トライ王・大畑大介がラグビー日本代表の実力を分析。過去0勝6敗のオールブラックスから勝利を奪う秘策とは?
ラグビー日本代表vsニュージーランド代表戦プレビュー
元日本代表WTB大畑大介氏の視点(前編)
10月29日、ラグビー日本代表(世界ランキング10位)は同4位の「オールブラックス」ニュージーランド代表と東京・国立競技場で激突する。
過去の対戦成績は0勝6敗----。ワールドカップ優勝3回のオールブラックス相手に、まだ一度も勝ったことのない日本代表はどのように戦えばいいのか。世界最多のテストマッチ通算69トライを誇る元日本代表WTB(ウィング)大畑大介さんに話を聞いた。
※ ※ ※ ※ ※
4年前はオールブラックスに31−69で大敗した日本代表
---- 日本代表は9月から九州で合宿を重ね、10月はジャパンXVとしてオーストラリアA代表と3回対戦して1勝2敗(●22−34、●21−22,○52−48)。現状の日本代表をどう見ていますか?
「夏のシリーズではウルグアイ代表に連勝(○34−15、○43−7)しましたが、フランス代表に連敗(●23−42、●15−20)。2023年ワールドカップ・フランス大会に向けてあと1年あまり、コロナ禍の影響もあってサンウルブズがなくなり、例年の4年間の強化とは状況は違います。
新しい選手を見たい一方で、ある程度メンバーの絞り込みを始めないといけない時期だったので、チーム作りが難しかった。ただ、そんな苦しい状況のなかで、できることはやっていると思います。
だから、オーストラリアA代表の3試合では、若い選手や経験の浅い選手など多くの選手を積極的に使うよりも、チームの目指すべき方向、イメージを共有することに舵を取りました。オールブラックス戦に向けたメンバー選考、という意味合いもあったかと思います。
1戦目、2戦目は落としましたが、3試合目は勝ちにこだわったメンバー構成で狙いどおり勝てたことはポジティブな印象です。選手たちの表情も明るかった」
---- オーストラリアA代表との3戦で、日本代表にとってポジティブだったことは?
「強度の高い相手にできたことと、できなかったことがありましたね。まずよかった点は、しっかり得点を挙げられたこと。攻撃はデザインしたものが気持ちよくできていました。
また、偶然ではなく、練習を見ているかのように、自分たちがプランニングしたプレーで挙げた綺麗なトライが数多くありました。自分たちのアタックを遂行すればトップチーム相手でもスコアできることを明確に示せたと思います。
---- 一方でチームの課題はどうでしょう?
「オーストラリアA代表との3試合で見えた課題は、ゲーム終盤の戦い方ですね。これまで日本代表はどちらかというと終盤に巻き返すことが多かったのですが、80分間を戦うマネジメントも含めて、終盤も同じように戦うのではなく、エリアの取り方などリードしたなかでの戦い方がもっとうまくできたのではないか。
対してディフェンスは、春から取り組んでいるダブルタックルがしっかりできている部分もありました。しかし、時間が経つにつれて疲れもあり、1対2が1対1になってしまいラインブレイクされる場面も多々あった。練習では頭もクリアで体もフレッシュですが、試合というタイトな状況でストレスを抱えたなかで戦うと、また違ってきます。
ただ、1戦目、2戦目ともにリードをひっくり返されて負けたことはネガティブに見えますが、逆に言えば、どういうところを改善すべきか見えたので、それはポジティブな課題です。いずれにせよ、2019年ワールドカップ前と比べて世界トップチームとの対戦が少なく、経験は踏めていない状況ではあったので、日本代表の立ち位置がわかった3戦だったかなと思います」
---- いよいよ10月29日、日本代表は強豪との秋のテストマッチ3連戦の1戦目として「オールブラックス」ニュージーランド代表と対戦します(2戦目=11月12日イングランド戦/ロンドン、3戦目=11月20日フランス戦/トゥールーズ)。過去のオールブラックス戦を振り返ると、2013年には6−54、2018年には31−69でともに大敗しています。
「ワールドカップを1年後に控えた今、オールブラックス戦は日本代表にとってプラスでしかないでしょう。オーストラリアA代表との3連戦で自分たちの強みを再認識し、課題が見えたなか、欧州に行く前に世界一の攻撃力を誇るオールブラックスと対戦できることは大きいです。
ごまかしが効かない相手なので、日本は丸裸にされるでしょう。その結果、日本はこれからどこを強化するのか、補強するのかが明確に見えてくるので、すばらしいゲームになると思います」
---- 日本代表とオールブラックスの過去の対戦成績は0勝6敗。どうしたら勝つ流れに持っていけるでしょうか?
「アタックでは、自分たちがボールをキープした時にしっかりと得点を重ねること。ボールを相手に渡した時は、いかにプレッシャーをかけ続けられるかが大事。オールブラックスは前を向いてスペースを見つければ、ボールも人も動いてアタックを仕掛けてきます。日本としてはハイプレッシャーで相手に前を向いて判断させず、考える時間とスペースを奪っていきたい。
いずれにせよアタック、ディフェンスの両方で常にプレッシャーをかけ続けていかないと勝つことはできません。今年、オールブラックスがアイルランド代表とアルゼンチン代表に負けた試合では、相手のプレッシャーの前にもろさを見せていました。日本代表も80分間、プランを持って相手に一瞬の隙も与えず、同じような状況にもっていくことが必要です」
◆大畑大介の視点(後編)はこちら>>注目の若手ラガーマン。FL下川は「令和の大野均」SO李は「驚くべき成長」
【profile】
大畑大介(おおはた・だいすけ)
1975年11月11日生まれ、大阪府大阪市出身。東海大付属仰星高→京都産業大を経て、1998年に神戸製鋼へ入社。日本代表歴は1996年に初キャップを獲得し、通算58キャップを保有する。ワールドカップは2度(1999年・2003年)出場し、テストマッチ通算で世界最多69トライを記録。2011年に現役引退。2016年、ワールドラグビー殿堂入り。ポジション=WTB、CTB。身長176cm、体重82kg(現役時代)。