南野拓実が最も輝けるポジションはどこか。右サイドでは魅力半減、日本屈指の能力は「中央」でこそ生きてくる
今シーズンからモナコに加入した日本代表の南野拓実が、ついに第3節RCランス戦(8月20日)でリーグ・アンの舞台でデビューを飾った。だが、現地メディアの評価はおしなべて厳しいものだった。
たとえば、フランス最大のスポーツ紙『レキップ』がこの試合の南野につけた採点は、10点満点中の2点。この試合の後半72分に2枚目のイエローカードをもらって退場処分となった右SBヴァンデルソンと並ぶ、チーム内最低評価である。
南野拓実はモナコで確固たるポジションを掴めるか
「この夏に最も期待されていた日本人は、これまでのところ最も期待を裏切っている選手だ。4分のヴァンデルソンのクロスボールをコントロールできず、16分にはゴールに近づいたものの、シュートはGKサンバに防がれ、その後はおじけづいてしまった」
たしかに『レキップ』紙が評価したとおり、この試合の南野がゴールチャンスを逃し、周囲の期待を裏切ったことは間違いなかった。モナコのフィリップ・クレマン監督にとっても、4失点を喫しての敗戦(1−4)は今年1月に途中就任して以来、初めての経験だ。
そのダメージもあってか、試合後の会見で南野について聞かれると、「彼はまだゴールを決めていないので、自信に欠ける」とコメント。ほかの主力選手も同様にまだベストな状態ではなく、もっとコンディションを上げていかなければいけないと語っている。
とはいえ、中長期的に見た場合、この試合の南野のパフォーマンスはそれほど悲観すべきものではなく、むしろ今後に向けた希望の光がいくつか見て取れたのも事実。仮にシュートがネットを揺らしていれば、単純に評価は180度変わっていたはず。こういった厳しい評価は期待の裏返しでもあり、必要以上に深刻に受け止める必要はないだろう。
モナコ入りして公式戦3度目の出場となったこの試合の南野は、4−4−2の左MFとして先発。南野がこのポジションでプレーしたのは、プレシーズンマッチのポルト戦以来、公式戦では初めてのことで、すでに敗退を喫したチャンピオンズリーグ予選3回戦のPSV戦の2試合では、4−4−2の中盤右サイドを担当していた。
南野は本来フィニッシャー基本的にフィニッシャーの南野にとって、右サイドではプレーの選択肢が狭まる傾向がある。縦に突破してクロスを供給するタイプではないうえ、内側でボールを受けてもシュートコースをつくりにくい。
そのため、PSV戦ではチャンスに絡むシーンがほとんどなかった。唯一、左SBカイオ・エンリケから斜めに入ったロングフィードをDFライン中央の背後で受けたシーンが第1戦であったが、左足で放ったシュートは枠を外れている。
一方、今回のRCランス戦のように左サイドでプレーする場合は、内側にポジションをとっても右足でシュートを狙うためのアングルを作りやすい。実際、この試合でも、相手ペナルティエリア内で右SBヴァンデルソンからのアーリークロスを受けるシーンを作っている。残念ながら、コントロールが難しいワンバウンドのボールだったためにシュートに持ち込めなかったが、クロスが合えばそのまま右足でシュートを狙えたシーンだった。
また、前半34分には、右ボランチを務めたMFジャン・ルーカスからのロングフィードを、DFの背後に斜めに入った南野がペナルティエリア内で受けるシーンもあった。南野の動き出しと、それを見逃さなかったジャン・ルーカスのパスが光ったこのシーンは、相手3人に囲まれたことでゴールチャンスとはならなかったが、南野の特長をチームメイトが理解していることが見てとれた。
結局のところ、これらのプレーからもわかるように、フィニッシャーである南野はゴール前で勝負すべき選手に見える。ただ、ハードワークによる守備的貢献度も含めてサイドでも器用にプレーできるため、いつの間にか前所属のリバプールでも、日本代表でも、サイドプレーヤーとしてのイメージが強くなっている印象は否めない。
しかし、南野が日本代表で最も輝いていた2018年森保ジャパン発足時を思い出せばわかるように、ペナルティエリア内でプレーする南野は、フィニッシャーとして日本屈指の能力を発揮していた事実がある。それを考えると、様々なチーム事情はあるにせよ、近年の南野は持ち味を発揮できるポジションから遠ざかっていることになる。
南野が魅せたポジティブ要素では、どうすればモナコで、中央のポジションを掴み取ることができるのか。
4−3−3(4−1−4−1)を基本布陣とする日本代表は別としても、新天地モナコではそのチャンスは必ずおとずれるだろう。サディオ・マネ、モハメド・サラー、ジョタ、フィルミーノなど、世界屈指のクオリティを持つアタッカーが揃っていたリバプールではさすがに厳しいだろうが、モナコにはそこまで傑出した選手はいない。
そういう意味で、この試合でチーム最大の得点源であるフランス代表ベン・イェデルと近い距離でプレーした際、お互いのよさを引き出し合える可能性を示したコンビネーションプレーを2度ほど見せたことは、南野にとってポジティブな要素だった。
あるいは、シュートをブロックされた16分のシーンも、南野がペナルティエリア内で相手を外してシュートポジションに素早く入り込めることを示したシーンであり、これを繰り返せば、ゴールの可能性は高まるはず。指揮官がその特性を見逃すこともないだろう。
そもそもモナコに加入する段階で、この2年間で阿吽の呼吸を築いたベン・イェデルとケヴィン・フォラントの間に割って入ることが簡単ではないのはわかっていたこと。しかも、リーグ・アン独特のスピードとリズムに馴染むまでにはそれなりの時間が必要であることも、ある程度は想定していたはずだ。
だからこそ、まだ開幕間もないこの時期に焦る必要はない。即戦力として迎え入れられた南野ではあるが、レギュラーを約束されて加入したわけではなく、あくまでも挑戦者として、自分が最も輝けるポジションを奪わなければいけない立場にある。
そしてそのためには、少しずつ自分の特長を発揮しながら、ゴールとアシストという前線の選手に求められる"数字"を積み重ねる必要がある。それができれば、いずれ2トップやトップ下のポジションを奪えるはずで、そのプロセスなくして南野がモナコで輝きを放つことは考えにくい。
PSG戦で何を示せるのか?果たして、これからどういったプロセスを経て、南野が中央のポジションを掴み取るのか。そこに、今後の興味が注がれる。
次の第4節の相手は、開幕3試合で17ゴールをマークして早くも無双状態にあるパリ・サンジェルマンだ。ローテーション的に南野はベンチスタートの可能性もあるが、注目が集まるその大舞台で、南野は自分の何を示せるのか。
日本のサッカーファンにとっては、見逃せない試合になりそうだ。