東京都庁前をスタートするランナーたち(2023年3月、時事)

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 3月5日に「東京マラソン2023」が、コロナ前と同じ規模となる3万8420人の参加者を迎えて行われました。主催者の発表によると、邦人の参加者が2万6674人、外国人の参加者が1万1746人でした。

 同大会は東京都庁(新宿区)前を出発し、東京駅前までのコースで実施。沿道に集まった観衆は94万人(主催者発表)でした。

 上記の数字のように、盛り上がりを見せた今年の東京マラソン。どのくらいの経済効果があったのでしょうか。スポーツがもたらす経済波及効果を研究している、東京都市大学非常勤講師の江頭満正さんが試算・解説します。

マラソン大会は“景気刺激策”?

 筆者が代表を務めるサイト「経済効果NET」(スポーツや音楽ライブを中心に各種経済効果を算出・公開)では、参加者の居住地データから、スタート地点である新宿までの交通費を算出しました。スタートの1時間前までに、新宿に到着する公共交通機関がない地区は、前泊者としてカウント。宿泊費・飲食費などは、東京都の「訪都旅行者数及び観光消費額(令和2年)」を使用しています。

 沿道の応援者は、マラソン大会参加者が同行者を連れてくる例もあるので、その比率は過去の東京マラソンデータを割り当て、参加者の同行者以外は、東京都内からの応援者と仮定しました。

 事業費に関しては、コロナ前の2019年のデータをそのまま算入しています。2023年は「寄付金が多くなった」などの発表がありましたが、計算者の恣意(しい)的な推定値をできるだけ減らすために、そのまま使用することとしました。

 その結果、直接消費額は147億6300万円となり、1次および2次波及効果まで含めると、全国で309億4700万円。東京都に限定しても、221億400万円という試算結果となりました。

 ここで、各地のマラソン大会についても見ていきましょう。2019年に開催された「第9回大阪マラソン」の経済効果は約177億円であったと、関西大学名誉教授・宮本勝浩氏らが発表しています。出走者合計は車いす部門を含めて、3万2989人でした。

 また、2022年11月13日に開催された「おかやまマラソン」の経済効果は12億2000万円と、おかやまマラソン実行委員会が発表しています。参加者は1万1145人でした。

 では、東京マラソンの場合はどうでしょうか。一般財団法人東京マラソン財団が、2017年大会開催時に経済波及効果を算出しています。その結果は、日本(国内)の経済波及効果が約284.2億円、東京都の経済波及効果が約165.9億円でした。

 経済効果は、単純に比較できるものではありません。しかし、東京マラソンが大きな経済効果を生んでいることは間違いありません。というのも、東京マラソンの場合、大会運営にかかる費用(35億6200万円)に対し、経済波及効果(309億4700万円)は8.6倍になります。大会経費が、観光や飲食、スポーツ用品などさまざまな産業に広がり、8.6回も回転しているということです。

 景気の良しあしは、この“お金の回転速度”に左右されるので、東京マラソンが309億円の経済波及効果を生み出すことは、景気刺激策にもなっていると思われます。また、算出した結果、東京都の税収は20億円を超え、東京都が拠出している補助金も約2億円で、十分に回収できている計算になります。

 これまで、日本経済の景気を回復させるために、大型のインフラ(建築物)などを作ってきた歴史がありますが、建造物は維持費が必要で、修繕や取り壊しまで考えると、かなりのお金が必要になります。一方、マラソン大会は維持費も修繕費も必要なく、撤退するコストも極めて少なく済みます。コロナが落ち着きを見せている間に、大きい規模の市民参加マラソン大会を開催することは、景気回復の一助として有効といえるのではないでしょうか。