ビットコインマイニングによる相対的な環境負荷は牛肉の生産を上回っており持続不可能だという研究結果
仮想通貨のビットコインはマイニングによる環境へのダメージが問題視されており、環境保護団体によりビットコインの消費エネルギー削減を迫るキャンペーンも展開されています。新たにニューメキシコ大学の研究チームが、ビットコインの市場価値と気候ダメージの相対的な割合を算出し、「ビットコインマイニングは牛肉の生産よりも相対的な気候ダメージが大きい」という研究結果を発表しました。
https://www.nature.com/articles/s41598-022-18686-8
Technology: University of New Mexico researchers find Bitcoin mining is environmentally unsustainable | EurekAlert!
https://www.eurekalert.org/news-releases/966192
Mining Bitcoin Climate Impact Similar to Beef, Crude Production - Bloomberg
https://www.bloomberg.com/news/articles/2022-09-29/mining-bitcoin-climate-impact-similar-to-beef-crude-production
Bitcoin's Climate Impact Is Bigger Than Beef Farming - And It's Only Getting Worse : ScienceAlert
https://www.sciencealert.com/bitcoins-climate-impact-is-bigger-than-beef-farming-and-its-only-getting-worse
ビットコインは記事作成時点での時価総額が50兆円を超える第1位の仮想通貨であり、2022年4月には採掘量が1900万BTCに到達しました。一方でビットコインは、ブロックチェーンの取引承認に「プループオブワーク(PoW)」という仕組みを採用していることから、マイニングによる消費電力が膨大になり環境負荷が大きいことが問題となっています。そのため、「ビットコインの暴落は気候変動を遅らせる」とまで専門家に言われています。
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そこで、ニューメキシコ大学の経済学准教授を務めるベンジャミン・ジョーンズ氏らの研究チームは、2016年1月〜2021年12月のビットコインマイニングによる気候ダメージを算出し、経済的なコストに換算して市場価値との割合を比較しました。なお、2021年12月の時点でビットコインの時価総額は約9600億ドル(当時のレートで約110兆円)であり、仮想通貨市場に占めるシェアは41%でした。
調査の結果、2016年の時点では1ビットコインあたりの二酸化炭素排出量は0.9トンでしたが、2021年には1ビットコインあたり113トンになり、実に126倍に増加していたことが判明。2021年には1ビットコインあたり1万1314ドル(約180万円)相当の気候ダメージが生じており、調査期間中の総気候ダメージは120億ドル(約1兆7000億円)に相当すると研究チームは述べています。さらに2020年5月には、ビットコインの市場価値1ドル(約140円)あたりの気候ダメージが1.56ドル(約220円)に達し、マイニングによる気候へのダメージが市場価値を上回りました。
調査期間全体におけるビットコインの気候ダメージは市場価値の平均35%であり、1ドル相当のビットコインを採掘すると35セント(約50円)相当の気候ダメージが生じる状態でした。ビットコインは価値の保存手段として重宝されていることから「デジタルゴールド」と呼ばれることがありますが、35%という割合は金採掘の4%を大きく上回っています。また牛肉生産の33%よりも高く、天然ガス採掘(46%)および原油からのガソリン生産(41%)とそれほど変わりません。これらの数値はあくまで相対的なものであり、産業ごとの総排出量を反映したものではありませんが、産業の持続可能性を評価する上で役に立つものです。
また、研究チームは2020年におけるビットコインマイニングの消費電力は75.4テラワット時(TWh)であり、同年のオーストリア(69.9TWh)やポルトガル(48.4TWh)よりも電力使用量が多かったと指摘。ジョーンズ氏は、「ビットコインマイニングでは、石炭や天然ガスなどの化石燃料を主として膨大な量の電力が使用されています」「2016年から2021年の間に、ビットコインが1ビットコインの価値以上に気候へダメージを与えている期間がいくつか見つかりました」「これは持続可能性の観点からすると非常に問題です」と述べ、ビットコインマイニングは持続可能ではないと主張しています。
2022年に入ってビットコイン価格が急落していることから、マイニング業者はマシンのより効率的な運用を余儀なくされています。そのため、ビットコインマイニングによる温室効果ガス排出量はやや削減傾向にあり、2022年の総排出量は2021年より14.1%減少すると推定されているとのこと。
また、マイニング業者は地熱・水力・風力・太陽光などの再生可能エネルギー源の利用を進めているほか、アメリカ政府も環境に優しいグリーンエネルギーの使用を仮想通貨業界に推奨しています。
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また、仮想通貨の時価総額ランキングで2位につけているイーサリアムは2022年9月に、消費電力を99%以上削減するという大型アップデート「The Merge」を実行。これはブロックチェーンのシステムを消費電力の大きいPoWから「プルーフオブステーク(PoS)」へ移行するというもので、同じことがビットコインでも行われれば大幅な環境負荷の削減につながります。ビットコインがPoSへ移行する可能性は低いとみられていますが、研究チームは「ビットコイン業界がPoWから供給経路をシフトするかPoSに移行しないなら、この種のデジタル希少財は規制される必要があるかもしれません。そして規制の遅れは、おそらく地球規模の気候ダメージの増加につながるでしょう」と結論づけました。
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