ヤクルトの主力47人に聞いた「増やしたいもの、減らしたいもの」〜野手編

 球団初のリーグ3連覇に向け、ヤクルトの郄津臣吾監督は「個々が小さなパーセントでもプラスをつくれば、その上積みがチーム力を大きくする」と言った。そこで一軍キャンプに参加していた選手たちに「今シーズン、自分のなかで増やしたいものと減らしたいものを教えてください」と聞いてまわった。選手たちの言葉が集まるにつれ、3連覇への期待は膨らむばかりだ。まずは24人の野手に聞いた。


昨シーズン、史上最年少で三冠王を獲得した村上宗隆

【熾烈な遊撃手争い】

 長岡秀樹、元山飛優、武岡龍世の3人は、キャンプ終盤に連日の"特守"を行ない、ユニフォームを真っ黒にした。

 昨年、長岡はショートのレギュラーの座を勝ちとると、ゴールデングラブ賞も受賞。厚みを増した体で、4年目のシーズンをスタートさせた。

「打率を増やして、エラー数を減らしたい。そのために量をこなすことはもちろんですが、自分の体への理解を貪欲に増やしたいです。『いいスイングをしても、体が整わないと身につかない』という先輩からの助言もありましたので......」

 元山は「僕は人間的に隙が多いので、そこを減らしたい」と笑った。昨年、一軍でのプレーはわずか13試合にとどまった。

「謙虚に、丁寧に、堅実に。増やしたいのは、自分の体と向き合う時間です。ストレッチもなんとなくするのではなく、体の幹の部分からしっかりと。それができれば、去年みたいな悪い1年にはならないと思います」

 練習試合では左半身を意識した打撃で3本塁打を放つなど、アピールを続けている。

 武岡は「ひとつ挙げるなら、盗塁数を増やしたい」と言った。居残り練習では、阿部勝彦ハイパーパフォーマンスディレクターに、効率よく走れるフォームについて個別で学ぶ日もあった。

「今、チームに走れる内野手は多くないので、それができれば代走要因として一軍に残れるんじゃないかと。打撃は去年のデータを見返した時に、平均打球角度が8度とめちゃくちゃ低くて、野手の正面だったり、セカンドライナーが多かったので、去年の12月から打球を上げる練習をしています。減らしたいのはエラーです。毎年、二軍で12失策くらいなので、今年は一軍も合わせて10個は切りたい」

【ユーティリティープレーヤーの矜持】

 キャンプ中のシートノックでは、多くの選手がファーストミット、内野用、外野用のグラブを手にポジションを目まぐるしく移動していた。朝8時半に始まる早出練習に宮本丈が姿を見せると、河田雄祐コーチが「おっ、貪欲がきた」と声をかける。努力の人・宮本が増やしたいのは「1年間ケガなく、いいコンディションで過ごせる時間」だ。

「去年は、抑えながら練習をしてしまったことが反省点でした。この冬は青木(宣親)さんとの自主トレで、自分に合った体の使い方や負担がかからない体の使い方に取り組んできました。体への理解が増せば数字はついてくるでしょうし、試合数も増えていくかなと......。減らしたいものはミスショットです。狙っている球をしっかりとらえる準備をして、全打席を意味のあるものにしていきたいです」

 中日から移籍の三ツ俣大樹は「戦力外から獲ってもらったので、チームのためになるのなら一塁でも外野でもどこでもやります」と、初めてのポジションの練習にも覚悟をもって取り組み、後輩たちからは兄貴分的な存在として慕われていた。

「減らしたいものはないですね。今は挑戦してくることをどんどん増やしているので」

 赤羽由紘は、昨シーズン途中に育成から支配下登録された。日本シリーズにも帯同し、今年は勝負の年を迎える。

「まずは試合に出る機会を増やすことが一番で、試合に出た時にチームのために何かひとつでもできればと思っています。オフには内川(聖一)さんとの自主トレでミート率を上げることに取り組んできたので、三振を減らして、ヒットはもちろんですが粘って四球とかをとりたい」

 松本友は、キャンプ序盤は二軍スタートだったが、途中から一軍に合流。「内外野の守備を鍛錬しながら、打席に立った時は追い込まれても簡単に終わらない。何かを起こすことを意識したい」と、練習試合では持ち味のバッティングで結果を残した。

「トータルでも一軍に1年間いたことがないので、今は試合数を増やす段階だと思っています。そこから信頼を増やしていきたい」

 育成3年目の松井聖も浦添キャンプに途中から合流。本職である捕手のほかに、ファースト、外野のグラブを持っている。

「持ち味は右中間、左中間へのツーベースなので、その確率を高めていきたい。練習試合やオープン戦で1打席をもらえた時に、自分の存在価値をどれだけアピールできるかです。『おっ!』と思われるようなバッティングをして、2打席、3打席と増やしていけるようにしたいですね。それができれば、背番号の桁が減らせるかもしれないと期待しています」

 今キャンプのシートノックで、大きな注目を浴びたのが10年目を迎える奥村展征だ。ハツラツとした声と動きは、ほかの選手を乗せ、スタンドからも大きな拍手が送られた。キャンプ中は個人早出、居残り練習で誰よりもバットを振り込んだ。

「打ちにいく時に、ケツが浮かずにまだ残っているという形を増やしたいです。そのことで強い打球が増えてくるので、ヒットの確率も上がるでしょうし、その結果、打席が増えたらいいですね。減らしたいのは、打撃でも守備でもバランスを崩れないようにしたいです」

【ベテランと外国人選手への信頼】

 ヤクルトのキャンプは朝のウォーミングアップも見どころのひとつで、とにかく声が絶えることがない。活気のなかに規律も感じられ、その雰囲気の原点には「今はあまり声を出す必要がないんだよね」と言う青木宣親の存在がある。

 郄津監督にそのことについて話すと、「それは強く思います」とうなずいた。

「あとは石川(雅規)ですね。このふたりがチームを引っ張っています。もちろんいい成績を残してほしいですけど、チームにとって外せないふたりだと思っています」

 その青木は「チーム全体で見た時に声は日に日に大きくなっているし、若い子も必死でやっている。2連覇していることで雰囲気はいいですし、あまり変えることはないですね。自分に関しては、打撃を去年よりも上げたい」と話した。

 外国人選手たちも大きな声を出して練習する姿が、「チーム・スワローズ」の雰囲気のよさを表している。来日3年目のホセ・オスナは「具体的な数字は話せませんが、まずは打撃で去年よりも数字を増やしたい」と言い、こう続けた。

「あとはチームメイトの調子がよくない時や、困っている時は積極的に声をかけていきたい。減らしたいものはエラーです(笑)」

 同じく来日3年目となるドミンゴ・サンタナは「自分のルーティンを崩さずに、日々、一生懸命取り組むだけ」と言った。そのドミンゴは今年から眼鏡をかけてプレー。物静かな印象がさらに強くなっている。

「この2年間、優勝しているということは、今までの取り組みがよかったという証拠なので、あまり意識を変えないことが非常に大事かなと思っています」

【打てる捕手と強打の新人たち】

 午後の練習では、キャッチャーたちのフリー打撃に目を奪われるようになった。松本直樹と内山壮真が並んでケージに入ると、競うように打球がフェンスを越えていく。とくに松本は柵越えを連発し、スタンドから拍手がわき起こっていた。

 松本は「筋肉を増やして、脂肪を減らしたい。シーズン中はどうしても食べちゃうので」と笑った。

「打撃では相手投手に対して、打席に入る前からの準備を増やし、守備では起こりうることに対する予測を増やしたいです。そのことでケガが防げると思いますので」

 3年目の内山は「それがチームのためになるかわかりませんが」と前置きしこう語った。

「スタメン70試合が一番の目標です。増やしたいものばかりで、2ケタ本塁打、打率3割を目指しています。今は減らしたい数字はありません」

 2月26日の楽天とのオープン戦では4安打、2本塁打、7打点の大活躍。郄津監督は「今年は打席経験を増やしたいので、レフトを守らせていますが、シーズンでもそうしていきたい」と話した。

 全体練習後、古賀優大の姿はいつも室内練習場にあった。マシン相手にバットを振り込み、動画で確認してはまだ振り込んだ。1月は川端慎吾、山田哲人、中村悠平らの自主トレに参加。自身の打撃の形を明確にした。

「この1、2年、スタメンで出させてもらった時に自分のところで打線が切れてしまっているので、なんとか打撃で結果を出したい。自主トレは好打者の方ばかりで、そのアドバイスを取り入れて、いい方向に進んでいると思います。減らしたいのは失策です。ワンバウンドを逸らして進塁され、それが失点につながってしまうので」

 ルーキーの北村恵吾(ドラフト5位/中央大)は「打つことに関しては、自分の得意分野でもあるので......」と、オープン戦では本塁打を記録。フリー打撃ではレフトの防護ネットを越える大アーチも放った。

「打席のなかでは積極的に打ちにいくこと。でも、そのなかでボールを見極めて四球を選んだり、塁に出ることでチームに貢献できることはたくさんあるので、いちばん意識しているのは出塁率です。実戦で課題がたくさん出てきているなかで、とくに走塁に関しては根本から磨いて、少しでもいい走塁をしないといけないと思っています」

 澤井廉(ドラフト3位/中京大)は、最終クールから合流。オープン戦では初安打、初打点を記録した。

「打撃でアピールしていけたらと思いますし、本塁打にこだわりがあるので長打力を増やしたい。(二軍キャンプで)同級生の濱田太貴のバッティング練習とかをよく見るんですけど、すごいパンチ力があって打球を飛ばすんで、自分はまだまだだと......」

【主力4人の増やしたいもの】

 2月16日、野手では中村悠平、山田哲人、村上宗隆がWBC合宿のためにチームを離れることになったが、その前に今シーズンの「増やしたいこと、減らしたいこと」を聞いた。

「各々が増やすこと、減らすことも大事だと思いますが、昨年チームは最後に勝ちきれなかった悔しい思いのままでいます。その気持ちを忘れることなく、今年にぶつけていきたい。日本一奪還のためになんとかしてうまくなってやろうと、シーズンを通して成長できたらいいなと」(中村悠平)

「去年は個人の成績が全然よくなかったので、今年は『山田のおかげで勝ったな』という試合がひとつでもたくさんあればと思っています。ほかには、バットを振る量を増やしたいですね。単純に成績が落ちてきていることが理由で、(キャンプ中は)例年と比べると2倍まではいかないですけど、それに近いくらい振っています」(山田哲人)

 山田はWBCから帰国後、一軍に合流初日に「代表の宮崎合宿、そして大会中もバットを振りこむことができました」と納得の表情をみせた。

「個人としてはキャリアハイというか、それ以上を目指すことはもちろんですけど、チームとして研究もされているでしょうし、ひとつでもふたつでもレベルアップしてやっていかないといけない。根本的なところでは、去年と変わらず一人ひとりが勝ちに向かってやるだけのことをやっていく。そこに尽きると思います。守備では、相手の進塁をひとつでも減らせるように、気を抜くことなくやっていきたい」(村上宗隆)

 今年も「1番・センター」が期待される塩見泰隆は、下半身のコンディション不良で離脱するが、その前に取材に応じてくれていた。

「僕が増やしたいのは"率"ですね。いちばんは打率で、出塁率も増やしたい。僕が出塁すれば、中軸にはいいバッターが多いので、去年よりもチームの得点力が上がり、3連覇に向けて力になれると思っています。減らしたいのは去年同様、三振です。去年の目標は三振を2ケタにすることだったのですが、全然できなかったので、今年こそという思いが強いです」

【外野のサバイバルレース】

 河田雄祐コーチと若手外野手の守備練習を眺めるのは楽しい時間で、いいプレイには「アラボーイ(いいぞ)」と両手で大きな○印を、よくないプレイには大きな×印を描く。

 2年目の丸山和郁はいつでも笑顔を振りまいているが「絶対にレギュラーを獲りたい」と強い意思を持っているプレイヤーである。

「そのためには打率、ヒット数、四球の数、そして出塁率、ここぞという場面での一本を増やしたい。減らしたいのが三振とバント失敗。バントが成功すれば打率にも響かないですし、ランナーをしっかり送るのが自分の仕事なので。あとは河田コーチからの『アラボーイ』の数も増やしたい。コーチは本当にいい動きをした時にしか言ってくれないので、それが増えるということは守備がよくなっていることだと」

 快速・並木秀尊は「シンプルにいうと出塁率を上げたい」と話した。

「二軍ではボール球のスイング率が下がってきているので、もう少し見極められるように。長打力も増やしたいと思っていますが、まだスイング加速度がほかの選手と比較すると差があり、模索しながらたくさん振ってやっていきたい。強く振れることで、内野手がうしろに下がってくれたら小技も効いてくると思うので。減らしたいものは、練習でも指示されないというか、言うことがないと言われるようにしたいです」

 濱田太貴の魅力はパンチ力で、最終クールに滑りこむように一軍キャンプに合流。浦添でのオープン戦ですぐ結果を出した。

「大きめに盛って、本塁打20本、打率.280が目標です。減らしたいものはケガですね。去年もケガがなければ、もう少しよくなっていたかもしれないですし、本当にケガしたくないという思いです。そのために基本に戻って、ストレッチとウエイトトレーニングで強い負荷がかかっても耐えられる体づくりをキャンプからやっています」

 松元ユウイチ作戦コーチは「攻撃ではバントとか、フルカウントからのランエンドヒットとか、そういうところをレベルアップしないといけないですね」と話した。

 そのために、若手の早出練習では、マシン相手にバントやバスターなどの作戦バッティング練習に20分から30分の時間をかけ、全体練習では守備練習の時間を多くとった。

「昨年、チームは得点などでセ・リーグ1位だったのですが、基本的には守備で流れをつくりたい。そのために獲れるアウトを確実に増やし、去年の反省をいかして守備のミスを減らしたい。失点を防ぐことができなかったら、今度はうしろのランナーを進塁させない。細かいところのプレーでの確率を増やしたいですね」

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