「こんなの馬鹿げている」。角田裕毅、5カ月ぶりの入賞でも苛立ち。なぜガスリーを先行させたのか
角田裕毅が、長いトンネルを抜け出した。5月の第6戦スペインGP以来、実に5カ月ぶりのポイント獲得を果たした。
「やっと獲れてよかったです。本当に長い間、ポイントが獲れていませんでしたから。アメリカでもたくさんの日本国旗が見えたので、本当にうれしかったですし、毎周エネルギーをもらっていました。少し日本GPみたいな雰囲気で走れました」
アメリカGPで9位入賞した角田裕毅だったが...
そのくらい、アルファタウリと角田には毎回のように、ミスやトラブルやPU投入ペナルティなど不運が降りかかってきていた。
もちろん、大接戦の中団グループのなかでマシン自体のパフォーマンスが乏しかったのも事実だ。ライバルたちが次々とアップデートを投入していくなか、アルファタウリは開発の歩みが遅く、停滞はすなわち後退となってしまっていた。
しかし、第17戦シンガポールGPで投入した新型フロントウイングの効果をようやく発揮させることができるようになってきた。今回の第19戦アメリカGP予選では2台ともQ2敗退となってしまったが、ピエール・ガスリーはブレーキトラブルがなければQ3進出が確実な速さを見せていた。
角田はギアボックス交換で19番グリッドスタートとなってしまい、厳しいレースになると思っていた。さらにスタートではクラッチの不調でアンチストールが作動し、大きく出遅れてしまった。だが、ミディアムタイヤを履いたマシンの感触は予想以上によく、角田は1周目で5台を抜いて14位で戻ってきた。
角田はチーム指示に猛反発「正直、厳しいなと思っていました。ペースもそんなに自信は持てていませんでしたし。ただ、走ってみるとミディアムがすごくよかったんです。そのおかげでスタート直後に何台ものマシンをオーバーテイクすることができました。ほぼすべての(オーバーテイクポイントの)コーナーで抜いていくことができたので、ポジティブでしたね」
そういう意味では、ミディアムタイヤを2セット残す戦略は正解だった。ガスリーはミディアムを1セットしか持っていなかったが、角田はミディアム、ミディアム、ハードと2ストップ戦略で、レースの大半を好感触のミディアムで走ることができたからだ。
さらに前方でランス・ストロール(アストンマーティン)とフェルナンド・アロンソ(アルピーヌ)が接触し、セーフティカー(SC)導入で7位ガスリー、8位角田というアルファタウリにとっては絶好の展開となった。
チームはここで、角田に「ガスリーには仕掛けるな」とチームオーダーを出した。角田はガスリーより温まりがよく、ペースも速いミディアムタイヤを履いていただけに、この指示に強く反発した。
SCからのリスタートに際して、チームメイト同士の接触はもちろん、後続に隙を突かれることを避けるためにも、この指示は決して間違いではない。問題は、リスタートを終えて順位が安定してもなお、アルファタウリがポジション維持を指示し、自由に戦ってもいいと指示したのが3周もあとになってからだったことだ。
そして、明らかに角田のほうがペースがいいにもかかわらず、ポジションの入れ換えを指示せず、ガスリーがSC中の違反で審議対象となっても、そして5秒加算ペナルティが出されてもなお、ポジション入れ換えのチームオーダーが出されることはなかった。
無駄なバトルをしている間に、前のセバスチャン・ベッテル(アストンマーティン)とのギャップは7周で7秒にまで広がってしまった。後方にはランド・ノリス(マクラーレン)、ミック・シューマッハ(ハース)が迫ってきた。このタイムロスはあまりに痛かった。
7秒のロスがなければ...「チームオーダーでポジションを維持しろと言われて、そこは少しフラストレーションも溜まりましたけど、落ち着いてその後のレース運びができたのはよかったと思います。あれがなければどれだけポジションを上げられたかはわかりませんけど、もうちょっといい状況でレースを戦うことができたと思いますし、そこはチームとしっかり話し合っていきたいと思います」
レース後の角田は憤りを抑えてそう語ったが、レース中は無線のやりとりから苛立ちが伝わってきた。フィニッシュ直後にも「こんなの馬鹿げている。信じられない。いつまでもこんなことはやっていられないよ」とチームに伝えている。
アルファタウリの戦略判断は正しかったのか
単純計算でも、この7秒のロスがなければ、5秒前でフィニッシュしたケビン・マグヌッセン(ハース)を抜くことができたはずで、ノリスやベッテルとの戦いももう少し可能性があったはずだ。いずれにしても、ガスリーを優先したアルファタウリの戦略判断は誰のためにもなっておらず、つまりチームの利益につながってはいない。
同じようなシチュエーションの末に同士討ちとなった第10戦イギリスGPでの問題も、根本的な原因はチーム戦略にあった。あの時にその根本原因としっかり向き合わなかったツケが、こうして再びチームの利益を毀損したことになる。カナダ、鈴鹿に続いて、ここでも予選でブレーキのウォームアップに問題を抱えたように、同じミスを繰り返し成長できていないのは、失敗の本質的理由と向き合うことができていないからだろう。
もちろん、チームとして角田よりもタイヤマネジメントに優れたガスリーを先行させておきたいと考えるのも理解できる。第2スティントはハードとミディアムでタイヤが異なりペースも違ったが、次のピットストップはほぼ同じタイミングで、第3スティントはふたりともハードタイヤ。戦略の違いはほとんどない。そういう状況下で、角田のレースを優先しようとチームに判断させるだけの信頼が、少なくともタイヤマネジメントやレースペース関してはガスリーほど築けていないということを表わしている。
残り3レースでの飛躍に期待それでも苛立ちを抱えたままのレース後半に、角田はその苛立ちをドライビングには影響させなかった。冷静なタイヤマネジメントでタイヤを保たせ、レース終盤には周冠宇(アルファロメオ)とアレクサンダー・アルボン(ウイリアムズ)を抜いて10位に浮上してみせた。このレース運びがチームの信頼を高め、それを続けていくことで、来季につながっていく。
「1ポイントは小さいですけど、それでも大きな意味があります。中団グループの争いはかなりタイトですし、こうやってポイントを重ねていくことに意味があると思っています。この流れを残りの3レースにつなげていければと思います」
あまりに長すぎたトンネルは、ようやく抜け出した。入賞圏へのビジョンも再び見えてきた。鈴鹿でひと回り大きく成長した角田の前進は、まだまだ続いていく。