ESSE本誌でもおなじみの、料理家の上田淳子さん。

50代を超えたご自身の、暮らし方の変化や工夫についてつづったエッセイ『今さら、再びの夫婦二人暮らし』(オレンジページ)が話題を集めています。インタビュー前編(リンク挿入)では、子育て終了と共に住まいをサイズダウンした話、また、ものの減らし方と、ご自身にとって快適な空間づくりについてお話をいただきました。後編は、共に生活をする夫との、新たな関係性のつくり方について教えてもらいました。

【写真】食卓は「L字型」に座るのが夫婦円満のポイント

料理家・上田淳子さんの、50代からの「心地よい夫婦2人暮らし」のコツ

――夫は「よき相棒」と語る上田さん。息子さん2人の子育てが終了し、住まいを夫婦2人用にサイズダウンしてからは、ますますお互いの世界を尊重するようになったのだとか。

●夫とは「ご近所さん」ぐらいの感覚で話をしている

上田さん:結婚してすぐの頃の距離の近い感じ、そしてともに子育てをした時代を経て…。じつは今、そんなに熱く議論を交わしたり、会話をするようなこともないんです。朝、テレビを見ながら『こんなことあるんだね〜』、『へえ〜』と、ご近所さんとかわすような会話のレベルで、充分和んでいます(笑)。

とはいえ、離れるなんてことは、もちろんありません。年齢によって、夫婦の間の距離感も変わってくるもの。そして“仲よしファミリー”的なイメージにとらわれないこと。うちの夫婦は好きなことがはっきりある2人ですし、今ぐらいの距離感がとても心地よく感じています。

●子どもが巣立ったあとの夫婦には、適切な距離や空間が必要

――その夫婦2人の心地よさをさらに後押ししてくれたのが、各自のプライベートスペースだったとか。

上田さん:たまたまわが家は“サイズダウンの引っ越し”で個室を持ちましたが、独立した子どもの部屋を、夫婦どちらかのプライベートの部屋にしてもいいですよね。また、個室が厳しい空間にお住まいの方は、パーテーションを置いたり、家具の角度を工夫するなど、どこかに抜け感をつくると、“夫婦がっつり1対1で向き合う”といった環境は避けられると思います。

ずっと一緒でも平気、という方は、もちろん気にしなくてもいいと思いますが(笑)、これからさらに20年以上は2人きりで過ごす、ということを考えると、適切な距離や空間があったほうが、お互いにとってプラスになるのかなと思っています。

――上田さんご夫婦の場合、リビングダイニングでの座り方にも工夫をしているそう。

上田さん:うちの場合は、L字型に座っていますね。これも、ご夫婦それぞれのスタイルがあるようなのですが、対面だとがっつり向き合う感じになってしまいますし、並びで座って目線が合わないのもさみしいし(笑)。ときには目線を合わせ、ときには逸らす。堅苦しくも孤独でもない座り方が、ぴったりきています。

●トレンドに敏感な夫世代。「家事ができる若い世代」を起爆剤に!

――また、これから定年を迎える夫世代との「家事シェア」についても、「50代半ば以上の夫婦は、新たな工夫がいるかもしれません」という意見が。

上田さん:30代ぐらいの若い世代の方々からしたら驚かれてしまいそうですが、50代半ば以降の男性は、『家事は妻がやって当たり前』、『仕事はしてもいいけど、その分、家事もちゃんとするよね』と、ナチュラルに思っている人たちなんです。ただしこれから先は、妻の方が先に倒れたり、親の介護で自宅を留守にするなどの問題も出てくる年齢に。“ぜ〜んぶ妻まかせ”は、お互いにマズいですよね。人として基本的な家事は、できるようになっていたほうが望ましいと思うんです。

――「家事をしない定年前後の夫」を動かすには、「こうしたらいい」というアイデアも!

上田さん:この世代は、トレンドに敏感な人たちが多いです。バブル期はディスコやスキーに出かけ、車も流行りものを乗り、キャンプやランニングが流行ったら真っ先に乗っかっていた人たち。そんな彼らは、家事や料理が大好きな今どきの20代〜30代の男性陣を見て、薄々と「……オレ、遅れてる?!」と感じているはずなんです。だからその辺りを刺激し、トレンドに乗るきっかけをつくってあげる。今の若い人たちのライフスタイルってすてきよね〜。私たちも、時代遅れのガンコ爺とワガママ婆にはなりたくないわよね、って(笑)。

うちも、息子達がコロナ禍や1人暮らしをきっかけに、料理や家事にどんどん親しむようになったのを見て、夫が「俺も朝食をつくる」と言い始め、今に至っています。たまには「私がやるよ」と言うのですが、「ルーティンとして続けたい」と黙々とつくっていて…。決めたことはコツコツとやるタイプだったのね、もっと早くからお願いしておけばよかった、なんて新たな気づきもありました(笑)

――重い腰を上げて(?)、家事や料理を始めた夫たちには、こういう態度で接しているとも。

上田さん:ほめすぎると、『今までの自分は、やってもらって当たり前だと思っていた』ことをさらに自覚させてしまいそうなので、大げさに賞賛はしません。ただ、ご飯がおいしかったら素直に言い、ありがとうと感謝を伝えるぐらい。失敗を咎めたりもしないですね。これは息子と夫、どちらにも同じ態度を貫いていますが、上手くできていないのは、自分がいちばん分かっているはずだから(笑)。少しずつ、その人らしいやり方で料理や家事に楽しさを見出してくれればいいと思っています。

●お互いの“最新”を伝え合って尊重しながら生活するのが、大人の夫婦二人暮らし

――またこれから先、長く暮らしを共にするパートナーとして、お互いのトリセツを伝え合うのも重要と言います。

上田さん:数年前に夫婦のトリセツ的な本が流行りましたよね。あのアイデアを、自分たちの夫婦バージョンにアレンジしたらいいかなと思います。人それぞれ、パートナーに大事にしてほしいこと、見守っておいてほしいこと、一緒にやりたいことなどは違うと思うので、“私はこういう人間です”というのを、一度棚卸しし、ともに暮らす相手に伝えておきたいですね。

「機嫌が悪くなったらケーキが食べたいです!」「前はここのケーキだったけど、最近はこのお店のケーキが好きです」とかね(笑)。そうやってお互いの“最新”を伝えながら、相手を尊重して生活するのが、大人の夫婦2人暮らしなのかもしれません。

住み替え、荷物の整理、生活スタイルの見直しなど、子どもが巣立って改めて考えた、夫との2人暮らしについてつづった『今さら、再びの夫婦二人暮らし』(オレンジページ)。上田さんの提案に対し、夫、息子さん2人からのコメントも。子育て卒業後の家族の在り方についての参考になる1冊です。