華やかなオールスターゲームの祭典が幕を下ろし、MLBはこれから後半戦へと突入する。ポストシーズンに向けて目が離せないのはもちろん、日々欠かさず話題を提供してくれる大谷翔平(ロサンゼルス・エンゼルス)の活躍ぶりだ。

 今やお茶の間にも浸透した「SHOWタイム」に、メジャーファンでなくても心が躍る。シーズン後半戦、大谷の打棒が爆発すれば2年ぶり2度目のリーグMVP、そして三冠王も......。

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大谷翔平のリーグMVPを阻むライバルはいる?

【今季前半戦はキャリアベスト】

 今シーズン、開幕からここまでの大谷翔平の活躍は、過去2シーズンの前半戦に勝るとも劣らなかった。打者として記録したスタッツは、前年を大きくしのぎ、2年前とも甲乙つけがたい。

 2021年の前半戦は、打率.279、出塁率.364、33本塁打、OPS.1.062。今シーズンの前半戦は、打率.302、出塁率.387、32本塁打、OPS1.050だ。ホームランの本数はほぼ変わらず、打率と出塁率は今シーズンのほうが高い。昨シーズンの前半戦は、打率.258、出塁率.348、19本塁打、OPS.835だった。

 前半戦の防御率は、2021年=3.49、2022年=2.38、2023年=3.32。1年前がもっとも低い。ただ、前半戦のイニングは2021年の67.0イニングと2022年の87.0イニングに対し、今シーズンは100.1イニングを投げた。前年より15%以上増えている。

 打者と投手の成績を総合すると、「今シーズンの前半戦はキャリアベスト」と言っても過言ではないだろう。

 打撃スタッツのうち、32本塁打と6三塁打、長打53本と226塁打は、両リーグでもっとも多い。OPS1.050と長打率.663も両リーグトップに位置する。打率.302はア・リーグ6位、出塁率.387は3位、71打点は2位だ。

 ホームランはア・リーグ2位のルイス・ロバートJr.(シカゴ・ホワイトソックス)に6本差をつけている。打率と打点のア・リーグ1位は.323のヤンディ・ディアズ(タンパベイ・レイズ)と75打点のアドリス・ガルシア(テキサス・レンジャーズ)なので、その差は大きくない。大谷には「三冠王」の可能性もあるようにも見える。

【本塁打王も予断を許さない】

 もっとも、首位打者に関しては「伏兵」がいる。規定打席未満ながらコリー・シーガー(レンジャーズ)が打率.353を記録している。現時点の不足分は13打席にすぎず、今月が終わるまでには打率ランキングのトップに躍り出るはずだ。

 一方、打点王の行方は本人以外の要素に大きく左右される。塁上にいる走者の人数も、そのひとつだ。

 ガルシアが打席に入った時、塁上には計298人の走者がいた。大谷の走者は計261人。得点圏の人数は142人と115人だ。レンジャーズの打線でシーガーは2番、ガルシアは4番を打っている。

 打撃三冠のなかで獲得がもっとも有力な本塁打王も、まだ予断は許さない。2年前はブラディミール・ゲレーロJr.(トロント・ブルージェイズ)と5本差のトップで折り返したものの、シーズンが終わった時にはゲレーロJr.のみならず、前半戦に12本リードしていたサルバドール・ペレス(カンザスシティ・ロイヤルズ)にも2本差をつけられていた。

 チームメイトのマイク・トラウトは、今月初旬から離脱している。復帰が遅れれば、大谷はこれまで以上に勝負を避けられることになる。

 その一方で、エンゼルスは先月後半から失速している。後半戦もそれが続くと、大谷がホームランを打つチャンスは増えるかもしれない。

 対戦相手は、その打席で大谷にホームランに打たれても「試合に勝てそうだ」と判断すれば、歩かせるよりもアウトに仕留めようとするはずだ。さらに、大きくリードしている時は勝ちパターンのリリーフ投手を温存することも多い。

 すでに、そんな気配も感じられる。大谷が打ったホームランの直近4本中3本は、打席に入った時点でエンゼルスが4点以上リードされていた。この3本のホームランは、いずれも試合の帰趨には影響を及ぼさなかった。

 また、8月1日のトレード・デッドラインまでにナ・リーグの球団へ移籍すると、タイトル獲得はまず望めない。

【MVP獲得はほぼ間違いなく...】

 こんな例がある。

 マーク・マグワイアが1997年に記録した58本塁打は、両リーグでもっとも多かった。この年の本塁打王は、ア・リーグが56本塁打のケン・グリフィーJr.、ナ・リーグは49本塁打のラリー・ウォーカーだ。マグワイアはア・リーグのオークランド・アスレチックスで34本のホームランを打ったのち、ナ・リーグのセントルイス・カージナルスへ移って24本を積み上げた。

 とはいえ、現時点において、エンゼルスが大谷を放出する可能性は「皆無ではない」といった程度だろう。ワイルドカードの3番手との差は5ゲームだ。2021年のカージナルスは、前半戦を終えてワイルドカードの3番手に7.5ゲーム離されていた。しかしそこから巻き返し、ワイルドカードをゲットした。

 エンゼルスが後半戦に入ってからも負け続け、やむなく大谷を手放すにしても、トレードの相手がア・リーグの球団であれば、2チームの合計スタッツでタイトル獲得はあり得る。

 投手としては、7勝がア・リーグ12位タイ、防御率3.32が13位、132奪三振は3位。こちらのタイトル獲得は、少し難しそうだ。勝ち星は菊池雄星(ブルージェイズ)らと並び、奪三振は1位のケビン・ゴーズマン(ブルージェイズ)より21少ない。

 一方、これらのタイトルと違い、2年ぶり2度目のレギュラーシーズンMVPはナ・リーグの球団へ移らないかぎり、まず間違いなく受賞しそうだ。

 たとえば、こう考えてみてはどうだろうか。

 選手の評価を、シーズン全体が10点満点で、前半戦と後半戦の配分を5点ずつとした場合、前半戦の大谷はどんなに少なく見積もっても8点以上になるだろう。前半戦の満点は5点という前提だが、大谷に限っては野手と投手の二刀流なので、それを超えることがあり得る。

 前半戦の大谷は10点(5点+5点)あるいは9点(5点+4点)と評価することもできるが、DHは守備につかず、防御率はトップ10に入っていないことを踏まえると、野手としても投手としても、それぞれ5点ではなく4点という見方もできよう。

 前半戦を8点とすると、後半戦が野手と投手を合わせて3点にとどまったとしても、シーズン全体では11点となる。ほかの選手は前半戦も後半戦も5点でも、トータルは10点だ。大谷を上回ることはできない。

【ジャッジが戦線離脱した今...】

 ちなみに過去2シーズンの後半戦のスタッツは、2021年が打率.229、出塁率.382、13本塁打、OPS.839に、63.1イニングを投げて防御率2.84。2022年は打率.293、出塁率.366、15本塁打、OPS.928に、79.0イニングで防御率2.28だ。

 しかも、昨シーズンはアーロン・ジャッジ(ニューヨーク・ヤンキース)が62本のホームランを打ち、大谷の2年連続MVPを阻む形となったが、今シーズンのア・リーグにそういった選手は見当たらない。

 ロナルド・アクーニャJr.(アトランタ・ブレーブス)は21本塁打・41盗塁を記録し、史上初の「30-60」に近づきつつある。打率.383のルイス・アライズ(マイアミ・マーリンズ)は1941年のテッド・ウィリアムズ以来の「4割打者」となるかもしれない。だが、彼らはどちらもナ・リーグの選手だ。

 なお、大谷がトレードで移籍すれば、その球団がどちらのリーグであっても、ポストシーズン初出場の可能性は高まる。その先のワールドシリーズについても同様だ。また、トラウトとジャッジは大谷と同じくMVPを受賞しているだけでなく、ポストシーズンでプレーしたこともあるが、ワールドシリーズはまだ経験していない。

 果たして大谷はシーズン後半戦、どんな記録を残していくのだろうか。