2023年8月2日に70の再導入とともに発表されたランクル250(写真:トヨタ自動車)

トヨタ自動車が「ランドクルーザー(ランクル)」シリーズの「プラド」に代わるニューモデル「ランドクルーザー250」を発表した。

一部の国や地域では、従来どおりプラドの名前が継承されるが、日本ではランドクルーザー250になるという。


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とはいえ今までも、たとえばヨーロッパではプラドがランドクルーザー、日本でランドクルーザー(以下300と記述)と呼ばれる系列は「ランドクルーザーステーションワゴン」や「ランドクルーザーV8」などと称しており、グローバルでの呼び名はさまざまだった。

「アルファード」「ヴェルファイア」の発表会に続いて、プレゼンテーションを担当した取締役・執行役員でデザイン領域の領域長を務めるサイモン・ハンフリーズ氏は、開発当時、代表取締役社長だった豊田章男氏から、「原点回帰」を言い渡されたと語った。

そもそも「原点」とは何だったか?

原点回帰という考え方そのものは、自動車の世界ではさほど珍しくはない。とりわけ長い歴史を持つ車種は、最近のモデルチェンジで似たようなコンセプトを取り入れることが多い。具体的にはスズキ「ジムニー」や日産「フェアレディZ」などが、該当する。


2018年登場の現行ジムニー(写真:スズキ)

ただし、ランクルのライバルとして名前が挙がることが多いジープ「ラングラー」、ランドローバー「ディフェンダー」、メルセデス・ベンツ「Gクラス」は、デビュー当初からコンセプトやデザインを大きく変えずに生産を続けているので、原点回帰ではない。

筆者はこの業界に入って最初に所属したのが、RV(レクリエーショナル・ビークル)の専門誌だったこともあり、プラドについてはその前身にあたる「ランドクルーザーワゴン」のころから試乗する機会に恵まれている。


1984年登場のランドクルーザーワゴン(写真:トヨタ自動車)

ランドクルーザーワゴンは1984年、登場したての「70」をベースに、当時は前後ともリーフを使っていたサスペンションのスプリングをコイルに換え、乗用車用のディーゼルターボエンジンを搭載する、5ナンバー登録車として登場した。

このときはショートボディの3ドアだけだったが、1990年のモデルチェンジでプラドの名を冠するとともに、ロングボディの5ドアが登場。次の世代ではプラットフォームが「ハイラックスサーフ」と共通になり、フロントサスペンションが独立懸架になった。

つまり、プラドの存在意義として、乗用車的なランクル(当時は80)、70との差別化があったのは間違いない。ゆえにこれまでは、モデルチェンジのたびに快適性や高級感を増していった。


フロントが独立懸架となった2代目(90系)プラド(写真:トヨタ自動車)

しかし、21世紀になって数えきれないほど登場したSUVの多くは、似たような方向性となり、同じトヨタの「ハリアー」など、プラットフォームを乗用車と共用した車種が出てくると、プラドは「乗り心地やハンドリングがいまひとつ」という評価を受けるようになった。

一方で、2018年に現行型へとモデルチェンジしたジムニーは高い評価を受け、ラングラーやGクラスは根強い人気をキープし、ディフェンダーは従来の面影を濃厚に残しながらアップデートした。となれば、プラド改め250がこのような路線を選ぶのは、必然だったのではないかと思う。

原点回帰とは「70に近づくこと」なのか?

ただし、ランクルにとって難しいのは、原点にあたる70が今なお現役であり、250と同時に日本市場への復活がアナウンスされたことだ。つまり、70に近づければ近づくほど、本物との比較をする人が増えることになってしまう。


フロント周りの形状が変わった70の再導入モデル(写真:トヨタ自動車)

しかも、新型70はディーゼルターボエンジンとATの組み合わせとなることがアナウンスされているし、登録が1ナンバーから3ナンバーに変わるという噂もある。ガソリンV6+MTで限定販売された前回より、はるかにハードルが低くなりそうだ。

それでも250の資料には、ボディサイド下部の面の削ぎ方は70をモチーフにしていることが記されている。また個人的には、フラッグシップの300の祖先である、1980年代の「60」に近い部分がいくつかあるとも感じている。


直線的なスタイリングは1980年代の60の面影もある(写真:トヨタ自動車)

具体的には、前期型が丸型、後期型が角形だったヘッドランプ、1枚もののリアウインドーと縦長のリアコンビランプの組み合わせなどだ。これらのディテールも、どことなくランクルらしいと感じさせる理由かもしれない。

サイドウインドー下端のラインを一直線とせず、ドア窓の部分だけ一段下げた処理は、これまでのランクルにはなかったものだ。

ライバルとの差別化を図ったという側面もあろうが、ニュースリリースには悪路での路面の確認しやすさを挙げており、たしかに最近のSUVとしては低く、機能に裏打ちされた処理であると理解できる。


キックアップしたウエストラインが特徴的(写真:トヨタ自動車)

ボディサイズは、全長がプラドより100mm長い4925mm、全幅は95mm幅広い1980mm、全高は20mm高い1870mmで、かなりサイズアップした。プラットフォームを300と共通としたことが大きいと思われる。60mm長くなった2850mmのホイールベースは300と同一だ。

プラドが持っていた「日本の道路や用途に合ったランクル」というポジションからは脱却し、フラッグシップの300、質実剛健の250という、キャラクターの違いにシフトしたと感じている。

インテリアも、伝統的な高級感を強調していたプラドと比べると、メーターパネルから連続したセンターディスプレイなどでモダンな印象をもたらしつつ、インパネ両端の丸型エアコンルーバーなどでオフロードっぽさも押し出したデザインに変わった。


直線基調で機能的な形状のインストルメントパネル(写真:トヨタ自動車)

センターコンソールが、幅広く高さのある造形になったことも目立つ。こちらは300と共通のプラットフォームを使ったためもあるだろう。この幅を見ると、サイズアップは不可避だったと教えられる。

スイッチが多いことも最近の新型車としては特徴かもしれない。でもこれは、オフロードでタッチスクリーン式の操作系が使い物にならないことを考えれば納得できるし、プッシュ式とトグル式を使い分けて配置するなど、扱いやすさにも配慮していることがわかる。


エアコンの操作にはトグル式スイッチが採用された(写真:トヨタ自動車)

3列のシートが用意されるキャビンは、ホイールベースの延長分がほぼ3列目の足元空間に充てられている。この点でも300に近い車格になったことが伝わってくる。

パワートレインは300と差別化

エンジンは、ガソリンに新設定のターボや同じユニットを積むハイブリッドを用意しつつ、ディーゼルターボともども直列4気筒で統一しており、ガソリン/ディーゼルともにV型6気筒ターボとした300とは、はっきり差別化している。


丸型ヘッドライトや2トーンルーフも選択可能(写真:トヨタ自動車)

日本仕様が2.7リッターガソリン自然吸気と2.8リッターディーゼルターボのみであることに、この国の所得水準を教えられるようであるが、個人的には輸入車に目を向けるユーザーを取り込むために、ターボやハイブリッドを用意してもいいと感じている。

いずれにしてもランドクルーザー250、現代のSUV市場の中では大いに受け入れられそうだ。

(森口 将之 : モビリティジャーナリスト)