸の状態も良いのです。

アレルギーの食材を避けて腸を守る

では、腸を健康に保つためにはどうしたらいいのでしょうか。その上で大切なのが、自分が持っているアレルギーを知ることです。

蕎麦、卵などの食物アレルギーから、喘息や花粉症まで、世の中にはさまざまなアレルギー症状があります。こうした急性型のアレルギーは「IgE型」と呼ばれるのですが、その一方で症状は軽いけれど長く続く「IgG型」と呼ばれるアレルギーがあります。「IgG型」のアレルギーが体内で炎症を起こし、腸の調子を悪くします。これが遅延型のアレルギーと言われるものです。

私も自分のクリニックで、数多くの患者さんの遅延型のアレルギーを調べてきましたが、ほぼすべての人が何らかの食品アレルギーを持っています。逆にアレルギーを持っていない人はまれだと言えるでしょう。

ただ、一方で、これらのアレルギーは、なかなか自分では気が付きにくいという事情があります。

たとえば、「食べると疲れやすくなる」「翌日に顔が赤らみやすい」「消化不良が起きやすい」「お腹を壊しやすい」「舌がピリピリする」など、その症状は非常に幅広いのです。

個人によって反応は異なるので、多くの人は「どこか体調が悪いのかな」と気にするだけで、「これが食物によるアレルギーのせいだ」とは気が付かないのです。

わかりづらいアレルギーは、腸の健康を保ち、細胞の炎症を食い止めるためには大きな障壁になります。

だからこそ、老化を食い止めたいと思う人は、自分がどの食品にアレルギーがあるのかを知ることが非常に重要になってきます。

では、どうしたら、自分にアレルギーがあるかどうかがわかるのか。それは、体の不調を感じたときは、その前に食べたものが何だったかをきちんと思い出し、記憶しておくことです。

「この食品を食べたあとは、体の調子が悪くなる」「この飲み物を飲んだ後は、心身がだるくなる」という食材を避けるだけで、アレルギーから体を守り、腸の調子を整えることができます。

感覚だけではわからないという方は、アンチエイジングを標榜する医療機関などに行けば、IgG型の遅延型アレルギーを調べる検査もあるので、ぜひ実践してみてください。

私自身、蕎麦が大好物なのですが、検査をしてみると、なんと蕎麦アレルギーがあることが発覚しました。恥ずかしながら、医者であるものの長年の間、自分に蕎麦アレルギーがあるとは全く気が付きませんでした。「これまで普通に食べてきたのになぁ」と半信半疑ながら、しばらくの間、蕎麦を控えてみたのです。

すると、これまでたまに感じていた「体調が悪いなぁ」「お腹が張るな」という感覚が、なくなったことに気が付きました。

相変わらず蕎麦は私の大好物なので一切食べないということはないのですが、格段に食べる回数を減らしました。おかげで、以前のような体の不調は、ほとんど感じることがなくなりました。体の中でひそかに進んでいた老化が、アレルゲンだった蕎麦を控えたことによって改善されたのではないかと思っています。

みなさんも、もしかしたらご自身の知らないところでアレルギーが発生している可能性もあります。少しでも老化を食い止めたいと思うのであれば、一度、ご自身の遅延型アレルギーについて、真剣に向き合ってみてほしいと思います。

美容医学のメリットを考える

最近の美容医学や抗老化医学の発展には、目をみはるものがあります。
たとえば、薄毛治療ならば、市販の育毛剤やサプリメントを買うよりは、病院で処方されるAGA治療薬を飲むほうが、かなりの発毛効果が期待できます。自費治療なので高額だと感じるかもしれませんが、毎月数千円で薬を手に入れることができます。


市販の育毛剤よりは高いかもしれませんが、効果は歴然です。肌も同じで、シワ取りクリームを買うよりは、美容皮膚科のクリニックに行って、適切な薬や治療法を処方してもらうほうが効果はあります。

最近では、張りのある肌を取り戻すため、年齢関係なくヒアルロン酸やボツリヌストキシンなどの注射を打つ方も少なくありません。私自身、見た目の若さを維持するために、定期的にボツリヌス注射(一般的な商品のボトックスより顔を引きつらせることが少ないディスポートという薬剤)を打っています。ボツリヌス注射を打つと、肌に張りが出てシワがなくなり、一気に若々しい印象になります。

美容皮膚科もお金はかかりますが、少なくとも医学的に認められている効果があります。どうせ高いお金を払うのであれば、育毛剤やシワ取りクリームのような効果がはっきりしない(効く人もいますが)ものを買うのではなく、効果が認められている施術にお金を払ってほしいと思います。

(和田 秀樹 : 精神科医)