酒井宏樹、ショルツ、伊藤敦樹…浦和レッズをACL決勝へ導いた頼もしき「後方部隊」
DF酒井宏樹が土壇場で見せた、鬼神のごときプレーがチームを救った。
AFCチャンピオンズリーグ準決勝。浦和レッズは前半11分にFW松尾佑介のゴールで幸先よく先制したものの、その後はなかなか決定機を作り出すことができずにいた。
後半55分にPKを与えて同点に追いつかれ、勝負が延長戦に持ち込まれると、延長後半116分には、CKから虚を突かれて逆転を許した。
試合時間は残りわずか。浦和は必死の反撃に出るも、全北現代の堅い守備にはね返されるばかり。それどころか、相手のクリアボールが俊足のFWムン・ソンミンに渡り、全北現代が得意のカウンターからチャンスを作ろうか、というその瞬間だった。
いち早くボールに寄せた酒井は、深く、鋭く、力強いスライディングタックルでピンチの芽を摘んだばかりか、体を完全に投げ出しながらもボールを奪いきり、マイボールにしてMFダヴィド・モーベルグにつないだのである。
それだけではない。
ボールを受けたモーベルグが、右サイドからドリブルで上がっていくと、すぐに立ち上がった酒井は、これを追走。外からオーバーラップし、モーベルグからのパスを受けて送ったクロスが、結果的に同点ゴールを呼び込んだ。
「正直、そのシーンはあまり覚えていない。ただただ負けたくない気持ちだけで走っていた。ピッチのなかの11人がその思いを共有できていたので、あれがゴールにつながった。決まってよかったという気持ちだった」
殊勲の右サイドバックは、試合後も決して偉ぶることはなかったが、彼が見せた一連の動きは、まさにワールドクラス。質、強度ともに高い極上のプレーだった。
結局、2−2でPK戦までもつれ込んだ試合は、GK西川周作が相手のキックを2本止め、浦和が3−1で勝利。2019年以来、3シーズンぶりの決勝進出という最高の結末を迎えることとなった。
全北現代との準決勝で攻守において際立った活躍を見せた浦和レッズの酒井宏樹
土俵際でチームを踏みとどまらせた酒井のプレーに象徴されるように、今回浦和が勝ち上がった3試合(決勝トーナメント1回戦、準々決勝、準決勝)を振り返ると、DFやボランチの貢献度の高さが目立っていた。
守備でチームを支えた、という意味ではない。もちろん、それも含まれてはいるが、むしろ際立っていたのは、攻撃における働きである。
例えば、左センターバックを務めた、DFアレクサンダー・ショルツ。
「いつも攻撃には貢献しようとしているが、全北はかなりタフで、しっかりとした組織を作り、よく走るチーム。いつものようにうまく試合を運ぶことができなかった」
激闘をそう振り返ったデンマーク出身のDFは、「準決勝ということで、どの選手もミスを恐れ、それがさらに緊張を呼ぶような状況になった。そこがキーポイントだった」と見るや、果敢に左サイドからボールを持ち出し、攻撃の起点となるべく、鋭い縦パスを送り続けた。
あるいは、2ボランチの一角を担った、MF伊藤敦樹。
「前の試合(準々決勝)で(足が)つったダメージが残っていて、テーピングしながら(の出場)だったが、そのなかでもやるしかないと思っていた」
本人の言葉どおり、今回のACL3試合では再三効果的な攻め上がりを見せていた伊藤には、それと引き換えにかなりの疲労が溜まっていた。
だが、「最近は前が空けば、前に(ボールを)運ぶことを意識している。自分が運ぶことで周りも動き出す」と語る伊藤の姿勢が、好調・浦和の高い得点力を支えていることは間違いない。
今季J1では、なかなか勝ち点が伸ばせず苦しんでいた浦和が、最近になって右肩上がりで調子を上げてきたのは、背番号3が牽引してきたからだと言ってもいいほどだ。
自分が足を止めれば、チームがチームとして機能しなくなる――。その思いが伊藤を奮い立たせていたとしても不思議はない。
「今年の前半戦よりも、スプリント数や長距離のランニングが増えているが、そういう負荷にまだ自分の体がついていけていないところが正直なところだし、課題でもある」
伊藤自身の口からは反省の言葉も聞かれたが、その一方で、「こういう試合のなかで、(足が)つるまで戦うことができたのは、次の成長につながる」と、手応えも口にする。
そんな頼もしい"後方部隊"の働きを象徴していたのが、準々決勝BGパトゥム・ユナイテッド戦の4点目だろう。
後半72分、最終ラインでボールを保持したショルツが、前からプレスをかけようとする相手選手の間に"スルーパス"を通すと、ボールはボランチの伊藤へ。
自陣でパスを受けた伊藤が、そのままドリブルで敵陣ペナルティエリア手前まで持ち込み、MF江坂任へと渡したボールがMF明本考浩へとつながり、ダメ押しのゴールが決まっている。
この試合で伊藤の足がつり、交代を余儀なくされたのは、その数分後のこと。完全に足がつってプレー続行不可能となる直前まで、これだけ質の高いプレーを見せていたということになる。
鮮やかにスルーパスを差し込んだショルツもさすがなら、そのタイミングを逃さず、大きく前にボールを運んだ伊藤もさすがだった。
いずれも中2日の日程で3試合を戦った、今回のACL決勝トーナメント。埼玉スタジアム開催という地の利を得た浦和が手にしたのは、決勝進出という結果だけではない。
チームとしての戦い方に厚みが生まれ、それが結果を呼び、さらには選手に自信を与えている。
そんな手応えを確かなものにした、意義ある3試合ではなかったか。