うまい文章を書くには、どうすればいいのか。ブックライターの上阪徹さんは「『いい』『すごい』といった形容詞を使うと、文章がダメになる。「事実」「数字」「エピソード(コメント・感想)」といった素材を使って書いてみてほしい」という――。

※本稿は、上阪徹『文章がすぐにうまく書ける技術』(日本実業出版社)の一部を再編集したものです。

イラスト=『文章がすぐにうまく書ける技術』より

■形容詞が文章をダメにしていた

駆け出しの採用広告のコピーライターが、真っ先にやってしまうキャッチコピーがあります。

「当社は、いい会社です」

たしかに、いい会社なのかもしれませんが、これでは何も伝わりません。

読む人は、職を探している人たちですが、このキャッチフレーズで転職しようという人はまずいないでしょう。

まったく具体性がないし、説得力もないし、どの会社にも言えてしまう。

ところが、新米コピーライターは、言葉こそが意味を持つと思い込んで「いい会社」に変わる表現=形容詞を一生懸命になって探そうとしてしまうのです。

たとえば、

「当社は、素晴らしい会社です」
「当社は、すごい会社です」
「当社は、立派な会社です」

しかし、これでもまったく伝わらない。形容する言葉が変わったに過ぎません。

実は形容詞の危うさとは、形容することで、むしろ意外にも伝わらなくなってしまうことにあるのです。

形容詞では、なかなか真意が伝わらない。このことに気づいておく必要があります。

■具体的な「事実」「数字」「エピソード」を探す

形容詞では、「いい会社」であることが、なかなか伝わらないわけですが、では、どうすればいいのか。

書き手が形容する言葉ではなく、具体的な「事実」「数字」「エピソード(コメント・感想)」に目を向けるのです。

たとえば、「いい会社」のように、きれいな形容詞でまとめようとせず、こんな内容を置いてみたら、どうでしょう。

「社長が毎月、社員を順番に食事に連れていってくれる」
「この5年、退職者はひとりもいない」
「入社3カ月で課長に抜擢された社員がいる」
「10年間、売り上げも利益もずっと右肩上がり」
「この会社に転職して本当によかった、と転職者の誰もが言っている」

どうでしょう。このほうが、よほど会社の魅力を伝えられるのではないでしょうか。

そしてこれらの「事実」「数字」「エピソード(コメント・感想)」こそ、実は「素材」そのものなのです。

ひねった形容詞を考えようとするよりも、「素材」をそのまま置いたほうが、よほど伝わる文章になる、ということです。

■形容するより「素材」をそのまま使ったほうがいい

採用広告の話に限りません。

「ものすごく寒い」

と書かれても、どのくらい寒いのか、実は読む側にはピンときません。では、こう書かれていたらどうでしょうか。

「温度計はマイナス3度を示していた」
「窓の外のツララは20センチにも達していた」
「一瞬で手がかじかむので手袋なしではいられない」
写真=iStock.com/Valeria Vechterova
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Valeria Vechterova

どうでしょう。「ものすごく寒い」と書くよりも、「事実」「数字」「エピソード(コメント・感想)」の「素材」をそのまま置いたほうが、よほど寒さが伝わるでしょう。

形容詞を使うよりも、「事実」「数字」「エピソード(コメント・感想)」を書いたほうがいいのです。それだけで、読み手は「ああ、すごく寒いんだな」とわかるのです。「ものすごく寒い」と書くよりも、よほどはっきりと。

ビジネスでよく出てきそうな形容詞を考えてみましょう。それを、どう「素材」で表現できるか。

・工場が大きい
「面積は10万平米」
「東京ドーム10個分」
「完成する商品は1日10万個」

・デザインが美しい
「色とりどりの丸テーブルがずらりと配置されている」
「天井からは和をイメージした50センチほどの大きさの木製の照明器具が下がっている」
「デザインを担当したのは日本建築界の巨匠・隈研吾氏」

・オフィスが立派
「窓ガラスはすべて曲面になっており、向こうには東京タワーが見える」
「すべて白のテーブル、白の椅子、白の床に統一されている」
「エレベーターを降りて踏み込んだカーペットは3センチは沈んだ」

文章にしなければならない、となったとき、こうした「素材」にしっかり目を向けて、メモしておくことです。

難しいことではありません。たとえば驚いたなら、間違いなく驚いた理由があるはずなのです。それをしっかり見て、メモする。この「素材」が文章を作るのです。

■「いい」「すごい」という形容詞の恐ろしさ

とりわけ「いい」「すごい」といった言葉には気をつける必要があります。なぜなら、日常的にあまりに簡単に使ってしまう言葉だから。

そして、しゃべるときには、実は表情だったり、身振り手振りだったり、いろいろな要素が加わってコミュニケーションをします。

したがって、こうした形容する言葉も、相手は総合的に受け止めることができる。

しかし、文章は文字だけなのです。「いい」「すごい」では、実はなんのことだかよくわからないのです。

「いい会社」「いい人」「いい取引先」「いい仕事」……。あるいは、「すごい会社」「すごく大きい」「すごく忙しい」「すごく難しい」……。

こうした言葉は、まず相手にはその「いい」や「すごい」が伝わらないと思ったほうがいい。これもまた、「事実」「数字」「エピソード(コメント・感想)」という「素材」で表現すべきなのです。

■すごく忙しい→もう20日も休みが取れていない

たとえば、こんな「素材」。

・従業員満足度が97%にも達している
・100人全員が「彼はいい人だ」と言った
・もう20年も優良取引先として連続表彰されている
・他の仕事の2倍の給料がもらえる
・従業員30万人を超えている
・有名な経済評論家が「これからの成長株だ」と語っていた
・コンサルティング会社の注目の会社で1位になった
・もう20日も休みが取れていない
・成功確率は10%もない、と研究員に言われた

いい、すごい、と「素材」と比較して、どうでしょう。どちらが読み手に伝わるでしょうか。形容詞を使うのではなく、「事実」「数字」「エピソード(コメント・感想)」を使ったほうが、間違いなく説得力があるのです。

いい、すごい、と書きたくなったら、「事実」「数字」「エピソード(コメント・感想)」に目を向けてみることです。そして、その「素材」こそを書くことです。

たしかに形容詞によって、情景をうまく描写する文豪もいました。

しかし、それができるのは、才能を持った特別な人たちだと私は思っています。凡人には同じことはできません。

しかも、あれは物語領域の話。ビジネスの領域とは違う。そんなことをする必要はないし、誰もビジネスの文章では求めていないのです。

■小学生の作文はなぜ幼稚なのか

形容詞を使わない、と意識することです。そうすれば、自然に「素材」に目が向きます。なんとか、いい形容詞をひねり出そう、見つけようという時間も必要なくなります。

そして、形容詞を使うよりもはるかに、読み手に伝えたいことを伝えられるようになるのです。

同時に形容詞の危うさは、文章を幼稚にしてしまうことにあります。

小学生の子どもたちの作文で、こんな典型例があるのではないでしょうか。

「今日は楽しかった」
「今日はおもしろかった」
「今日は気持ちよかった」

幼稚な文の元凶は、形容詞にあります。「楽しい」「おもしろい」「気持ちいい」。これも「いい」「すごい」と同じように、わかったようで、わからない言葉だからです。

よくわからない言葉は、文章を幼稚にしかねないのです(つまり、「いい」「すごい」が連発されている文章は、幼稚な文章になってしまうということでもあります)。

写真=iStock.com/Juanmonino
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Juanmonino

■文章を上達させるには「質問」が効果的

文章を書く仕事をしているので、ときどき「子どもの作文を上手にする方法はありますか?」などと聞かれることがあるのですが、そのときには、こんなアドバイスをしています。

「お子さんに質問をしてあげてください」と。

たとえば、「今日は楽しかった」と書こうとしていたら、「何が楽しかったの?」と聞いてあげるのです。

そうすると、「今日、外でお弁当を食べていたら、太郎くんのオニギリが芝生の上をコロコロと転がって落ちていったんだよ。2人で大笑いして、僕のオニギリを半分分けてあげた」なんて言葉が返ってきたりする。

まさに「事実」「数字」「エピソード(コメント・感想)」です。これをそのまま作文に書けばいいのです。

「おもしろかった」も「気持ちよかった」も、必ず子どもたちにこう思わせた「事実」「数字」「エピソード」があるはずなのです。それを引き出してあげて、書けばいい。

そうすると、子どもの作文を読む先生は、「ああ、楽しかったのね」「おもしろかったのね」「気持ちよかったのね」となる。

■形容詞は「読み手」の感想である

実は形容詞というのは、読み手が「ほー、そうだったのか」と思う感想なのだと私は思っています。

「楽しい」も「すごい」も「寒い」もそう。それを書き手がそのまま形容詞で書いてしまったら、興ざめではないでしょうか。

上阪徹『文章がすぐにうまく書ける技術』(日本実業出版社)

興ざめなことをするから、文章が幼稚になってしまうわけです。

そう感じるだけの、「事実」「数字」「エピソード(コメント・感想)」という「素材」こそを書かなければいけなかったのです。そうすることで、「読み手」は、「ああ、楽しかったんだな」「すごい会社なんだな」「寒かったんだな」ということがわかるわけです。

小学生はもちろん、作文の苦手な中学生や高校生、大学生にも「事実」「数字」「エピソード(コメント・感想)」の大切さを教えてあげるといいと思います。

形容する言葉を見つけなくていいんだ、「素材」を書けばいいんだという気づきは、文章のハードルを一気に下げるはずです。

そして同時に、文章が見違えるように変わっていくと思います。「素材」がしっかり書かれた、伝わる文章になっていくのです。

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上阪 徹(うえさか・とおる)
ブックライター
1966年兵庫県生まれ。89年早稲田大学商学部卒。ワールド、リクルート・グループなどを経て、94年よりフリーランスとして独立。雑誌や書籍、Webメディアなどで執筆やインタビューを手がける。著者に代わって本を書くブックライターとして、担当した書籍は100冊超。携わった書籍の累計売上は200万部を超える。著書に『マインド・リセット』(三笠書房)、『10倍速く書ける 超スピード文章術』(ダイヤモンド社)、『JALの心づかい』(河出書房新社)、『成城石井はなぜ安くないのに選ばれるのか?』(あさ出版)など多数。またインタビュー集に、累計40万部を突破した『プロ論。』シリーズ(徳間書店)などがある。ブックライターを育てる「上阪徹のブックライター塾」を主宰。
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(ブックライター 上阪 徹)