『カンダハル 突破せよ』 ©2022 COLLEAH PRODUCTIONS LIMITED. ALL RIGHTS RESERVED.(東洋経済オンライン読者向けプレミアム試写会への応募はこちら)

CIAの内部告発により、イランに潜伏中であることが世間に明らかとなってしまった凄腕のCIAエージェント、トム・ハリス。敵地のど真ん中に取り残された彼を捕獲しようと、イラン革命防衛隊の精鋭集団・コッズ部隊や、パキスタン軍統合情報局(ISI)、タリバン、そして金次第で味方にも敵にもなる武装集団などが、次から次へと襲いかかる。

彼らの襲撃を避け、トムたちが目指すのは400マイル離れたアフガニスタン南部・カンダハルのCIA基地。果たして彼は生きてこの地から脱出することができるのか――。

映画は実体験をベースに大胆に脚色


2023年10月6日(金)〜8日(日)にオンライン試写会を開催します(上記画像をクリックすると試写会応募画面にジャンプします)

元CIA・NSA局員のエドワード・スノーデンによる2013年の内部告発・情報漏えい事件と、その同時期にアメリカ国防総省の情報機関である、アメリカ国防情報局(DIA)職員としてアフガニスタンに赴任していたミッチェル・ラフォーチュンの実体験をベースに、手に汗握るサスペンスとアクション、そして人間ドラマを交えて描き出した映画『カンダハル 突破せよ』が10月20日より新宿バルト9ほかにて全国公開となる。

主演は2004年の『オペラ座の怪人』で注目を集め、『300 <スリーハンドレッド>』『エンド・オブ・ホワイトハウス』など数多くのヒット作に出演するジェラルド・バトラー。

彼が演じるのは、MI6(イギリスの諜報機関)から、CIA(アメリカ中央情報局)に出向し、工作員としてイラン国内に潜入していたトム・ハリス。電話回線の工事技師になりすました彼は、イランの核開発施設の破壊工作に成功。大仕事を終え、あとは帰国の便に乗り込むばかりだった。

これまでは仕事に追われ、なかなか家族を顧みることができなかったトム。妻からは離婚を突きつけられてしまったが、今度こそは娘の卒業式に参加しようと決意する。

だがそんな彼のもとに、イランの核開発を阻止するべく、CIAから新たな指令が告げられる。困難なミッションも見事成功に導くことができるその手腕に「君がいい」と全幅の信頼を寄せられたトムだが、彼自身は家族のことが頭をよぎり「ほかのやつにやらせればいい」としぶる。

そんなトムの気持ちを見透かしたかのように、指令役は大金をちらつかせて「娘は医学部志望だったな。これなら行かせられるだろ」と話す。しぶしぶそのミッションに取り組むことになったトムは、アフガニスタン人通訳のモーとともに、アフガニスタン国境の街ヘラートに向かう。

だがそこに衝撃的なニュースが飛び込んでくる。CIAの内部告発により機密情報が漏えい。工作員であるトムたちの顔写真がテレビなどで大々的に報じられてしまったのだ。もちろんミッションは即刻中止。一刻も早くこの国から脱出しないと命が危ない。

事情もわからず巻き添えとなった通訳のモーとともに、アフガニスタン南部のカンダハルにあるCIA基地を目指すことになった。30時間後に離陸するイギリスのSAS連隊の飛行機に乗り込むことだけが、彼らに残された唯一の命綱だった。だが核開発施設を破壊されたイラン当局は、国家の威信をかけてトムたちを追跡する。

敵も味方も入り乱れた追跡劇

一方、トムたちを捕獲すれば絶好の金づるとなるということで、パキスタン軍統合情報局(ISI)にも「イランより先に捕まえろ」という指令が下される。さらにタリバンの息がかかったゲリラや、金次第で敵にも味方にもなる武装集団など、それぞれの思惑が複雑に絡み合い、敵も味方も入り乱れた追跡劇が繰り広げられる――。


トムをめぐる追跡劇も次第に激しさを増していく ©2022 COLLEAH PRODUCTIONS LIMITED. ALL RIGHTS RESERVED.

本作は、アメリカ国防情報局(DIA)職員としてアフガニスタンに赴任していたミッチェル・ラフォーチュンの過去の経験をもとに、脚本も彼自身が担当。

主人公のトムや、通訳のモーたちをはじめ、本作の登場人物の多くが、彼が中東駐在時に出会った人たちをモデルにしているとのことで、リアリティあふれる人物像も見応えがある。また、アメリカ側からの視点のみならず、追っ手である中東側からの視点を織り交ぜて描き出すなど、単純な勧善懲悪というステレオタイプに陥らない、重層的な人間ドラマも見どころだ。

監督はスタントマン出身のリック・ローマン・ウォー。アクションへの並々ならぬ情熱を持つジェラルド・バトラーとの相性は非常にバツグンで、2019年の『エンド・オブ・ステイツ』以来、『グリーンランド ―地球最後の2日間―』、そして本作と、早くも3本目のタッグ作が実現した。

ウォー監督は本作で「現代の西部劇」を標ぼうしており、渇いた砂漠を舞台とした疾走感あふれる物語展開は、息をつく暇もないほどだ。

撮影は当初、2020年に行われる予定だったが、コロナ禍の拡大により、撮影は中断。翌年の2021年8月には、アフガニスタンからアメリカ軍が撤退。中東をめぐる社会情勢は大きな変化を遂げることとなった。だが戦争は終わったはずなのに、暴力の連鎖はいまだに続いている。

土地は戦争により荒廃し、人々の間にはいまだ悲劇の記憶が色濃く残っている。昨日まで味方だと思っていた人間も、いつ敵に転じるかわからない。そうした社会情勢、そして人々の喪失感なども本作ではしっかりと描かれている。

サウジアラビアの北西部で撮影

ロケ地は、広大な自然と、文化的遺産を数多く有するサウジアラビア北西部のアル・ウラー。英語圏のアクション映画で、ここまで大規模な撮影が同所で行われるのは初めてのこと。ロケ地としての美しい景観はもちろんのこと、撮影隊へのサポート体制、インセンティブなどにも力を入れているとのことで、撮影隊の誘致にも積極的だ。


アフガニスタンでは、いつ味方が敵になるか分からない。そうした社会情勢もリアルに織り込んでいる。 ©2022 COLLEAH PRODUCTIONS LIMITED. ALL RIGHTS RESERVED.

すでに何本かここで撮影されてきたとのことで、今後、ハリウッド映画のロケ地としても注目を集めそうだ。ラフォーチュンもその利点について「主な舞台となるアフガニスタンの地形は、僕たちの想像をはるかに超えるほどに極端。頂上に雪がかぶった山々があれば、広大な松林もある。どこまでも広がる砂漠や、月面のような景観もあれば、にぎやかな都会もある。だからこそその環境をほかの場所で再現するのは至難のわざだったが、サウジアラビアならそれを忠実に映像化することができた」とコメントした。

現場には世界25カ国のスタッフ、キャストが集結。現場には多様な言語が飛び交っていたという。また、国内外の撮影隊誘致に熱心なフィルム・アル・ウラー社の全面協力に加え、サウジアラビア政府、サウジアラビア空軍(RSAF)の手厚い支援も、スケールの大きな映像づくりに寄与している。

(壬生 智裕 : 映画ライター)