5月に行われた楽天モバイルの会見に登壇した、楽天グループの三木谷浩史社長(撮影:尾形文繁)

「最初は大盤振る舞いしないとシェアを取れなかったが、これからは適正な売り上げを上げる方向に大きく舵を切った」。楽天グループの三木谷浩史社長は8月上旬、オンラインで開いた2022年1〜6月期の決算会見で楽天モバイルについてそう語った。

楽天モバイルの契約回線数(MVNO除く)は2022年6月末時点で477万と、3月末と比べて14万減少した。四半期ベースで契約数が減少するのはキャリア事業参入以来、初めてのこと。楽天によると、2022年4〜6月期の解約者の8割が、料金支払いが発生しない「0円ユーザー」だったという。

競合キャリアへの流出が顕著に

三木谷氏が冒頭で「大盤振る舞い」と表現したのは、まさにこの0円ユーザーへの取り組みだ。楽天は2020年4月の本格参入以来、データ使用量1GB(ギガバイト)以下の基本料金が0円となるプランやキャンペーンを展開し、契約数を上積みしてきた。


そんな中、楽天モバイルは5月中旬、最低基本料を0円から1078円(税込み)に引き上げると発表した。10月末までは別のキャンペーンやポイント還元で実質的に無料期間が続くものの、発表直後からユーザーの離脱が相次いだ。

こうした動きは競合キャリアの追い風になっている。ソフトバンクの宮川潤一社長は8月上旬の決算会見で「0円プラン廃止の発表後は楽天モバイルへの転出が減り、転入が増えている」と明かした。NTTドコモやKDDIも同様に流入が増えている。

また、低価格プランが豊富なMVNO(仮想移動体通信事業者)への流入も増加している。日本通信の福田尚久社長も「楽天モバイルから月額基本料290円プランへの転入が急増した」と語る。MVNO最大手のIIJも、6月時点で契約数が112万に上り、近年最高ペースで契約数を伸ばしている。

ただ、そもそも0円プランの廃止に伴うユーザー減自体に驚きはない。三木谷社長自身も「これまでまったく使わず、ずっと0円だった人もいる。一定の離脱はしかたない」と語る。むしろ、今後重要となるのはユーザーの離脱を下げ止めると同時に、ドコモなど主要キャリアと同じ土俵にしっかりと立つことができるかどうかだ。

直近では、力を入れてきた4Gの基地局整備が一巡しつつある。2022年6月末時点では、人口カバー率が97.6%に達した。都市部を中心に、国内の主要エリアはほぼ網羅しつつある状況だ。

それに伴い、地方顧客の開拓が視野に入ってくる。楽天は自社でカバーしきれていないエリア・地点において、KDDIに利用料を支払って、回線を借り受けるローミング契約を交わしている。この費用が重いため、ローミングエリアの利用者にはデータ利用量を最大5GBまでとしている(自社エリア内の利用者は3278円でデータ利用無制限)。

首都圏など都市部を基盤としてきた楽天モバイルだが、地方部に自社エリアを拡大できれば、契約者を上積みできるとみているわけだ。今後も地方部などで基地局建設を継続するほか、「9月にも通信衛星のロケットを打ち上げ、日本全国をカバーできるようにする」(三木谷社長)。また、通信がつながりにくい屋内や地下空間などには専用基地局を設置して対応しているという。

切望するプラチナバンドの割り当て

主要キャリアと戦ううえでもう1つ重要なポイントが「プラチナバンド」をめぐる動きだ。楽天モバイルは新規参入事業者ということもあり、国から割り当てられている周波数帯が少ない。そこで同社が割り当てを強く求めているのがプラチナバンドだ。

プラチナバンドは障害物を越えてつながりやすく、広範囲をカバーするのに適していることから、エリア整備をするうえで優位性の高い700〜900MHz周波数帯のことだ。NTTドコモ、KDDI、ソフトバンクが長らく継続して割り当てられており、楽天モバイルも割り当てを目指している。

これまでは、電波の周波数免許は、一度割り当てられたら各社とも更新して使い続けるのが基本だった。が、2022年6月に改正電波法が成立したことで、総務省の審査を経れば別の事業者に割り当てることが制度上できるようになった。

現時点で楽天モバイルにプラチナバンドが割り当てられるかは不明だが、それを求める同社にとって再割り当ての仕組みが整ったのは大きな一歩と言える。

目標達成時期は明言せず

戦ううえでの環境整備と同時に、自社の強みを生かせるかも大事な点だ。2022年10月に法人向けの携帯通信事業を開始する。楽天はグループ全体で約40万社の取引先があるが、そのうち10万社以上は楽天モバイルへの切り替えを見込めると試算しており、契約数を伸ばすきっかけになりうる。


楽天グループは、モバイル事業で2023年中の単月黒字化を目指している。モバイル事業は今後、地域別の特性を生かした広告やイベント実施などにより、契約獲得を進める方針だ。

今回の決算会見で、三木谷社長は将来的に楽天モバイルの契約数を1200万まで増やすという目標を初めて明かした。電気通信事業者協会の調査(2022年6月末時点)によると、楽天の競合キャリアの回線数は、NTTドコモが8524万、KDDIが6167万、ソフトバンクは4873万。それらに比べるとまだ少ないものの、現状比では2倍以上となる計算だ。

ただ、1200万契約の達成時期について問われた三木谷氏は明言を避けた。達成の見通しを見極めるうえでは、プラチナバンドをめぐる動きや独自の営業施策の展開がカギを握りそうだ。

( 高野 馨太 : 東洋経済 記者)