ともに2020年2月に発売されたフィット(左)とヤリス(右)(写真:本田技研工業、トヨタ自動車)

2020年2月、ほぼ同時に国内市場に投入されたトヨタ「ヤリス」とホンダ「フィット」。

ヤリスは「ヴィッツ」からのフルモデルチェンジを機に、世界ラリー選手権(WRC)でも馴染みのあるグローバルでの名称へと変更し、走行性能の高さを訴求。一方のフィットは「心地よい視界」や「座り心地」といった使い勝手の良さを一新されたデザインとともに強くアピールしている。

今回は現行モデルの登場から3年超が経過した今、購入者分析を通じてヤリスとフィットのこれまでを振り返ってみたい。


ヴィッツ時代からのハッチバックスタイル継承するヤリス(写真:トヨタ自動車)


フィットは初代以来のワンモーションフォルムがスタイリングの特徴(写真:本田技研工業)

分析に当たっては、ヤリスの派生モデルである「ヤリスクロス」と日産「ノート」も加えて参考とした。

使用データは、市場調査会社のインテージが毎月約70万人から回答を集める、自動車に関する調査「Car-kit®」。さらに、インテージの自主調査データも活用し、別の角度からも分析を進める。

<分析対象車種・サンプル数>
■トヨタ「ヤリス」:2079名 ※GRヤリスを含まない
■ホンダ「フィット」:2083名
■トヨタ「ヤリスクロス」:2100名
■日産「ノート」:1787名 ※ノートオーラを含まない
※いずれも分析対象は新車購入者のみ
※現行ヤリスと現行フィットの発売時期に合わせるため、いずれも2020年2月以降の購入者のみを対象とした

購入者の性別・年代

まずはヤリスとフィット、それぞれの販売状況を振り返ってみよう。自販連「乗用車ブランド通称名別順位」によると次のようになっており、ヤリスの強さが圧倒的だ。

■2020年:ヤリス1位(15.1万台)/フィット4位(9.8万台)
■2021年:ヤリス1位(21.2万台)/フィット12位(5.8万台)
■2022年:ヤリス1位(16.8万台)/フィット9位(6万台)
■2023年(1〜6月):ヤリス1位(9.7万台)/フィット15位(2.9万台)

ただし、ヤリスの数値にはSUVタイプのヤリスクロスとスポーツタイプの「GRヤリス」が含まれる。

GRヤリスは少数だが、ヤリスクロスはヤリス全体の半数近くを占めるというから、純粋な5ドアハッチバックのヤリスの販売台数は、上記の半数程度だろう。とはいえ、年の途中でヤリスクロスが登場した2020年を除き、仮にヤリス自体の販売台数を半数程度にしたとしてもフィットを上回っている。

では、ヤリスとフィットの購入者はどのような人々なのか。まずは基本的な属性情報として性別・年代の構成比を見てみよう。

性別を見てみると、ヤリスはフィットより女性が多い。一方で年代構成には大きな差はない。


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この理由は、併有車(ヤリス/フィット以外に世帯内で保有するクルマ)の有無を確認してみるとわかる。「併有車あり」の割合は、ヤリス51%、フィット39%とヤリスが多かったのだ。

この数値から、「夫婦がそれぞれクルマを保有していて、そのうち取り回しの良いコンパクトカーである」といったスタイルが想像できる。

購入時に比較検討したクルマは何か?

次に購入時の検討状況を明らかにするため、最後まで悩み比較したクルマ「最終比較検討車」をチェックしていく。メーカー別と車種別、それぞれをまとめてみた。

最後まで比較したクルマのメーカーを見てみると、ヤリス・フィットともに、トヨタが1位となっている。ヤリス購入者は、実に7割超が他のトヨタ車と比較している。


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フィット購入者が同じホンダ内で比較する人は4割弱にとどまっており、厳しい状況だ。トヨタ車との比較に勝たなければフィットの購入にたどり着かない人が、それだけいるということである。ちなみに日産ノート購入者は、日産内で比較する人が約5割とトヨタを抑え1位となっている。


ノートは2020年12月の発売。現行モデルではe-POWERのみとなった(写真:日産自動車)

続いて車種別で見てみると、ヤリスでは2位のフィットを除き、トヨタ車が4車種もランクインしており、トヨタのラインナップの多さとその強さが表れている。1位が「アクア」なのは、燃費の良いコンパクトカー同士で比較するためで、まっとうな結果だと言えよう。


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フィットの比較検討車の上位にホンダ車が上がっておらず、4位と5位にようやく「フリード」「ヴェゼル」が入ってくる結果となった。

フィットがほしい人からすると、フリード・ヴェゼルともサイズが大きく価格も高いため、なかなか比較しづらそうに思える。そのため上述のメーカー別集計においてもホンダの割合が低いのだろう。

フィット購入者が最後まで比較したクルマの1位はヤリスで、2位アクア、3位ノートと続く。やはり、サイズや価格が近い低燃費のコンパクトカーと比較されるのだ。

ここまではそれぞれで異なる結果が出ていたが、「決定のこだわり度」は興味深いことにヤリスとフィットで大きな差はない。「ぜひこの車種に」と回答した人はヤリス、フィットともに36%である。比較としてヤリスクロスとノートも見てみると、ヤリスクロスは48%、ノートも42%と高かった。


ヤリスをベースにSUVに仕上げられたヤリスクロス(写真:トヨタ自動車)

ヤリスもフィットも「車種そのものへの魅力」や「こだわり度」に大きな差はなくても、比較車種の顔ぶれが大きく異なる。この結果は、メーカーであるトヨタとホンダそれぞれのブランド力や販売力、そしてラインナップの豊富さに差があることが影響しているだろう。

では、目線を変えて各車に「あてはまるイメージ」を見てみよう。こちらはヤリスを購入した人はヤリスについて、フィットを購入した人はフィットについてのイメージを回答した結果である。


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ヤリスの大きな特徴は、どこかに特化しているわけではない、幅広いイメージを獲得していることにある。「スポーティ」はコンパクトカーとしては高めだが、それ以外の項目は特に高いわけでも低いわけでもない。多くの人に受け入れられ購入されているため、多様なイメージを抱かれているようだ。

フィットはその外観からもイメージできるように「スポーティ」が少なく、「カジュアル」「親しみやすい」「実用的」「シンプル」のスコアが高い。フィットにはスポーティなグレード「RS」があるが、それよりも「HOME」や「CROSSTAR」のイメージが強いのだろう。


車高をアップし、SUV風のスタイルとしたフィットCROSSTAR(写真:本田技研工業)

ノートは「先進的」のスコアがとても高いが、これは日産が「e-POWER」を押し出し、ハイブリッド専用車としているためだと推測できる。

クルマに対するニーズを6つに分類

最後に、「クルマに対するニーズ(重視点)」の観点から分析を深めていく。

使用するデータは、インテージが2023年に全国の新車購入者5000人(直近1年間購入)を対象に行った調査結果だ。クルマを購入・検討する際の重視点を全60項目で聴取し、購入者をそれぞれ6つのセグメントにわけている。

各セグメントの名称は、60項目への回答傾向の特徴から命名。6セグメントの構成比の大小を車種別に確認することで、「どのような特性を持つ人に買い支えられているのか」を明らかにするものだ。

まず全体の傾向を説明するために、新車購入者全体の結果を紹介する。


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新車購入者全体では「高関心」が32%と最も多く、次いで「日常の足」が19%、そして「運転好き」「快適・利便性重視」「人気車種で安心したい」「こだわり」が1割強ずつと少数派となっている。

続いてフィットを見てみると、「日常の足」が多い点が特徴的だ。新車購入者全体では19%程度、競合のヤリスは26%である中、フィットはおよそ3人に1人が「日常の足」と答えた。「クルマに対するニーズ(重視点)」として、日々の生活の中で活躍してほしい人が多く購入していることがわかる。

また、「快適・利便性重視」の割合も、フィットはヤリスより高い。Car-kit®内の「購入したクルマの気に入った点」の設問では、「乗り心地の良さ」「室内の広さ」「実用上の使い勝手の良さ」が高評価となっており、このことからも「快適・利便性重視」が多いのは、フィットの強い特徴の1つであるようだ。


スッキリした直線基調のインストルメントパネルを持つフィットのインテリア(写真:本田技研工業)

一方のヤリスは、フィットより「運転好き」「高関心」「人気車種で安心したい」が少しずつ多くなっていて、「快適・利便性重視」が少ない。世界ラリー選手権(WRC)と結びついたイメージや、トヨタ販売店の地盤の強さなどから、このような結果になっていると考えられる。


フィットに比べ立体的でトヨタらしいデザインを持つヤリスのインテリア(写真:トヨタ自動車)

ちなみにヤリスクロスでは「高関心」が、ノートでは「高関心」「人気車種で安心したい」が高く出ている。

ヤリスクロスは、そもそもコンパクトSUVである部分に関心を寄せられる車種であり、先ほど見た「最後まで悩み比較した車種」の分布の通り、「ライズ」や「カローラクロス」といったコンパクトSUVと比較して購入している人も多いため、文字通り「高関心」であることがうなずける。

モデルライフ後半の“どんでん返し“はあるか?

今回は、フルモデルチェンジから3年が経過した、ヤリスとフィットの購入者分析を行った。ヤリスもフィットも、市場に訴求したい強みやメッセージが購入者にしっかり届いていることが明らかになったといえる。


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ヤリスにはSUVのヤリスクロスという頼もしい相方がいるため、ヴィッツ時代よりもキャラクターがはっきりした印象だ。

どちらもモデルライフ中盤を迎え、これからマイナーチェンジを実施するタイミングがくるだろう。フィットが巻き返しを図れるのか、それともヤリスの堅調が続くのか。納期遅延も解消してくるであろうこれから、どんな展開になるのか楽しみである。

(三浦 太郎 : インテージ シニア・リサーチャー)