中国で急成長するBYDの人気モデル、SEAL(写真:BYD)

日系自動車5社の中国販売台数は2023年1〜3月にいずれも前年割れとなり、アフターコロナの中国で四半期ベース最大の下げ幅を記録した。トヨタは前年同期比14.5%減、全量輸出販売のレクサスも45.8%減となった。

ホンダは37.7%減、日産は36.8%減、マツダや三菱自動車も前年実績の半分以下に落ち込んでいる。一方、新エネルギー車(NEV)大手のBYDは77.0%増となり、アメリカのテスラも26.9%増と健闘した。


東洋経済オンライン「自動車最前線」は、自動車にまつわるホットなニュースをタイムリーに配信! 記事一覧はこちら

日本車は、燃費性能や信頼性の高さから中間所得層以上の買い替えニーズを満たしており、またハイブリッド車(HEV)をラインナップする優位性もあって、コロナ禍の逆風下でも販売台数の維持を実現できていた。しかし、ガソリン車市場で構築した日本車のブランド力は、電気自動車(BEV) を販売の中心とするNEVブランドに太刀打ちできず、日系メーカーの苦戦が目立つ。

中国の新車市場は電動化シフトが進行する中で新車需要が変化していることもあって、ガソリン車販売を主力に据える日系自動車メーカーの事業に大きな影響を与えている。

テスラが口火を切ったBEV値下げ

中国の乗用車市場では、長年続いてきたフォルクスワーゲン(上汽、一汽VW) とゼネラル・モーターズ(上汽GM)の2社でトップ争う構造が、2022年に一変した。特にNEVで幅広い消費者層の支持を得ているなか、BYDは2022年に一汽VWを抜き、地場メーカーとして初の乗用車首位となった。また、重慶長安汽車と吉利汽車もトップ5にランクインしている。

しかし、2023年に入ると、テスラが中国で販売している「モデルY」と「モデル3」を値下げし、価格競争の口火を切った。


テスラ モデル3(写真:Tesla)

BYDや上海蔚来汽車(NIO)などBEV専業メーカーも相次いで値下げを行い、中国BEV市場で価格競争の波が押し寄せてきている。

2023年3月、国有自動車大手の東風汽車グループが新車販売キャンペーンを打ち出し、傘下の56モデルを値下げ対象とした。第一汽車など大手自動車グループも次々と値下げを行い、中国新車市場でガソリン車を値下げする動きが一段と広がっている。

競合各社の値下げに追随し、日系各社も販売促進のキャンペーンを実施したものの、消費者の間に一層の値下げを期待した“様子見ムード”が広がり、新車販売は盛り上がらなかった。

日本車の販売不振が長引くと、工場の売却や系列サプライヤーの撤退を余儀なくされる。すでに「中国で多くの日系車モデルが売れなくなる」との悲観論も聞こえてきているようだ。はたして、日本車は今後中国市場で挽回できるのか。乗用車メーカー別とセグメント別から日本車の実態を3つの点から分析してみよう。

1つ目は日系乗用車メーカーでも明暗が分かれていることだ。長年、中国で日系メーカー首位だった東風日産の2022年販売台数は、89万台だった。東風日産の100万台割れは、2014年以来である。

また、東風ホンダは2020年の8位から、2022年は15位に転落した。一方、トヨタと広州汽車の合弁である広汽トヨタの販売台数は、コロナ禍前の2019年では66.5万台であり、日系メーカーの中では第5位だったが、2022年には97万台に増加。東風日産を抜き、日系メーカートップの座に就いた。

2023年1〜3月の乗用車メーカー別販売台数トップ10を見ると、広汽トヨタは第6位、一汽トヨタは第9位となり、東風日産は第10位に順位を落としている。今後、トヨタが値引き攻勢で販売台数を維持していくと、それがホンダ・日産など日系同士の新車販売に影響を与えると考えられる。

カローラはじめ人気モデルの急減速

2つ目は、日系人気モデルの急減速だ。2023年1〜3月の乗用車モデル別販売台数トップ10では、テスラの高級BEVを含むNEV6モデルがランクインしている。

日系車販売台数トップの東風日産「シルフィ」は、コストパフォーマンスの高さで2018年から中国乗用車市場のトップモデルとなっていたが、2022年にはBYDの王朝シリーズNEV「宋」に抜かれ、2位に転落。2023年1〜3月には、4位となった。


日産 シルフィ(写真:日産自動車)

セダンブランドのロングセラー、一汽トヨタ「カローラ」は、大衆車市場で競争力を維持しているものの、2022年の販売台数はピークだった2019年と比較して28%減少し、2023年1〜3月にはトップ10圏外となってしまった。

セダン人気が下降する一方で、レジャー向けSUVは好調。乗用車販売に占めるSUVの割合は2012年には13%にすぎなかったが、2022年1〜3月では46%に上昇している。


一汽トヨタ カローラ(写真:一汽トヨタ)

しかし、ここでも日系メーカーは苦戦気味だ。ホンダ「ヴェゼル」「CR-V」、トヨタ「RAV4」「ハイランダー」、日産「キャシュカイ」などの日系ガソリン車SUVは、長距離走行を考慮した乗り心地やデザインなどが評価され、クルマの個性を重視する若年層の取り込みに成功したが、2023年1〜3月に上位ランクインしたのはCR-Vのみだ。

BYD「元」、宋、モデルYなどNEVモデルが圧倒的競争力を構築しており、日系ガソリン車SUVの人気モデルは存在感を示してはいるものの、すでに地場NEVモデルに太刀打ちできない状況になっているのである。

3つ目は、日本車の比較的優位分野が、大衆向けセダンと中高級セダンとなった点だ。人気モデルだけではなく、セグメント別の新車販売から、日本車と地場NEVの“好不調の2極化”が鮮明となっている。

2023年1〜3月のセダン販売台数をみると、ミニカー(Aセグメント)では電動化率がすでに99%に達したことにともない、地場ブランドが寡占している。スモールカー(Bセグメント)では、トヨタ「ヤリス」「ヴィッツ」、ホンダ「フィット」の日系ガソリン車3モデルが依然、競争力を維持しているものの、販売台数はいずれも前年同期比大幅な減少となった。

Cセグメント(ロワーミディアム)では、BYDを中心とする地場メーカー製プラグインハイブリッド(PHEV)の品質向上、米独系メーカーの値下げにより、日本車の販売台数が減少する傾向があり、日系メーカーはシルフィやカローラなど人気モデルに依存する状況だ。


BYDのPHEV車、秦PLUS DM-i(写真:BYD)

かつて日系メーカーの優位分野であったDセグメント(アッパーミディアム)は、少々様子が異なる。このセグメントは長年、中間所得層以上が主に買い替えを目的に購入するため、トヨタ「カムリ」、ホンダ「アコード」、日産「ティアナ」が長年販売台数の上位を占めていた。

それが2023年1〜3月で見るとBYD「漢」とテスラ「モデル3」がトップ争いをしており、BMWやメルセデス・ベンツなど高級車ブランドも上位に上がっている。とはいえ、アコードとカムリは、販売台数を落としながらも日本車の中で数少ない競争力を持つモデルとなっている。

今まさに中国事業の分岐点

日系メーカーは、今まで沿海地域や大都市の中間所得層をターゲットとし、付加価値の高い中高級車を中心に高い利益率を維持してきた。中国乗用車市場におけるシェアは、2020年に23.1%に到達し、直近10年間で最も高い実績を示していた。しかし、急速に進むNEVシフトの影響を受け、日本車のシェアは低下傾向にあり、2023年1〜3月のシェアは15.5%にとどまっている。


2022年の中国乗用車市場では、計168の新モデルが販売されており、そのうちNEVが全体の55%を占めた。2020年まではまだガソリン車一色であったが、完全に市場トレンドが変化したと言える。

減速感が漂う中国新車市場で今、多くの地場メーカーは価格競争に巻き込まれることを意識し、ガソリン車の開発を控えてNEVに力を入れている。今後もガソリン車需要の減少は続くから、日系メーカーの競争力はさらに弱くなり、市場シェアも変化していくと予測される。

いかに電動化戦略を進め、NEV市場でも競争優位を構築できるか。日系メーカーは、今まさに中国事業の分岐点に立たされている。

(湯 進 : みずほ銀行ビジネスソリューション部 主任研究員、中央大学兼任教員、上海工程技術大学客員教授)