犬をカートに乗せる理由は?

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「犬の散歩」と聞くと、飼い主がリードをつないで犬を歩かせる場面を想像する人が多いと思いますが、中には犬をカートに乗せた状態で散歩をしている人もいます。なぜ犬をカートに乗せているのでしょうか。獣医師の増田国充さんに聞きました。

犬の高齢化、利便性が要因

Q.犬をカートに乗せた状態で散歩をする人を見掛けることがありますが、なぜでしょうか。考えられる理由について、教えてください。

増田さん「『犬をわざわざカートに乗せる必要があるのか?』と疑問に思った人がいるかもしれませんが、実際に犬用のカートを利用する人は増加傾向にあります。その理由として、犬の高齢化と利便性が挙げられます。

適正な食事や獣医療技術の向上により、犬の長寿命化が進んでいます。四肢の力が衰える年齢に達しても、気分転換や1日の中でのメリハリをつけるという意味において、屋外で日の光を浴びて散歩することは有効だと思います。その際、歩行機能が落ちていてもカートに乗りながら移動ができることは、犬だけでなく、飼い主とのコミュニケーションを取る上でも有用なものとなります。

一方、レジャーの多様化や、犬同伴で利用できる施設が増えています。それらの施設を利用する際に移動を伴うことがありますが、犬それぞれの体力に合わせて、適度な休養を取るときの補助用品としても、カートを活用できます」

Q.では、犬をカートに乗せる際の目安について、教えてください。高齢犬の場合、カートを使った方がよいのでしょうか。

増田さん「犬の年齢や体力を考慮して、カートの使用を検討するケースが多いかと思います。ただ、個々の犬によって条件が異なるため、一概に『何歳から使用可能』とは言えません。

屋外で機能回復を目的とした歩行訓練を行うことがあるかもしれませんが、長時間、起立や歩行をすることが困難な場合もあるかもしれません。また、四肢の機能低下以外にも、五感の低下などによって屋外で動き回ることが困難になる場合も想定されます。そのようなときにカートの利用を検討することになるかと思います」

Q.犬をカートに乗せる際の注意点について、教えてください。例えば、若い犬がカートに乗る頻度が高くなった場合、どのようなデメリットが想定されるのでしょうか。

増田さん「カートに乗って移動することが当たり前のようになり、自ら運動する機会を逃してしまい運動不足になる、といった話を耳にします。使用する際は、メリハリをつけることも重要かもしれません。

カートはある種、犬自身のテリトリー的な位置付けになるので『安心する場所』という捉え方もできます。健康で運動が必要な犬の場合、カートに過度に依存することなく、外の空気をたくさん吸って、自分の力で動き回る喜びを体感してほしいと思います」

Q.犬をカートに乗せて外出する際に、どのようなトラブルが発生しているのでしょうか。具体的な事例や対策について、教えてください。

増田さん「公共の場所では、犬用カートの利用ができない所が存在します。また、犬が苦手な人に配慮するため、カートの乗り入れは許可されていても、フードをかぶせて犬の姿が露出しないよう定めている場所も存在します。このほか、食品や衛生面で立ち入りが制限されている場所もあるので、それらのマナーを十分考慮した上でカートを利用してほしいと思います。

また、カートの使用に限った話ではありませんが、フードをかぶせた状態では通気性が悪くなることが予想されます。夏場は熱中症への配慮が必要となり、保冷シートを使用するなどの工夫が必要となるかもしれません。

路面は平坦に見える場所でも、わずかな段差は多く存在します。地面からの突き上げでびっくりして犬が飛び出し、けがやトラブルになる可能性があるので、ベビーカー同様、優しい操作が求められます。

周囲の人への配慮、そして犬用カートへの理解が一層進むことで、人と犬とのよりよい共生につながればと願います」