猫足も健在「408」に宿る"プジョーらしさ"
日本では2023年7月1日に発売となったプジョー408。価格は429万〜669万円(筆者撮影)
プジョーの車名といえば、中央にゼロを挟んだ3桁数字がおなじみだ。最近はSUVが4桁数字を使っているが、こちらも真ん中の2桁はゼロになっている。
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第2次世界大戦前の1929年から使われているこの様式、百の位が車格を示し、一の位は世代を表してきたが、初代「308」が登場するより前、1980年代に「309」が存在していたことから、現在は先進国向けが8、新興国向けが1というナンバリングになっている。
ただし、今回日本で発売された「408」は、単純に308と「508」の間に位置する車種ではない。実用的なハッチバックとステーションワゴンの308に対し、ファストバックとクロスオーバーを融合させた、スペシャルティカー的なキャラクターなのだ。
クーペに代わるスペシャリティの形
408は、BMW「3シリーズ」に対する「4シリーズ」のような位置付けと言えるし、「406」や「407」の時代にあったクーペが、姿を変えて蘇ったような印象も受ける。
なだらかなハッチバックを持ち、プロポーションはSUVとは明確に異なる(筆者撮影)
それなら優美なフォルムが高い評価を受けていた「406クーペ」の復刻版を送り出せばいいのに……と、一部のクルマ好きは思うだろう。でも、世の中のトレンドはそうではない。
プジョー自身、初代308をベースとした「RCZ」は生産を終えているし、308のライバルであるフォルクスワーゲン「ゴルフ」をベースとした「シロッコ」も同じ運命を辿っている。
408と同じCセグメントのクーペとしては、トヨタ「GR86」とスバル「BRZ」があるが、この2車種は共同開発生産だから成立しえた。
2010年からおよそ5年間にわたり生産されたプジョーRCZ(写真:Stellantisジャパン)
プレミアムブランドはBMW「2シリーズクーペ」の孤軍奮闘で、アウディ「TT」は生産終了がアナウンスされている。2ドアや3ドアのクーペを欲しがるユーザーは、激減してしまったのだ。
理由として考えられるのは、SUVの存在である。昔は、「クルマは背が低いほどカッコいい」と思われていた。でも、背が低いと乗り降りしづらく、車内も狭くなる。この点を解決してくれたのがSUVだった。
トヨタ「ハリアー」やポルシェ「カイエン」など、2000年前後からスタイリッシュでありながらユーティリティにも長けた車種が続々と登場してきたことで、多くのユーザーが「無理しなくてもいい」と思うようになったことが、背の低い2ドアや3ドアのクーペの減少につながったと考えている。
カイエンは2002年に写真の初代が登場。現在は3代目となっている(写真:Porsche AG)
そして、SUVのラインナップが増えると、さらにカッコ良さを追求した車種が生まれてくる。これがクーペSUVというスタイルだ。
その筆頭となったのはBMW「X6」で、2008年に登場。すると、BMWとともにジャーマンプレミアム御三家を成すアウディとメルセデス・ベンツも、それに追従。各ブランドとも、今では大小さまざまなクーペSUVをラインナップする。
ルノー「アルカナ」との違い
この流れはもちろん、ジャーマンブランドだけにとどまらない。フランスでは、2019年に登場したルノー「アルカナ」がこのスタイルに当てはまり、2022年にヨーロッパで3番目に売れたルノー車となった。独創的なハイブリッドシステムとともに、デザインが評価されているようだ。
ルノー アルカナは日本では2022年に発売されている(写真:ルノー・ジャポン)
そうなれば、ライバルのプジョーが黙っているはずはない。ということで、同じCセグメントに送り込んだのが、今回の408だと解釈している。
ただし、408とアルカナのボディサイズは大きく異なる。408が全長4700mm×全幅1850mm×全高1500mmなのに対し、アルカナは4570mm×1820mm×1580mmと、ひとまわり小柄なのだ。
これは、408がCセグメントの308と同じプラットフォームを使うのに対し、アルカナはBセグメントの「ルーテシア」「キャプチャー」のプラットフォームを拡大して用いていることが、大きいだろう。
ホイールベースの長さがよくわかる408のサイドビュー(筆者撮影)
数字の中で個人的に目を惹いたのは、全高だ。1500mmという数字は、クロスオーバーとしてはかなり低い。クロスオーバーのファストバックでこれより低いのは、1970年代以来グループを組んでいるシトロエン「C5 X」の1490mmぐらいだ。
C5 Xは長さや幅に余裕があるので、伸びやかさは一枚上手だが、おしなべて背が高くなった今のクルマの中に置くと、408のフォルムは流麗で、5ドアクーペと呼んでもいいのではないかと思うほどだった。
洗練された印象を受けるのは、顔つきのおかげもある。近年のプジョーは、ヘッドランプの両端からライオンの牙を思わせる白いLEDを下ろし、グリルはフロントパネルがシームレスにつながるような処理をしている。308もそうだ。
大胆なスタイリングも話題となった現行308(写真:Stellantisジャパン)
ただ、408ではアリュールとGTの2グレードがあるうち、GTはグリル内もボディカラーとしたおかげで、パネルに向けてグラデーションのような連続感が実現できている。
今後、しばらくプジョーはこの顔で行っていいと思えるほど、個性とバランスが両立している。
ボディサイドも、フェンダーの張り出しを除けばオーセンティックな308に対し、ドアに斜めのラインを入れるなどかなり彫刻的で、スペシャルティカーらしい。
リアもコンビランプやスポイラーなどエッジを強調した仕立てで、308との立ち位置の違いを明確に教えてくれる。
プジョーの美点「アクセス性」は健在
対照的にインテリアは、インパネやシートなど、308と共通部分が多い。「i-コクピット」と呼ばれるスタイルのレイアウトも、もちろん継承する。しかし、キャビンに収まった感触は異なるものだった。
先進性が押し出されたデザインのインテリア(筆者撮影)
170 mmという408の最低地上高は、308ハッチバックの130mmより40mmも高いのに対し、1500mmの全高は308より25mm高いだけ。つまり、ボディだけで見れば、408のほうが308より上下に薄いのだ。
よってキャビンは、フロアやシートは乗り降りにちょうどいい高さなのに、運転席に収まるとルーフは308より低く感じる。クロスオーバーならではの実用性と、クーペっぽい囲まれ感を両立した空間に感じられた。
それでいて後席が広く、使いやすいのも408の美点だ。
足元の広さと同時に、ドア開口部の形状にも注目(筆者撮影)
まずはリアドアの開口部。通常、リアドアのウインドー後端は、リアクォーターピラーに沿って傾けることが多いのに、408は前後ともに垂直に近い。
実は308ハッチバックやコンパクトカーの「208」も同様で、プジョーはキャビンへのアクセス性を大事にしているブランドであることがわかるが、姿から想像する以上の乗り降りのしやすさを実現している。
後席スペースも、ホイールベースが308ハッチバックの2680mmから一挙に2790mmに伸ばされたおかげもあって、身長170cmの筆者であれば足が組めるほど広い。
しかも、シートの座り心地は、ホールド性を重視して適度な硬さの前席に対して、後席は明確にソフト。筆者はその昔、車名で言えば408の前身に当たり、1987〜1997年に生産された「405」を所有していたことがあるが、それに近い感触で、目的に合わせた作り分けに感心した。
GTのシートはテップレザー/アルカンターラ(筆者撮影)
荷室もまた、広くて使いやすい。408には1.2リッター直列3気筒ターボのガソリン車と、1.6リッター4気筒ターボにモーターを結合したプラグインハイブリッド車(PHEV)があるが、駆動用大型バッテリーの影響を受けないガソリン車の荷室容積は、後席を使用した状態でも536リッター、床下にバッテリーを格納するPHEVも471リッターを確保している。
GT HYBRIDの荷室。バッテリー搭載によりガソリン車より床面が高くなっている(筆者撮影)
308(412リッター)を大きく凌ぎ、ステーションワゴンの308SW(608リッター)に迫る大容量だ。しかも、ファストバックゆえテールゲートが前後に長いので、奥の荷物が取り出しやすい。スペースをより有効的に使おうという気持ちにさせる空間なのである。
猫足を感じるコーナリング
走りについても簡単に触れておくと、加速は308より80kgほど重いことをほとんど意識させず、ガソリン車でも余裕を感じさせる。最近のプジョーでいつも感じることだが、8速のトルコン式ATがいい仕事をしている。
GT HYBRIDのエンジンルーム。1.6リッターガソリンターボに電気モーターの組み合わせ(筆者撮影)
それ以上に感心したのが乗り心地で、プジョーらしい猫足をしっかり実感できた。それでいてi-コクピットならではの小径のステアリングを切ると、ノーズがクイックに向きを変え、しなやかな接地感とともにコーナーを抜けていく。
パワーユニットによる違いについて触れておくと、乗り心地がよりしっとりしているのはPHEVで、ガソリン車は軽快な身のこなしが印象的だった。
実は408のタイヤサイズは205/55R19と、225/40R18の308GTに比べて、大径で細く、扁平率は控えめだ。これがプジョーらしい乗り味に貢献していることは間違いない。
美しさだけでなく、使いやすさや走りの心地よさも高水準にある408は、これまでプジョーを4台乗り継いできた筆者から見ても、魅力的な1台に感じられた。
(森口 将之 : モビリティジャーナリスト)