日本代表はドイツのサネを止められるか。風間八宏氏は「すべてを持った選手」と分析、最も警戒すべき「特殊なステップ能力」
第17回:レロイ・サネ(バイエルン/ドイツ)
独自の技術論で、サッカー界に大きな影響を与えている風間八宏氏が、国内外のトップクラスの選手のテクニック、戦術を深く解説。今回は、カタールW杯で日本が対戦するドイツのサネを取り上げる。粗削りだった左利きのアタッカーは、現在「すべてを持った選手に成長」と風間氏。日本にとって厄介な相手の特長と進化を紹介する。
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プレーゾーンが変わり進化しているいよいよ開幕が目前に迫ってきたカタールW杯。グループリーグ突破を目指す日本にとって、当然ながら、初戦のドイツ戦は極めて重要な一戦になる。
今大会の優勝候補にも挙げられる強豪ドイツは、日本のサッカーファンもよく知るワールドクラスを多数揃えるが、そのなかでも、ひとりでも局面を打開してしまうレロイ・サネは、日本のディフェンス陣が警戒をしなければならない危険な選手のひとりだ。
ドイツ代表のアタッカー・サネのプレーを風間八宏氏が分析
26歳になったサネが頭角を現したのは、10代でプロデビューを飾ったシャルケ時代だった。その後、2016年にイングランドのマンチェスター・シティに引き抜かれ、ジョゼップ・グアルディオラ監督の指導を受けたあと、2020年夏、ひと回り大きくなってドイツに帰還。現在は名門バイエルンの主軸として活躍する。
もちろん、2015年にデビューしたドイツ代表でも、サネはチームに欠かせない存在で、ケガさえなければ、間違いなくカタールW杯でも主役の座を務めることになるだろう。
風間八宏氏は、そんなサネの成長ぶりを長年見続けてきたが、とくに最近は、そのプレーぶりに成長の跡が見られるという。
「以前はウイングとしてプレーしていたので、サイドで待っている状態でボールを受けて、そこから仕掛けるかたちがほとんどでした。ですから、広い場所、ゆっくりな時間のなかでプレーするケースが多かったです。
しかし、最近は中央でプレーするようになって、狭い場所、速い時間のなかで自分のテクニックとスピードを発揮するようになった。とくにボールを受けるテクニックが格段に上がっていて、いつどこで受けるかの判断も速くて正確です。
加えて、無駄に動かないようになったので、ここぞというタイミングで突破をしかけることができる。相手の前に入るのではなく、相手の背中をうまくとれるようになっています。そういったプレーができるようになったのも、ボールを受けるテクニックが飛躍的に成長したからだと思います。
とにかくプレーゾーンが変わって、考える速さ、判断の速さも劇的に進化した印象ですね」
大きいステップと細かいステップを使い分ける典型的なウインガーから、中央エリアを主戦場とする危険なアタッカーへ。風間氏は、サネの進化をわかりやすく解説してくれたが、そもそもサネという選手は、どのような武器、特長を持っているのか。
「サネの最大の特長は、速さです。もちろん、単純に走るスピードも速いわけですが、もうひとつ速さを決める要素でもあるステップ、足の運びの速さも抜群です。しかもサネの場合、一歩の範囲が広いことで速さを生み、狭い場所では細かくステップを踏むことでも速さを生み出している。
普通は、歩幅の広さで速さを生み出す選手、ステップを踏むスピードが速い選手と、どちらかに分けられるものですが、サネはその両方ができる。その特殊な能力は、サネの大きな武器になっていて、だからこそ、中央の狭いスペースでもスピードを失うことはありません。
また、得意とされているドリブルをとって見ても、無駄なタッチがない。ボールに触らなくても相手を動せる点は、以前紹介したモドリッチに共通している部分でもありますね。
そしてもうひとつは、シュート。サネは、いつも上体をしっかり保ちながらプレーできる選手なので、シュートまでのスピードも速い。状況によって、大きいステップと細かいステップを巧みに使い分けられるので、シュート時のフォームもしっかりしていて、シュート自体に威力があります」
こうなると、日本のグループリーグ初戦がますます心配になってくる。速さとうまさを兼ね備え、しかも威力十分のシュートも武器とするサネを止めるためには、どうしたらよいのか。日本にとっては、重要な問題だ。
人数をかけても守れないレベル「サネが若い頃であれば、サイドでボールを受けてからプレーを始めるので、ドリブルを警戒するとか、ミドルシュートを打たせないようにするとか、止めるべきポイントをある程度は絞れたと思います。
しかし、現在のサネはすべてを持った選手に成長しました。以前に比べて最近はより一層相手を見ながらプレーできているので、どこでボールを受けようとしているのか、受けたあとにどうやって相手をはがそうとしているのかといった細かい部分にも、しっかりと対応しなければいけません。
それと、バイエルンでのプレーを見てもそうですが、相手が密集している中央エリアでも、フリーになれる術を身につけているので、人数をかけておけば守りきれるというレベルでもありません。そこがいちばん厄介です。
ですから、これはドイツ代表全般に言えることですが、自陣ペナルティーエリアに入って来られた場合、日本は相手選手をしっかり捕まえておく必要があるでしょう。つまり、ボールに振り回されないことが大事で、そのうえで、しっかり人を捕まえることを意識して、シュートコースもブロックしておくことです。
そういう意味では、できるだけ相手を自陣ペナルティーエリアに近づけないような戦い方ができるかどうか。極論すれば、そこがドイツ攻略の最大のカギになると思います」
ハンジ・フリック監督率いるドイツ代表では、主に4−2−3−1の左ウイングでプレーするサネ。当然、サネと対峙する日本の右サイドバックのパフォーマンスも重要になるが、チームとしてどのような戦略と戦術を持って、ドイツに挑むのかが、サネを封じることにもつながりそうだ。
決戦は、11月23日。果たして、どのような結末が待ち受けているのか。
レロイ・サネ
Leroy Sane/1996年1月11日生まれ。ドイツ・エッセン出身。シャルケのユースチームから18歳の時にトップチーム入り。20歳でマンチェスター・シティへ移籍し、4シーズンプレー。2017−18シーズンから2季連続で2ケタゴールを決めるなど活躍し、プレミアリーグ優勝に貢献した。2020−21シーズンからはドイツに戻り、バイエルンでプレーしている。ドイツ代表は2015年にデビュー。2018年ロシアW杯では惜しくもメンバー入りを逃し、今回のカタールW杯での活躍が期待されている。
風間八宏
かざま・やひろ/1961年10月16日生まれ。静岡県出身。清水市立商業(当時)、筑波大学と進み、ドイツで5シーズンプレーしたのち、帰国後はマツダSC(サンフレッチェ広島の前身)に入り、Jリーグでは1994年サントリーシリーズの優勝に中心選手として貢献した。引退後は桐蔭横浜大学、筑波大学、川崎フロンターレ、名古屋グランパスの監督を歴任。各チームで技術力にあふれたサッカーを展開する。現在はセレッソ大阪アカデミーの技術委員長を務めつつ、全国でサッカー選手指導、サッカーコーチの指導に携わっている。