大畑大介が注目する若手ラガーマンは伸びしろの塊。FL下川は「令和の大野均」、SO李は「驚くべき成長」
日本代表vsニュージーランド代表戦プレビュー
元日本代表WTB大畑大介氏の視点(後編)
10月29日、ラグビー日本代表(世界ランキング10位)は同4位の「オールブラックス」ニュージーランド代表と東京・国立競技場で激突する。
世界最高峰のラグビー大国を迎え撃つ日本代表のなかで、注目しておきたい選手は誰か。元日本代表WTB(ウィング)大畑大介さんに気になる若手、ベテランをそれぞれ挙げてもらった。
◆大畑大介の視点(前編)はこちら>>過去0勝6敗のオールブラックスから勝利を奪う秘策とは?
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今季ブレイクを果たした21歳の李承信
---- オールブラックス戦で注目している日本代表選手は?
「2019年W杯組のことを、僕は勝手に『シニアメンバー』と呼んでいますが、彼らは自信を持っているし、プレーのクオリティも高い。そのシニアメンバーにプラスして、FWではFL(フランカー)下川甲嗣(23歳/東京サンゴリアス)、BKではSO(スタンドオフ)李承信(リ・スンシン/21歳/神戸スティーラーズ)の若手に注目しています。
ふたりは代表に選ばれてから飛躍的に成長しています。まるで"伸びしろの塊(かたまり)"です。彼らがチーム内での立ち位置を確保していくと、今までいた選手との相乗効果でチーム力はさらに上がっていくでしょう。
下川のプレーは、オーストラリアA代表との3試合ですごく目に止まりました。彼は無尽蔵のフィットネスがあり、チームにエナジーを与えていました。痛いところでも体を張る選手で、僕らの年代で例えると均ちゃん(大野均)みたい。
ぜひとも下川には、『令和の均ちゃん』になってほしい! 下川のような選手がいると大きなプラスになるし、対戦相手に嫌なイメージも与えられる。こういった仕事人はチームに必要不可欠なんです。
一方、神戸の後輩でもある承信は、ワールドカップ1年前のタイミングで出てくるとは想像できませんでした。今年の春の段階では、まだ将来を見越しての代表選出だったと思います。
もちろん、タックルなどの改善点はあります。ですが、ここ数試合で驚くべき成長、自信を手に入れました。勢いのあるなかでトップレベルと対戦することは、彼にとって大きな経験になります。彼の爆発力を考えると、2023年ワールドカップに向けてどんどん起用してほしいです! 11月に行なわれるイングランド代表戦では23歳のSOマーカス・スミスとのマッチアップも楽しみですね。
大学を中退して神戸に加入した承信は、今の大学4年生と同い年の21歳。しかしながら落ち着きがあり、高いクオリティでチームの信頼も得ていると聞いています。昨季は、神戸のリーダーとしてチームメイトの元オールブラックスの選手がいるなかで、10番としてプレーできたことが大きいと思います。
そんな競争を勝ち上がってきたことで、さらに自信もついたことでしょう。この半年で大きな経験を積めたと思います。このチャンスをしっかりと掴んで、どんどん視野を広げていってほしい。このまま成長していけば、実績のある松田力也(埼玉ワイルドナイツ)もポジション争いで安心していられないのではないでしょうか。
---- 日本代表の司令塔争いは今後も過熱しそうでしょうか。
「承信だけでなく、日本代表にはそれぞれ色のある10番がいます。一番クオリティが高いのは現在のところ松田ですが、今はケガをしています。中尾隼太(ブレイブルーパス東京)はフィジカルとゲーム理解度が高く、山沢拓也(埼玉ワイルドナイツ)はファンをワクワクさせるパフォーマンスと結果を残しています。また、ベテランの田村優(横浜イーグルス)も控えています。
田村に司令塔のポジションを頼らざるを得ない時期が以前は長かったですが、現在は松田以下の3人がいい意味で競争している。来年のワールドカップで誰が中心となるかはわかりませんが、各々の選手がそれぞれチームの色を変えるので、まだまだ伸びしろがあります。
一方で世界の強豪国には、長くチームを支えている司令塔が存在しています。日本代表が今後トップレベルで戦っていくには、若い選手が中心になって10番を背負っていけば、安定的な力を発揮できるのではないかと思っています」
---- ベテラン勢では、チーム最年長34歳になるFLリーチ マイケル(東芝ブレイブルーパス)、同い年のFB(フルバック)山中亮平(神戸スティーラーズ)の奮闘も目が離せません。
「ふたりはさらに円熟味が増してきましたね! リーチはリーダーのポジションから解放されて、コンディションもよさそうです。自分だけにフォーカスできているのがポジティブに働いているのではないでしょうか。
この前、神戸の後輩にあたる山中と会いました、表情が明るかったですね。頭でイメージしていたとおりのパフォーマンスがしっかりできています。経験と豊富な引き出しの多い選手は、そこがリンクした時、強みをどんどん出せるので、この1〜2年はかなり期待できます」
---- ベテランになると、コンディションの調整は特に重要になりそうですね。
「今の日本代表の選手たちは全員、意識が高いアスリートです。昔の古きよきラガーマンのように、試合が終わったらお酒を飲んで杯を交わそう、という雰囲気はなく、試合が終わったらすぐに次の試合のことを考えています。
僕らの頃とは全然、違いますね(苦笑)。日本代表への求心力があり、選手たちは自分たちが何をすればいいのか、世界と戦っていくという意識が高く、OBとしてはうれしいかぎりです」
---- 2023年ワールドカップまで残り1年となったなか、日本代表はオールブラックス戦を皮切りに、11月には敵地でイングランド代表(世界ランキング5位)、フランス代表(同2位)と戦います。この3試合をどのような視点で見ますか?
「2019年ワールドカップ以降、チーム作りが難しい環境のなかで世界トップの強豪国と3試合もできる。現状、チームとして何ができて、選手の立ち位置がどこにあるのか、いろいろはっきりとわかる欧州遠征になると思います。今の立ち位置を知ることができる絶好の機会ですね」
---- 最後にOBのひとりとして、日本代表にエールをお願いします。
「僕は日々、日本代表を応援する人間です。日本代表は常に結果を求められますが、勝敗がどうあれ、今秋の強豪とのテストマッチ3戦があったからこそ課題が明確となって来年のワールドカップに活きた、という試合にしてほしい。
勝敗に一喜一憂するかもしれませんが、自分たちがやろうとしていたことがどれだけできて、どれだけの課題が出てくるのか、それを知ることが重要です。
特に今回のオールブラックス戦は、アタック、ディフェンスともに自分たちが持っているものを表現するには最高の相手です。勝敗に対して決して小さくなるのではなく、世界の強豪相手に、大胆に、持っているものを出しきってほしいですね」
【profile】
大畑大介(おおはた・だいすけ)
1975年11月11日生まれ、大阪府大阪市出身。東海大付属仰星高→京都産業大を経て、1998年に神戸製鋼へ入社。日本代表歴は1996年に初キャップを獲得し、通算58キャップを保有する。ワールドカップは2度(1999年・2003年)出場し、テストマッチ通算で世界最多69トライを記録。2011年に現役引退。2016年、ワールドラグビー殿堂入り。ポジション=WTB、CTB。身長176cm、体重82kg(現役時代)。