東京証券取引所に「アクティブETF(上場投資信託)」が6本上場された。そもそも「アクティブETF」とはどんなものだろうか。積極的に買ってよいのか?(写真:Getty Images)

9月7日、東京証券取引所にアクティブETF(上場投資信託)が初めて上場された。

東証は、これまで何らかの株価指数(インデックス)をベースに運用するもの以外にETFの上場を認めてこなかった。海外では何年も前からアクティブETFが上場されていて、とくにアメリカの市場では人気化したものの中には1兆円を超える運用資産残高を持つファンドが複数ある。

アクティブETFとは何か


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さて「アクティブETF」をどう定義するかだが、「インデックスに基づくのではない、運用者の裁量に基づく運用を行うETF」とでもしておくのがいいだろう。

アクティブETFに対して、一部には「市場平均を上回る運用成績を目指す運用のETF」といった説明があるが、これは正確ではない。仕事が雑な記者がネットで「アクティブ(運用)」を調べて、アクティブを説明したつもりになっているのだろうか。投資家読者は、こうした用語の使い方から「ダメな記者」を判断したらいい。

新聞記事を見てみよう。「値動きが日経平均株価などの指数に連動する従来のパッシブ型のETFに対して、アクティブETFは運用会社が独自に選んだ銘柄で構成するETFです」はまあまあ及第点だろう。これに対して、「アクティブETFとは、市場平均を上回る運用成績を目指す上場投資信託」は落第だ。

「アクティブ」「パッシブ」「インデックス」といった言葉の使われ方には、しばしば混乱がある。

概念整理としては、ベンチマーク(運用目標となる具体的ポートフォリオ)と同じリターン推移を目指すのが「パッシブ運用」で、ベンチマークと異なる内容の運用が「アクティブ運用」だ。「インデックス運用」は指数(インデックス)に基づく運用で、パッシブでも、アクティブでもありうる。

現実的には、パッシブ運用が同時にインデックス運用であることが多いわけだが、これは運用のベンチマークとして株価指数が用いられる場合が多いことに起因する。

「日経平均のインデックスファンド」はアクティブ運用

ところで、日本株でインデックスとして有名な日経平均株価だが、ポートフォリオとしての日経平均は、値ガサ株(株価の高い銘柄)のウェートが高い、株式市場の平均的な姿とは似ても似つかぬ特殊なポートフォリオだ。「日経平均のインデックスファンドは、同時にアクティブ運用である」と考えることが妥当な場合が多いだろう。

しかも、日経平均は1年に1度以上銘柄の入れ替えがあるので、通念としてのアクティブ運用と同様に、人間の判断・裁量によって中身が変わっているポートフォリオだ。日経平均のETFが認められていたのだから、アクティブETFの上場を認めない東証の方針は、長きにわたる謎だった。

運用者が、あるべきポートフォリオを毎日発表して、これに基づいて運用会社を含む市場関係各社が設定・解約を行えばいいだけなので、ETFのポートフォリオが運用者の判断に基づく「アクティブファンド」であることに、何の問題もなかった。

今回、最初に上場された6本のアクティブETFは、比較的おとなしい印象だ。成長株でのオーソドックスなアクティブ運用をうたう商品が1つあるが、予想配当利回りが高い「高配当」を掲げる商品が2つ、「PBR(株価純資産倍率)1倍割れ解消」「政策保有株解消推進」「投資家経営者一心同体」など何らかのコンセプトによる銘柄選択を訴えるファンドが3本だ。

今後「売買しやすいテーマファンド」が増える?

ETFと一般の公募投信の主なちがいは以下のようなものだ。

(1) ETFは上場株式のように価格を見て売買できる
(2) ETFは通常は株式と同じ売買手数料が必要だ
(3) ETFは原則として毎日構成銘柄が確認できる
(4) ETFは傾向として信託報酬が公募投信よりも安い

信託報酬を安くできるのは、ETFは信託報酬の中から販売会社に対して支払う「代行手数料」(信託報酬の4〜5割程度)が必要ないことが主な理由だろう。

公募の投信には販売手数料がゼロの「ノーロード」のファンドもあるなど、比較は時に複雑だが、「いったん買ってしまったら長期保有すればいい」と考えて行動する投資家にとっては、ETFがより低廉なコストの投資手段になることがある。

また、上場株式と同様、貸株の対象にできるので、品貸し料を稼ぐこともできる。不人気で残高が集まらず、売買も不活発なETFは、上場廃止になってしまうリスクがあるので、十分な資産残高があるかどうかと、売買の活況度は少し気にしたほうがいいが、投資家にとっては有効な投資手段だ。

運用会社の商品企画担当者は、新商品を作らないと仕事にならないと思っている場合が多いし、新商品を作ることが好きなので、アクティブETFには今後多数の商品が出てくるだろう。

いかにもありそうで、こうなるとツマラナイなあと思うのは、特定の投資テーマを掲げながら集中度の大きいポートフォリオを作って「テーマファンド」型のETFをローンチして(立ち上げて)、人気化したもの(数を打てば、いくつかは当たるだろう)を頻繁な売買の対象とするような商品戦略と営業戦略の組み合わせだ。いわば「トレーディングしやすいテーマファンド」としてアクティブETFを扱う。

例えば、「生成AI関連」といったコンセプトで、生成AIをビジネスとして扱う企業を集めて、集中度の高いテーマファンドを作る。その中の1〜2銘柄が大当たりすると、それなりに人気化するかもしれない。銘柄を分析して投資対象を絞り込むのが面倒くさい投資家と、個別銘柄の説明が面倒くさいセールスマンが出会って、「取りあえず、○○関連を買ってみるか」とだけ考えて短期売買に励むような場面が目に浮かぶ。

株価指数先物やオプションを機敏に売買するような運動神経を持たない投資家がレバレッジ型ETFの売買に群がったように、個別銘柄について深く考えられない投資家がコンセプトの言葉と値動きの派手さだけにひかれて漠然とアクティブETFを売り買いするということなら、日本の株式市場の価格発見機能は少しも磨かれることがないだろう。

そして、短期売買にはトレーディングコストが伴うので、「投資」としてはうまく行きにくいはずで、資産形成の手段としても冴えない。

インデックス運用の改善ができるか?

さて今後、アクティブETFに何を期待するか。1つには、これまであまりに高い値付けだったアクティブ運用の信託報酬を、ETFに衣替えすることを機に、上品だといえる水準(?)まで引き下げる運用会社が現れるなら、これは投資家から見て正常な進化なので、歓迎したい。

一般論としてアクティブ運用が「有利でない」事実は覆しがたいが、手数料が低廉になれば、「お金を入れて、楽しんでみてもいいのではないか」と思える程度のアクティブ運用商品や投資家が現れてもおかしくはない。

もう1つ期待したいのは、インデックス運用の改善だ。例えば、インデックスベンダー(供給者)に支払っている無駄に高いインデックス使用料を省略できる商品を考えることができるはずだ。

インデックスファンドに使われているインデックスを運用会社が使用するためには、資産残高に応じて信託報酬の中から使用料を支払わねばならない(0.005%〜0.03%くらいと言われ、個別に契約)。これはインデックスファンドの手数料引き下げ競争が進んできた現在、この使用料が運用会社にとって負担になっているし、信託報酬をもう一段引き下げるうえでの障害にもなっている。

例えば、「S&P500種指数」のインデックスファンドとうたう投信商品は、S&Pグローバル社に同指数の使用料を支払わなければならない。指数の計算と公表にはコストがかかるし、「S&P500」という名前で商売をしているのだからパテント料を払えというインデックスベンダー側(この場合S&Pグローバル社)の言い分自体は理屈が通っている。

ただ、資産残高比例のインデックス使用料はいかにも高くて、暴利だと思える場合がある。対抗手段を考えてみよう。

仮に、S&P500の中で時価総額の小さな銘柄を除外して「S&P499」のようなポートフォリオを作ったらどうか。あるいは、逆の操作で「S&P501」でもいい。「S&P」は名乗れないし、名乗る必要もないので、「アメリカの代表的な大型株○○○銘柄程度で運用する」とだけうたう。

S&P500にほぼピッタリとトラックして、信託報酬率がより低いファンドがあった場合に、投資家にとっては十分魅力的だろう。ポートフォリオはピッタリとマネする必要はないし、ポートフォリオをどう組んで運用するかは運用会社の自由だ。「おおむね同じで、コスト差あり」という状況は有利なはずだ。

もともとインデックスファンドは、運用成果のうえで特定の「インデックス」にありがたみがあるのではなくて、「アクティブ運用の平均」に近いポートフォリオをじっと持って、余計なトレーディングコストを払わず、しかも低廉な運用手数料であることが有利の源泉なのだ。

名付けて「平均投資有利の原則」だが、この有利性は、いわゆる「市場の効率性」の成立の有無に影響されるような脆弱なものではなく、「テラ銭をたくさん払うギャンブラーは不利だよ」というくらいの頑健な原理だ。

王道の進化とは?

だとすると、特定の「インデックス」にこだわる必要はなく、「平均的で、分散投資が行き届いていて、低回転率のポートフォリオ」を作って、じっと運用していれば、アクティブファンドに対しても、インデックスファンドに対しても、有利なはずだ。

運用会社は独自のインデックスを開発・公表してもいいが、実は「インデックス」にこだわる必要がない。アクティブETFには、現在の公募投信のアクティブファンド群のような「ガラクタ箱の再現」ではなく、真に長期投資に適したポートフォリオの実現を期待したい。これこそが「王道の進化」だろう。

もちろん、こうした王道の運用とは別に、市場参加者の盲点を突くようなチャンスを拾う、気の利いたアクティブファンドがあっていいが、それも適切なコストがあってこそ歓迎できる試みだ。

「ETF」は、「いい(E)、手数料の(T)、ファンド(F)」と読んでほしい。決して、「イージーに(E)、トレードする(T)、ファンド(F)」ではない。

(本編はここで終了です。この後は競馬好きの筆者が週末のレースを予想するコーナーです。あらかじめご了承ください)

18日の月曜日には、中山競馬場の芝コースで朝日セントライト記念(距離2200メートル、G2)が行われる。これは、3歳馬を対象として行われるクラシック3冠の最後、菊花賞(10月22日、京都競馬場、距離3000メートル)に向けてのトライアルレースだ。3着までの馬が本番への優先出走権を得る。

セントライト記念の本命は人気でもソールオリエンス

人気になるだろうが、ソールオリエンスが頭1つ抜けていそうだ。外をまくっても衰えない末脚はいかにもこのレース向きだ。

対抗には、有力他馬が差し・追い込みタイプなのでプレッシャーのない逃げが打てそうなウィズユアドリームが面白そうだ。馬券的には、たぶん人気薄のこの馬から、少額の分散投資を組み立てて直線でドキドキするのがいいかもしれない。

3番手には、鞍上にクリストフ・ルメール騎手を確保したキングズレインを採る。スタミナが豊富でタフなコースに向く。本番に向けて、ソールオリエンスの脚を測りながら、権利を確保するのではないか。

「マジックマン」の異名を取るジョアン・モレイラ騎手で臨むレーベンスティールも有力だ。これまで1800メートルばかり使われているが、過去5戦のすべてで上がり3ハロン(600メートル)のタイムが出走馬中いちばんなので、距離延長は歓迎だろう。

以下、中山コースでは実績が上がっていないが地力のあるセブンマジシャン、規格外の馬力を感じさせるドゥラエレーデまでを押さえる。

(当記事は「会社四季報オンライン」にも掲載しています)

(山崎 元 : 経済評論家)