AFCチャンピオンズリーグ(ACL)の前戦、決勝トーナメント1回戦でジョホール・ダルル・タクジム(マレーシア)に5−0と大勝した浦和レッズ。準々決勝で対戦したのは、タイリーグの2020−21シーズン覇者、BGパトゥム・ユナイテッドだった。

 東南アジアのサッカーが近年、急速な進歩を遂げていることは事実である。だが、決勝トーナメントの重要な局面において、2試合連続して対戦するとなると、浦和のクジ運のよさを感じずにはいられない。同じく準々決勝で全北現代に敗れたヴィッセル神戸。決勝トーナメント1回戦でそのヴィッセル神戸に敗れた横浜F・マリノスと比較すると、それは鮮明になる。しかも今大会、浦和の試合はふだん本拠地として使用する埼玉スタジアムをメイン会場にして行なわれている。

 ホームの利。さらに言うならば調子もいい。Jリーグ過去5戦で浦和が収めた4勝1敗(勝ち点12)という戦績は、全18チームの中でナンバーワンだ。チャンス到来とはこのことである。

 実際、キックオフ直後から決定機は訪れた。岩波拓也のロングフィードを受けた1トップ松尾佑介が、相手に走り勝ちゴールを決める。VARのチェックが入り、ゴールは取り消しになるも、このワンプレーでスタンドはいけいけムードに拍車がかかる。11分、今度はペナルティエリア内で松尾が倒される。相手の手がその肩にかかっていたことは事実ながら、主審のジャッジはノーファウル。さらに25分、左ウイング関根貴大が蹴り込んだミドルシュートも、VARでオフサイドが認められ、ノーゴールとなった。


浦和レッズの好調ぶりを語るのに欠かせない存在の松尾佑介

 浦和にゴールがいつ生まれてもおかしくないシーンが連続して訪れたが、サッカーには流れがある。そうこうしていると、今度はパトゥムがよいサッカーを見せ始める。昨今のタイのサッカーは侮れない。長足の進歩を遂げていることを実感させる、質の高いプレーに目を奪われた。

 そこで頑張ったのは関根だった。32分、左のライン際からドリブルで切れ込むと、中央に斜めのパスを送り込んだ。合わせたのは右ウイングのダヴィド・モーベルグ。切れ足鋭い左足キックで相手ゴールを揺るがした。追加点はその10分後(前半42分)。岩波がCKを頭で合わせ2−0とした。

魅力的な小泉佳穂・松尾佑介のコンビ

 後半が始まるとパトゥムが盛り返す。好感度の高いサッカーを再度、タイのアウェーチームは披露。試合そのものはそうした意味で面白かった。4−0という結果を聞けば、緊張感に欠ける試合内容を連想するが、この間にパトゥムが1点でも返していれば、試合はもつれた可能性がある。

 浦和に3点目が生まれたのはパトゥムが前向きになりすぎた瞬間だった。後半20分、その強引とも言える縦パスをMF伊藤敦樹がカット。その足で持ち上がり、1トップ下で構える小泉佳穂へのラストパスとしたのである。試合が決まった瞬間だった。

 今季前半、引き分けが多く、勝ち点が伸びずに下位を彷徨っていた浦和だが、この日が訪れることは何となく予想できた。日本代表級の選手は酒井宏樹ひとりにとどまるが、それに次ぐ選手がどこよりも多くいるチーム。監督(リカルド・ロドリゲス)の采配もあるレベルに達している。平均点の高いチームだと認識していた。

 なかでも最近の好調を語る時、外せない選手が松尾で、ウインガーの彼を1トップで起用する監督のアイデアが、奏功しているように見える。もう少し言うならば、1トップ下で構える小泉とのコントラストに新鮮なインパクトを感じる。

 身長は松尾が170センチで、小泉が172センチである。一方の売りがスピード感あふれるドリブルで、もう一方は球持ちのいい技巧派だ。両小兵のこの緩急に相手チームは幻惑されている。ありそうでなさそうなコンビなのだ。

 昨季、リカルド・ロドリゲス監督は、小泉と、シーズン途中、柏レイソルから獲得した江坂任を同様な格好で並べている。ストライカーではなく、長年トップ下周辺でプレーしてきた江坂を0トップ気味に据え、小泉と前線でコンビを組ませ、こちらを感激させたものだ。だが、松尾・小泉も負けていない。松尾はウインガーとしてよりもよく見えるから不思議だ。褒めすぎを承知で言えば、マイケル・オーウェンである。

 だが、浦和の1トップには、他にも真打ちと言うべき選手がいる。キャスパー・ユンカーだ。この日も後半21分、松尾に代わり投入されている。ロドリゲス監督は同じタイミングで、さらに江坂を小泉に代えて入れている。ユンカーと江坂を縦に並べたのだ。1トップと1トップ下は、後半のなかばからまったく別のセットに取って代わることになった。

 そこに浦和の魅力を見た気がした。1トップあるいは1トップ下のいずれかを残し、軸を維持しながら手を加えるのではない。まるで毛色の違う新しいセットを前戦に据える。選手交代5人制の時代に適したスタイルだと言える。

 後半27分に挙げた4点目の得点者は、途中交代で左ウイングに入った明本考浩だったが、彼にシャレの利いたラストパスをアシストしたのは江坂だった。監督の引き出しの多さを、相手のやる気をすっかり削ぐようなこの4点目に見た気がした。

 左右両ウイングが形作る、確かなフレーミングのなかで、前線2人が多彩な関係を組む浦和のサッカー。日本代表がもっと追求すべきアイデアでもある。

 それはともかく、ACL準決勝・全北現代戦を楽しみにしたい。浦和が千載一遇のチャンスを迎えていることは確かである。