旗手怜央の欧州フットボール日記 第7回  連載一覧>>

初めて海外で迎えるシーズン開幕/前編

スコットランドのセルティックでプレーする旗手怜央。初めての欧州サッカー、欧州生活で感じた、発見、刺激、体験を綴っていく。今回は、初めて海外リーグの開幕を迎えるにあたって、日本と違っていたプレシーズンの過ごし方や、昨季の課題を踏まえ、意識して取り組んでいるプレーを明かした。

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試合を多く取り入れた強化

 セルティックの一員として初めて迎えるプレシーズンは、想像していたものとは少し違っていた。日本で経験していたシーズン前のいわゆる"キャンプ"とは異なっていたからだ。


新シーズン奮闘中の旗手怜央。開幕戦ではゴールも決めた

 日本でのオフを終え、スコットランドに戻ってシーズンインすると、チームはグラスゴーで1週間くらい練習したのち、オーストリア遠征に向かった。日本ではキャンプというと"練習"が多いが、セルティックは"試合"を多く取り入れ、実戦を通じてチームの強化を図っていく赴きが強かった。

 川崎フロンターレ時代はキャンプ期間中にも筋トレを行ない、身体をもう一段階、アップさせていたけど、セルティックでは練習試合が週2回程度の間隔で組まれていたため、身体の強化に費やす時間を設けるのはなかなか難しかった。それだけに、オフ期間中に個人的なトレーニングをやっておいてよかったと、シーズンインしてからなおさら実感した。

 また、チームの始動に当たっては、アンジェ・ポステコグルー監督からチームコンセプトや戦術についての説明があるかと思っていたが、就任2年目ということもあってか、改まったミーティングの機会はなかった。

 練習試合の前や後に映像を見ながら、「こういうプレーを増やしていこう」「こういうシーンを作り出そう」といった説明はあったものの、シーズン中の流れと、大きく変わることはなかった。それだけポステコグルー監督が実戦を重視していると理解できた。

「ボールを止める位置」と「ターン」

 かく言う自分は、プレシーズン初戦のSCウィンナー・ヴィクトリア戦、続くSKラピード・ウィーン戦に先発出場し、初戦ではゴールを決めることもできた。だが、その後は体調を崩してしまい、チームがオーストリアから移動するタイミングで、ひと足先にグラスゴーへ帰還することになった。

 とはいえ、戻ってからはすぐにトレーニングを再開した。体調的には万全とは言えなかったが、チームのトレーナーと一緒に、試合を意識して走るようにしていた。

 その結果、7月20日に行なわれたレギア・ワルシャワ戦に間に合うと、20分には先制点を決めることもできた。結果を残していただけに、好調と見てくれた人もいたかもしれない。だけど、あの時は前半45分間プレーしただけでも息が上がり、ゼーハー、ゼーハーしていた。

 不測の事態が起きたこともあって、前置きが長くなってしまったけど、プレシーズンで意識して取り組んだのが、「ボールを止める位置」と「ターン」だった。

 昨冬、セルティックに加入した自分は、チームに合流してすぐにリーグ戦を戦った。当時は環境に慣れるのに精一杯なのもあり、改めて自分の「間合い」とヨーロッパにおける自分がプレーできる「空間」を把握しておきたかったのだ。

 どのくらいの位置ならば、(相手に奪われずに)ボールを止めることができるか。

 どのくらいの(相手との)距離感ならばターンして前を向くことができるか。

 2列目でプレーする自分は、ゴールに対して背を向けてパスを受ける機会や場面も多く、再確認しておく必要があった。

 これまで年代別代表などでも、ヨーロッパや南米といった、いわゆる海外の選手たちと試合をする機会はあった。だけど、単発や短期間での経験だったため、距離感やスピード感を知ることはできても、そこに順応する術(すべ)を身体に染み込ませる、感覚として植えつけるまでには至っていなかった。時間が経てば、その間合いや速さを忘れ、どうしても現状に慣れてしまうところがあった。

 フレンドリーマッチを重ねていくなか、個人的に試行錯誤していくと、その距離感とスピード感をつかめるようになった。これくらいのスペースがあれば、狭くても前を向ける。この位置取りならば、相手に接触されずにターンできる、と......。

自分にボールが集まってくるようになった

 また、距離感を把握できた結果、自分のプレーも変わり、顔を出す場所も変わった。

 あるタイミングでボールを受けると相手に潰されてしまう距離がわかったため、その状況ではパスを受けず、次のタイミングで顔を出すことを意識したのだ。

 すると、昨季終盤は自分を通過していたボールが、自分を経由するかのように集まってくるようになった。コンディションが戻り、自分の運動量が増えたのも一因としてはあるが、明らかにチームメートが自分を探し、ボールを集めてくれるようになった。

 また、そこには自分の距離やタイミングだけでなく、もう一つ意図して取り組んだ働きかけがあると実感している。
(後編「自分の言葉で「意志」や「意図」を伝える」>>)

旗手怜央
はたて・れお/1997年11月21日生まれ。三重県鈴鹿市出身。静岡学園高校、順天堂大学を経て、2020年に川崎フロンターレ入り。FWから中盤、サイドバックも務めるなど幅広い活躍でチームのリーグ2連覇に貢献。2021年シーズンはJリーグベストイレブンに選ばれた。またU−24日本代表として東京オリンピックにも出場。2021年12月31日にセルティックFC移籍を発表。今年1月より、活躍の場をスコットランドに移して奮闘中。3月29日のカタールW杯アジア最終予選ベトナム戦で、A代表デビューも果たした。