清水エスパルスは、第20節(7月6日)を終了した時点でJ1リーグ18チーム中、最下位だった。だが、そこから6試合を経過した現在、順位を7つ上げて11位にまで上昇。自動降格ラインまで6ポイント差と、数字的には油断できる状況にないが、その戦いぶりには、悲観材料より楽観材料の方が溢れているように見える。

 この夏の移籍期間中に清水は、ヤゴ・ピカチュウ、乾貴士、北川航也らを獲得。この移籍を成績上昇の理由とする声は多い。実際これを機に、アタッカー陣の層は厚くなった。チーム力が底上げされたことは確かである。

 しかし、さらに直接的な理由として考えられるのが、CFチアゴ・サンタナの得点力だ。前節、柏レイソル戦(8月20日)で挙げた先制弾が今季10ゴール目で、上田綺世(元鹿島アントラーズ、現セルクル・ブルージュ)、レオ・セアラ(横浜F・マリノス)とともに、得点王争いのトップに並んだ。

 シーズン前に右足を骨折。昨シーズン13ゴールを挙げ、得点ランキングで5位だったチアゴ・サンタナの出遅れは、清水にとって痛手だった。調子を上げてきたのは代表戦の中断を挟んだ6月以降で、チアゴ・サンタナは10試合で7ゴールの活躍を演じている。直近4試合でも3ゴールと、勢いが止まらない。

 データ面から清水の好調を探ろうとすると、もうひとつ明快な理由が浮かび上がる。アシストランキングを眺めれば目に留まる、現在7アシストを挙げ、3位タイにつける選手の存在だ。

 直近4試合では4アシスト。山原怜音は、今季筑波大から清水入りした新人の左サイドバック(SB)だ。昨季も特別指定選手として清水でプレーしているので、正確には2年目の選手となるが、筆者は彼こそがいま、Jリーガーの中で最も輝く日本人選手だと考える。


現在アシストランキングで3位につけている山原怜音(清水エスパルス)

 今が旬の選手である。チアゴ・サンタナは直近の4試合で3ゴールを挙げたと先述したが、山原はその3ゴールすべてにアシスト役として絡んでいる。FC東京戦(8月7日、0−2で勝利)では、左サイドでバングーナガンデ佳史扶と対峙すると、果敢に縦に突っかけ、タイミングよく抜き去ると、左足でセンタリングを送り込んだ。これを頭で決めたチアゴ・サンタナも見事だったが、山原が見せた本職のウイング顔負けのドリブル&フェイントのアクションも、上級なプレーとして記憶される。

キックの正確さはJリーグでも随一

 その前のサガン鳥栖戦(7月31日、3−3)では2アシストを記録した。まず後半12分、相手の縦パスを自軍エリア内でカット。すかさすドリブルで左のライン際を60メートル強、疾走した。競りかけてきた相手をまとめて2人、縦にかわしながら。その折り返しがMF白崎凌兵のゴールを誘ったのだが、このプレーなどはもはや十分、日本代表級と言えた。

 もう1本は後半41分、チアゴ・サンタナに送った右足の正確なロングパスだ。2−3だったスコアを3−3の同点としたアシストである。1本目が0−2のスコアを1−2にしたアシストだったので、山原こそが、チームが0−2の劣勢から3−3の引き分けに持ち込めた立役者、マン・オブ・ザ・マッチだった。

 山原を語る時、特筆すべきポイントは大きく分けて2つある。まずは右足の正確なキックだ。正確そのもので種類も豊富。パンチ力もある。現在のJリーグで、一番優秀なプレースキッカーだと筆者は見る。

 前節の柏戦では、山原がCKからチアゴ・サンタナのヘディング弾をアシストした。これぞまさにピンポイントクロスと言いたくなる針の穴を通すようなボールだった。したがって清水にとってCKは、最大のチャンスになっている。強ヘッダーはチアゴ・サンタナ(184センチ)だけではない。立田悠悟(191センチ)もいれば、鈴木義宜(184センチ)もいる。こうした決め手は本来、降格ラインをさまようチームにはないものだ。現状、清水は降格ラインと6ポイント差しかないものの、楽観視したくなる理由だ。

 山原のキックに話を戻せば、浦和レッズ戦(7月16日、1−2)では、直接FKも蹴り込んでいる。ゴール正面からズドンとGK西川周作の頭上を打ち抜いた、目を見張るような豪快な一撃だった。

 先述の鳥栖戦でも、衝撃的なキックを披露している。逆サイドで構える右SB片山瑛一に、優に50メートル以上はあろうかというロングキックをライナーで、寸分の狂いなく決めている。片山の2メートルほど右には相手のマーカーがいた。普通ならそこには絶対に蹴らない状況だった。だが、キックの正確性に自信があるのだろう、山原は涼しい顔でスパンと蹴った。しかも片山のマーカーから離れていくような、ほんの少しスライスがかかった弾道で。びっくり仰天とはこのことだった。

なぜ日本代表に招集しないのか

 清水でキックの名手と言えば、澤登正朗を思い出す。その昔、日本代表合宿を取材した時、FKの練習で誰よりも枠の隅を捉えていたキッカーが澤登だった。コントロールショットに関して、彼は当時、日本一の精度を誇っていた。そのフォームに山原は似ている。

山原には澤登を彷彿とさせるコントロールショットに加え、パンチ力もある。170センチの澤登より6センチ低い164センチの小柄な選手であるにもかかわらずだ。さらに言えば馬力もある。スピードもある。

 ドリブルにも長けている。右利きの左SBなのに縦に強い。深々とゴールライン際まで侵入し、左足で折り返す。それが自然にできる。身体の向きを変え、ステップを踏みながら縦抜けを図る。その成功率の高さに魅力を覚える。浦和戦では、日本代表の有力なスタメン候補選手である酒井宏樹にも、縦抜けの勝負で勝っていた。

 柏戦では、サイドではなく中央をドリブルで突き、GKに近距離から直撃シュートを浴びせている。乾からリターンパスを受けるとスラロームのようなドリブルで、ひらりひらりと計3人かわし、左足を振り抜いたのだ。

 キック、ドリブル、そしてもうひとつ長所を挙げるならば、中盤的なセンスだ。周囲との切れ味鋭いインサイドキックをまじえながら、状況をうかがうゲームメーカー的な賢さがある。清水で言うならば、守備的MF松岡大起と絡むと、プレーのレベルがグッと上がる。日本人のよさとは何かを見るようなリズム感が生まれる。

 森保一日本代表監督は、国内組で臨んだ東アジアE−1選手権にさえ、山原を招集していない。使ってみたいと思わないのだろうか。とりわけ大柄なドイツ人が嫌がりそうな選手である。小兵の魅力がたっぷり凝縮された左SB。長友佑都がその旗手だった時代は終わりを告げていると、森保監督には気付いてほしいものである。