障害年金の請求時に、書類の作成に頭を抱える人も…

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 筆者のファイナンシャルプランナー・浜田裕也さんは、社会保険労務士の資格を持ち、病気などで就労が困難なひきこもりの人を対象に、障害年金の請求を支援する活動も行っています。

 障害年金を請求するためには、診断書などさまざまな書類をそろえる必要があります。その中の一つに「病歴・就労状況等申立書」という書類がありますが、発病時から現在までの状況を事細かに書かなければならず、「一体何を書けばよいのか」「この記載内容で本当に大丈夫なのか」と迷ってしまうこともあるようです。

 病歴・就労状況等申立書を作成するには、どうしたらよいのでしょうか。ひきこもりの人のいる家族を例に、浜田さんが対処法を紹介します。

大学時代に発達障害と診断

 ある日、ひきこもりの長女(27)がいる母親(58)が、障害年金の相談をしに私の元を訪ねてきました。

 母親によると、長女は小さい頃から忘れ物やうっかりミスが多く、会話が独特で、友達から面白がられるような子でしたが、本人は特に気にすることもなかったそうです。

 しかし、大学生の頃にアルバイトをするようになると、その状況は一変しました。

「先輩から仕事のやり方を教わっても頭の中に入らない」「思うように仕事ができず叱られてしまう」「メモを取るよう何度も注意されても、うまくメモが取れずに呆れられてしまう」「客との会話がかみ合わずにクレームを受けてしまう」など、何度も失敗をするうちに、職場では緊張のあまり、頭の中が真っ白になってしまうことが増えてしまったそうです。

 時にはパニックを起こし、大きくうろたえてしまうこともありました。そのようなこともあり、いずれのアルバイトも長続きしませんでした。

「自分は一体どうしてしまったのだろう」

 不思議に思った長女はインターネットで情報を検索し、「ひょっとしたら自分は発達障害かもしれない」と感じ、病院を受診しました。検査の結果、長女は発達障害の疑いが強いという診断を受けたそうです。ショックを受けた長女は、就職活動も思うようにいかず、大学卒業後はひきこもり状態に陥ってしまいました。

 ひきこもり状態が改善することなく、数年が経過した頃、「働いて収入を得ることは難しそうだから、障害年金の請求をしてみよう」と決心した長女は、インターネットで必要な書類を調べてみました。すると、関係書類の多さに、長女はパニックを起こしてしまったそうです。

 その後、母親に助けを求めたところ「まずは病歴・就労状況等申立書の下書きから始めてみよう」ということになりました。長女の希望により、1人で下書きをすることになったそうです。その後、かなりの時間と労力をかけて下書きをした長女は、母親にも読んでもらうことにしました。

 下書きに一通り目を通した母親は「本当にこれで大丈夫なのだろうか」と不安になってしまいました。しかし、何をどのように改善したらよいのかが分かりません。母親の心の中にはモヤモヤしたものだけが残りました。長女も心配そうな顔をしています。

 そこで母親は長女と相談し、「専門家に見てもらおう」と決めたそうです。

「病歴・就労状況等申立書」の役割とは

 母親から事情を伺った筆者は、長女の作成した下書きを読むことにしました。そこには長女自身のことだけではなく、両親への不平不満も多く記載されていました。

 例えば、「父親は仕事人間で、家のことは一切していない。いつもゴロゴロしてばかり。少しは家事を手伝ってもよいのではないか」「母親はいつも口うるさく注意してくる。いいかげん黙ってほしい」「こんな両親に育てられた私の人生は、めちゃくちゃになってしまった」といったものでした。

 読み終えた筆者は、あまり効果的な申し立てになっていないと感じました。そこで私は、母親に病歴・就労状況等申立書の役割から説明しました。

「障害年金では、診断書と病歴・就労状況等申立書の記載内容を踏まえ『本人の障害の程度がどのくらい重いのか』を判断することになっています。診断書に記載できることは限られているので、それを補うために病歴・就労状況等申立書を作成することになっています。ここまでよろしいでしょうか」

 母親は黙ってうなずいたので、筆者は説明を続けました。

「障害年金の受給の可能性を高めるためにも『娘さんがその障害により、日常生活がどのくらい困難になっているのか』という内容にする方が望ましいです。ちなみに、下書きには『お母さまが口うるさく注意してくる』とありますが、具体的にはどのような状況でそうなってしまうのでしょうか」

「そうですね…」

 母親は視線を上に向け、しばらく何かを考えているようでした。その後、次のようなことを語り出しました。

 長女は、1日のほとんどを家の中でスマホを見て過ごしています。そのような長女に対し、母親は少しでも家事を手伝ってもらおうと促しているそうです。

 しかし長女は家事がうまくこなせません。風呂掃除を頼むと、手に洗剤のボトルとスポンジを持ったまま固まってしまい、料理を手伝ってもらおうとすると、包丁とまな板を前にしてぼーっと立ち尽くしてしまうのです。

 長女が言うには「頭の中でたくさんの手順が一度に湧き出してしまい、何から始めた方がよいのかが分からなくなってしまう。頭の中で手順がぐるぐるしてしまい、処理しきれずに体が固まってしまう」ということでした。

 母親も、長女がふざけているわけではないと頭の中では分かっています。それでも我慢の限界を超えてしまうと、つい長女に向かって「しっかりしなさい!」と声を荒らげてしまうそうです。

書類に記載すべき7つのポイント

 私は、母親の一連の話をメモした後、次のように説明しました。

「今お話いただいたことは、娘さんの日常生活の困難さを表しているといえます。そのようなエピソードをできるだけ多く、病歴・就労状況等申立書に盛り込むとよいでしょう。エピソードは、診断書の記載項目にある『日常生活能力の判定』に沿っている方が望ましいです。なお、日常生活能力とは主に次の7項目を指します」

(日常生活能力)
(1)適切な食事
(2)身辺の清潔保持
(3)金銭管理と買い物
(4)通院と服薬
(5)他人との意思伝達および対人関係
(6)身辺の安全保持および危機対応
(7)社会性

「さらに発達障害がある場合、病歴・就労状況等申立書は生まれたときから現在までの内容を記載するルールになっています。幼少期のエピソードは、娘さんよりもお母さまの方が覚えていらっしゃるでしょうから、その辺は娘さんと協力しながら作成するとよいでしょう」

「やり方は大体分かりました。娘と一緒に作成してみます。もし可能であれば、次回も浜田さんにも見てもらえると、娘も安心すると思うのですが…」

「娘さんの同意が得られれば、私の方で校正することもできます。大丈夫ですよ」

 それを聞いた母親は、ほっとしたような表情を浮かべました。